見出し画像

メガネ感覚の新型VRゴーグル「VIVE XR Elite」メタバース原住民が「かけて」みたらVR睡眠に最高だった

先日CESで発表され話題となったメガネ感覚の超軽量VRゴーグル「VIVE XR Elite」を発売前に特別に被る、いや、「かける」ことができた。本記事では、大ヒット中のメタバース解説本『メタバース進化論(技術評論社)』の著者であり、HTC公式VIVEアンバサダーにも任命されている筆者「バーチャル美少女ねむ」が実際に普段使いする上で気になるポイントを徹底的に深掘りして解説する。黎明期のソーシャルVRで毎日長い時間を過ごすヘビーユーザー、いわゆる「メタバース原住民」のひとりである筆者だからこそ気づいた「メタバースに革命を起こす」ポイントとは…!?

※本記事は2月11日に「リアルサウンド」様に寄稿させて頂いたものを、許可を得て自分のnoteに転載しています。「Yahoo!ニュース」様にも転載されました。

「VIVE XR Elite」とは

「VIVE XR Elite」は2023年1月にアメリカ・ラスベガスで行われた「CES 2023」でHTCが発表した新型ハイエンドVRゴーグルだ。単独で動作する「スタンドアロン」性と、物理現実と仮想現実(VR)を融合する「MR(Mixed Reality、複合現実)」体験や高解像度フルカラーパススルー機能を重視した、筆者が「スタンドアロンMR機」と呼んでいるタイプの最新デバイスだ。エンタメだけでなくビジネス利用も想定されており、各種アプリケーションとセットで提供される。

VIVE XR Elite(後頭部にバッテリーユニットを付けた状態)

※最新VRゴーグルのタイプ種別考察記事:結局VRゴーグルはどれを買えばいいのか 手を出したいけど増えすぎて選べない人のための超絶詳しい“分類マップ&解説” - ねとらぼ

バッテリーを外した「メガネモード」では273gと「6DoF+PCVR対応のフルのVR体験」が可能な高性能VRゴーグルとしては考えられない程の超軽量となっている。また、このタイプとしては比較的低価格であったことも話題となった。さらに焦点調整により眼鏡ナシで利用ができる機能も搭載している。PCVRは有線・無線双方の接続に公式対応しており、軽量ながら「VRChat」などソーシャルVRも存分に楽しむことができる。

VIVE XR Elite(メガネモード)

価格 : ¥179,000 (税込)
解像度 : 1,920 x 1,920 px(片目) 約4K(両眼)
視野角(FOV): 最大110°
リフレッシュレート : 90 Hz
駆動時間 : 最大2時間(バッテリー動作時)
重量 : 約625g → バッテリーを外した「メガネモード」だと 273g
焦点調整で眼鏡ナシ利用可
※2月15日まで事前予約受付中

VIVE XR Elite スペック

※HTC公式サイト:VIVE XR Elite - 折りたたみ型オールインワンXRヘッドセット | VIVE 日本

実食:実際に被ってみた

これがまだ日本に数台しかないという「VIVE XR Elite」の実機だ。今回、HTC NIPPONで発売前に特別に被らせてもらうことができた。普段筆者が使っているVIVE Pro Eyeと比べるとふた回り程小さく、サングラスと言うとさすがに言い過ぎだが、スキーのゴーグルのような印象を受けた。

VIVE XR Elite(後頭部にバッテリーを付けた状態)
VIVE XR Elite(後頭部にバッテリーを付けた状態)

後頭部のバッテリーユニットの上部にUSB-C端子がある。

USB-C端子 - VIVE XR Elite

スピーカーはメガネの柄にあたる部分に内蔵されている。3.5mmジャックなどはないので、自前のヘッドホンやイヤホンを使いたい場合は接続方法を検討する必要がある。

スピーカー - VIVE XR Elite

正面下部に見えるのがフルカラーパススルーの為のカメラだ。上部は深度センサーで、現在は有効化されておらず、今後のシステムアップデートで利用可能になるとのことだ。

カメラ構成(正面) - VIVE XR Elite

側面には、インサイドアウトトラッキングのためのカメラが、前方と横方向に向けて、左右合計で4基搭載されている。

カメラ構成(側面) - VIVE XR Elite

左上部には電源ボタンと音量ボタンがある。

電源ボタンと音量ボタン - VIVE XR Elite

コントローラーはVIVE Focus 3と同じものが同梱されている。

コントローラー - VIVE XR Elite

後頭部のダイヤルを回すと締め付け具合を調整することができる。最大でここまで広がり、かなり頭が大きめの人でも利用可能だ。

限界まで広げた状態 - VIVE XR Elite

同梱されるオプションで左右の柄を渡す形で頭頂ストラップを付けることができ、これを付けると頭頂部でも本体重量を支えることができる。個人的には、締め付けをやや緩めにしてこのストラップを利用するのが長時間利用にはよいのではないかと感じた。

頭頂ストラップ - VIVE XR Elite

超軽量「メガネモード」に変形してみた

「メガネモード」への変形を実際に試させてもらった。まずは、右側の柄の外側に伸びているUSB-Cのハブを外す。

メガネモードへの変形 - VIVE XR Elite

続いて、左右の柄を外して後頭部のバッテリーユニットを分離する。柄の内側のストッパーを指で軽く押し込むと簡単に取り外すことができた。

メガネモードへの変形 - VIVE XR Elite

最後にメガネモード用の柄を取り付けて完成。かなりしっかりしていて、初めてでも短時間でガジェット感覚で楽しくガチャガチャ変形させることができた。ハードの剛健さは、さすがHTCと言ったところだ。

メガネモードへの変形 - VIVE XR Elite

実は前方の本体部分にも小型のバッテリーが内蔵されており、「ホットスワップ」と言って、プレイを継続したまま同じ要領で後部バッテリーユニットを別のものに交換することが可能だ。つまり、電池を交互に充電しながらスタンドアロンで無限にVRが楽しめてしまうのだ。フル充電で最大2時間稼働することと併せて、長時間利用するヘビーユーザーには非常に嬉しいポイントだ。

メガネモードを被った状態はこちら。モデルはHTC NIPPON猪原(いはら)氏にお願いした。メガネモードでは、もはや「ゴーグルを被る」というより「メガネをかける」という表現がふさわしい。従来のVRゴーグルでは考えられないような軽量感が写真からも伝わるだろう。

メガネモードを「かけた」HTC NIPPON猪原氏 - VIVE XR Elite

ちなみに、試してみたところ、メガネモードでも頭頂ストラップを付けることができた。

メガネモードに頭頂ストラップ - VIVE XR Elite

レンズ回り・クッション外して洗える

レンズ回りはこのようになっていて、クッション部分を取り外して洗えるようになっているので衛生的だ。このあたりも普段遣いするユーザーへの配慮が感じられて好印象だ。

レンズ回り - VIVE XR Elite
クッションを外した状態 - VIVE XR Elite

眼鏡ナシで利用できる焦点調整機能

左右のレンズ上部についているのが焦点調節のダイヤルで、「0」から「6」まで無段階で左右独立に焦点距離を細かく調整することができる。これにより、視力にもよるが眼鏡ナシでの利用が可能になる。参考までに、普段2.75の度のコンタクトレンズを使っている猪原氏は「6」のMAXの状態でコンタクトなしで問題なく利用できているとのこと。この機能はVIVE Flowに搭載されていたものの発展版らしい。逆に本体と目の間の隙間が狭いので、眼鏡との併用は難しそうだ。本体の焦点調整で足りない人向けに、専用の追加レンズなどがいずれサードパーティから発売されるかもしれない。

レンズ回りの構造 - VIVE XR Elite

本体下部右側に見えるのは瞳孔間距離(IPD)調整用のレバーだ。レンズの右脇にはUSB-Cの端子があり、おそらくここにオプションで将来発売される予定だというアイトラや顔トラ用のパーツを追加接続できるのだろう。

オプションでアイトラ・顔トラに対応

「アイトラ(=アイ・トラッキング)」や「顔トラ(フェイシャル・トラッキング)」というのは、眼の動きや顔・口の動きをリアルタイムにアバターに反映して、表現力や没入感を劇的に高める技術だ。VIVEシリーズでは、筆者が普段使っている「VIVE Pro Eye」がアイトラを標準搭載しており、オプションの「VIVEフェイシャルトラッカー」で顔トラも導入可能だ。

※「顔トラ」解説記事:アバターの顔と完全連動!!! 顔トラのススメ

歪みのない高精細パススルー体験

実際に被って各種ゲームやVRChatを試させてもらったが、全く問題なくプレイできた。解像度は同じく4KのQuest 2などと同程度の印象だ。視野角(FOV)は最大110°でQuest 2より広く、筆者が普段使っているVIVE Pro Eyeとほぼ同じ感覚だった。

重さは、約770gある筆者のVIVE Pro Eyeと比べて約1/3の273g。フルのVR体験ができるにも関わらず頭が羽根のように軽いのはとても不思議な感覚だ。

パススルー映像。正面で両手を広げているのはHTC NIPPON政田氏 - VIVE XR Elite

フルカラーパススルー機能は、被ったまま周囲の映像を目で見ているのと同じようにカラーで見ることができる。単眼なので立体映像ではないのだが、高精細でかなり綺麗だと感じた。かぶったままキーボードの操作をしたり歩くことができ、いちいち脱ぐ必要が全く無くなるため長時間ゴーグルを被って日常生活を送るヘビーユーザーには嬉しい機能だ。

経験的にパススルーは映像の表示位置に現実とのズレがあると違和感が出やすいのだが、歪みがほとんど感じられない自然な映像だったのが印象的だった。性能の限界を探るため、敢えて視界のぎりぎり端の方までコントローラーを持っていっても視界に表示される位置と実際の位置がずれることがなく、違和感のないシースルーとMR体験のためにかなり細かいチューニングが施されているのを感じた。

現実をアップデートするMR(複合現実)機能

MR(Mixed Reality、複合現実)とは物理現実と仮想現実(VR)を融合した体験を生み出す技術のことだ。MR性能を試すためにペイントソフトで空間にサインを書いてみたが、現実世界に魔法のペンが実装されたような感覚だった。

パススルー映像。MR空間に描かれた筆者のサイン - VIVE XR Elite

無線接続はWi-Fi 6で接続を試させてもらったところ、遅延を全く感じることなくVRChatなどをプレイできた。さらに新規格のWi-Fi 6Eにもアップデートで対応予定とのこと。USB-Cで有線接続した場合は電源もUSBから取れるが、18Wの電源が必要とのことだった。

「VR睡眠」に最高では!?

筆者がまっさきに思いついたのが、これは「VR睡眠」に最適なマシンなのではないか、ということだ。

「VR睡眠」とは、VRゴーグルを被ったまま仮想世界で複数のユーザーが擬似的に一箇所に集まり一緒に眠る行為のことだ。修学旅行のように、寝ている間も他者と一緒にいる多幸感を得ることができ、現実で知らない相手とでも安全に同じ場所で睡眠をとることができる。「VRChat」などソーシャルVRのユーザーの間では完全に一般的な行為として定着しており、中には毎日VR睡眠をするような猛者も存在する。

※「VR睡眠」解説記事:「VR睡眠」とは何か? メタバースなら毎日が修学旅行気分!?

「VR睡眠」で問題になるのが、通常VRゴーグルは後頭部に突起物があるため体勢が安定しずらいことだ。このため、巨大なビーズクッションに頭をめり込ませて寝るなど、みな涙ぐましい努力をしている。ところが、VIVE XR Eliteのメガネモードならば、後頭部にパーツが一切存在しないため、このように自然に寝ることができるのだ。

VR睡眠をするHTC NIPPON猪原氏 - VIVE XR Elite

バーチャル美少女である筆者は肉体を持たないため、猪原氏に無理を言ってモデルになってもらい、実際にVR睡眠をして撮影させてもらった。このように、通常の枕で自然にVR睡眠を行うことができる。

VR睡眠をするHTC NIPPON猪原氏(全身) - VIVE XR Elite

さらに、寝返りを打ってもらった。

寝返りを打つHTC NIPPON猪原氏 - VIVE XR Elite

柄が細いため、このように横向きに寝た状態でも問題なくVR睡眠を行うことが可能だった。つまり、バーチャル空間で美少女になって、ありとあらゆる寝相を自由に楽しんだり、鑑賞されることができるのである。まさにVR睡眠界に革命をもたらすマシンであると言って間違いないだろう。

寝返りを打つHTC NIPPON猪原氏(アップ) - VIVE XR Elite

ちなみに、当然ながらHTC公式の見解としては「本体に負荷がかかるような姿勢による睡眠時の利用や度を超えた長時間利用は推奨とは言えない」とのことだった(笑)。

ヘビーユーザーの期待にも応えられるデバイス

結論として「VIVE XR Elite」は長時間利用・普段遣いへの配慮がしっかりとされた、ヘビーユーザー目線で見ても非常に完成度の高いデバイスだと感じた。

一点、今回は短時間しか被っていないので全く問題にならなかったが、メガネモードは軽量で非常によいものの、左右から締め付ける形で保持するため、長時間プレイした場合に頭が痛くならないのかはやや気になったところだ。もしかしたら、バッテリーのない軽量な後頭部ユニットのようなオプションがあってもいいのかもしれない。

また、筆者はライトハウスによる高精度なフルトラ(フルトラッキング、全身の身体の動きをアバターと連動させる技術)を好んで使っているので、組み合わせて使いやすいようにライトハウス対応版のVIVE XR Eliteもぜひ開発してほしいと思った。

ともあれ、超軽量のデバイスで長時間快適にプレイしたいユーザーには間違いなくおすすめのひとつになりそうだ。コロナ禍の影響もあって現在ソーシャルVRのユーザー数は大きく増加しており、VRChatでは直近3年でユーザー数が5倍以上に拡大している。本機のようなヘビーユーザーの期待に応えられるデバイスの登場が、メタバースの世界をさらに押し広げていくことに期待したいところだ。

※メタバース総人口参考記事:国内外で急上昇する“メタバースの総人口” バーチャル美少女ねむが各種統計データをもとに解説|Real Sound

関連記事:新世代VRゴーグル分類マップ

本記事で登場した「VIVE XR Elite」をはじめ、ぞくぞく登場する新世代VRゴーグルについて、独自の分類に基づきこちらで分かりやすく解説している。

新世代VRゴーグル分類マップ

参考図書:『メタバース進化論(技術評論社)』

バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論(技術評論社)』は、メタバースに興味を持った幅広い読者の方を対象に、現在のメタバースの真の姿、そしてその革命性をわかりやすく伝える「メタバース解説書の決定版」である。自身も黎明期のメタバースで暮らす"メタバース原住民"の一人である著者・VTuber「バーチャル美少女ねむ」が、自分自身の体験、数多くのユーザーへのインタビュー、そして全世界のユーザー1,200名を分析した大規模調査「ソーシャルVR国勢調査」を元にメタバースのリアルを明らかにする、世界初の「仮想世界のルポルタージュ」である。

本記事で紹介したVRゴーグルやトラッキングなどのVR(バーチャルリアリティ)技術についても、より詳しく紹介している。


note / Twitter / YouTubeでメタバースの興味深い文化について発信していますので、ぜひ「フォロー」や記事の「いいね」をお願いします。頂いたサポートはメタバースでの生活費や取材費として活用させて頂きます。