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文体の舵をとり、物語の海を行く(レビュー)

機会があって、『文体の舵をとれ』(アーシュラ・K・ル=グウィン. 株式会社フィルムアート社)のレッスンをひととおりやっていた。そして、先日全ての練習問題を終えた。今回は、『文体の舵をとれ』をやってみようかと思ってる人に向けて、通しでやった雑感や役立ったこと、いまいちだったことなどを書いておく。

↓練習問題と、その回答の一覧↓

内容について

本書で紹介していることには、2つの性質があるように思う。
ひとつは、文章をわかりやすくするために意識したほうが良いこと。意識的にそれらを実践できるようになるための練習問題が付属している。例えば、「句読点を正しく使って、意図したとおりに文章を伝えるようにしよう」というような章では、句読点を全く使わずに文章を書いてみる練習問題がある。あるいは、「人称と視点はぶれないようにしよう」という章では、あえて文章の途中で視点を変えてみる練習問題がある。


もうひとつは、文章=「語り」の技法の紹介。文章の性質や物語構造が読者に与える印象について紹介している。例えば、あえて長ったらしい文章を書いてみたり、逆に簡潔にしてみたり。そうした技法を練習問題で実践することで、自分の普段書いている文章の癖を見つめなおし、「語り」の技法として『舵をとる』ことを目指している。
また、練習問題の前後には必ず著者による実例の紹介があり、参考になる。
もちろん、前者と後者は重複する部分があり、最終的には両方を使って、内容の詰まった物語を作っていくことが大目標だ。

また、巻末には本書を使用した合評会のやり方なども書いてあるのが興味深い。小説を書く仲間などでやってみると楽しいかもしれない。

よかった点

練習問題や紹介されている実例を通して、改めて自分の文章を見つめなおし、それを整える指針を知ることができた。
(特に、形容詞や副詞を省いたり、文章をがっつり削ったりする課題は、勉強になった。だいたいの文章は、もっと省けるし、省いても伝わる)

また、文章は「語り」なので、音読してみることの有効性も実感した。文章は必ず読者の内言で読み上げられるので、そこで心地よく(あるいは、ひっかかりなく)読み上げられるようにするのはとても大事だ。うまい具合にいけば、「語り」に魔術的な魅力を持たせることもできるだろう。自分はまだその域には達していないが。

「語り」の演出技法という面だと、多くの作者がミスしがちな箇所である、視点(POV)の問題であるとか、<説明のダマ>問題、<焦点>の話も取り上げていたのがよかった。詳細は本書を参照してほしいが、ここは小説を書く上で何度も立ちはだかる問題なので、あらためて意識することができてありがたい。

小説を書き、それを削ったり推敲したりする時に、「こういうところが変になっていないだろうか」「こっちの書き方のほうが伝わりやすいだろうか」と判断するための基準や改良の技法をインストールできた気がする。それが『文体の舵をとる』ことなんじゃないだろうか、と思う。

いまいちだった点

実例がわかりづらい:翻訳の関係なのかわからないが、「この文章がすごい」としてとりあげられている実例を読んでみても、時代がかったり、慣れない文体だったりして、いまいち「すごさ」が伝わりづらかったりする。マネするのもけっこう難しい。
英語と日本語の違いで意図が伝わりづらい:時制や構文を限定する練習問題などは、英語と日本語の性質の違いから、何をどうやったらいいのかがわかりづらくなっている。なんなら、英語でやってしまったほうがわかりやすかったかもしれない。
扱ってることのレベル感が凸凹:基礎的な文法的な整合性の話と、応用的な語りの技法による演出の話、あるいはその両方にかかる話が、順番が前後して紹介されるので、練習問題の意図が伝わりづらい部分がある。

まとめ

一部伝わりづらい箇所やわかりづらい箇所があるものの、全体として「語り」を洗練させるという方向に向いており、実際に練習問題をやってみると様々なことに気がつける。意識せずに流れるままにしている文章を、意識して『舵をとる』ところにもっていくのは、有意義な試みだと思う。
分量もそこまで多くないので、校正や推敲に迷ったら開いてみて、書いてあることをざらっと点検してみる、という使い方も良いだろう。


追伸:サポートくれたり励ましてくれた方、ありがとうございました!!

サウナに行きたいです!