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トゥー・ジ・エッジ 【FF14自機二次創作小説】

※自機と友人の自機が出ます。小説なのでだいぶ自由にしてます。

「お、おらがソフィアちゃんを守るんだどっ!!」

 屈強なロスガル族の青年は、斧を両手で握りしめ、雄々しく向かっていった。決意のこもった目線の先にいるのは、護衛を依頼されたチョコボキャリッジの行く手を遮らんとする強大な魔物の大群……ドードーの群れである。
「いたっ!このっ、つっつくなどっ!あー!なんか臭いどこいつら!鼻がひんまがるど!」
 青年の斧は、数に任せてまとわりついてくる鳥型魔物の急所をとらえることなく、いっこうに効いているという感じがしない。それでも、闇雲にふりまわせば、群れを散らす程度のことはできた。
 道が開いた。あとはこの先の灯台まで一直線だ。クエスト完了である。
「ぜーっ……はーっ……、恐ろしい魔物だったど……都会の近くは魔物も強いど……」
 苦笑するキャリッジの御者に促され、青年は息を切らしながら車に戻った。
「お疲れ様です。お水、飲みますか?」
 車に乗っていた護衛対象の若いヒューラン女性が、青年に笑いかけながら水筒を手渡す。
「あっ、ありがとうだど!ソフィアちゃんは優しいど……」
 青年は毛皮の下で頬を赤らめ、目尻を下げながら、水筒を受け取ろうと手を延ばす。青年の太い腕が伸び、分厚い体が前のめりになった分だけ、ソフィアと呼ばれた女性の体は後ろに倒れた。
「どうしてそっぽ向いてるど?」
「いえ、あの、ごめんなさい、ちょっと、その、ドードーのにおいがっ」
「あ”ーーー!そうだどっ!御者さんっ、いますぐそこの海で水浴びしてくるどっ!!ちょっと止めてくれどっ!」
 頭を抱える青年に、御者が「できるかそんな事!お前がドードー程度に手こずったせいで遅れてんだぞ!」と怒鳴り散らす。そんな二人の様子を見て、ソフィアはくすくすと笑っていた。
(ああ、ソフィアちゃん……細っこくてカワイイど……ソフィアちゃんはおらが、守るど!)

 青年はそれを横目に見ながら、決意を新たにした。この小さくかわいらしい護衛対象を、必ず守り抜くと。

(だっておらは、『光の戦士』だどっ!)

 ロスガル族の青年は、辺境のロスガル村の出身である。村の若者で一番の力持ちだった彼は、世界を覆った『終末』現象もひととおり解決した後のある夜、おぼろげに何かの声を聞いた。
『聞いて、感じて、考えて……』
 ロスガル村の古老にそれを話したところ、古老は彼に旅に出ることを勧めた。昔から、その『声』を聞いた者は代々冒険者として旅立っていったのだという。
 冒険者!なんと心躍る響きだろう。当然、彼も愛用の斧を手に村を出、一路都会へ……海都、リムサ・ロミンサへと向かうことになった。
 海都を目前にしたチョコボキャリッジの中で、エーテル酔いにうなされる青年に声をかけてきたのが、金髪碧眼のヒューラン女性――ソフィアであった。

「都市周辺はエーテライトが多いんです。その影響で、ごくたまに、エーテル酔いする人がいて。わたしもそうでしたが、すぐに慣れますよ」
 そう言ってつつましやかにほほ笑む彼女は、ロスガル村から出てきたばかりの青年にはまぶしすぎた。都会の、他種族の女性というのは、こうも小さく細くカワイイものか……。
「あなたは、どうして冒険者になろうと思ったんですか?」
 ソフィアに聞かれた青年は、慣れない女性相手に声をつまらせながら、『声』のことを話した。ソフィアは驚いた顔をしたあと、少しだけ天を仰いで、笑って言った。
「それは、素敵ですね。きっと、素敵な『光の戦士』になれますよ」
「『光の戦士』?」
 キャリッジががたん、と揺れた。青年は思わず体勢を崩す。ソフィアのほうは何事もなかったかのように続ける。
「元はかつての霊災から世界を守った人たちのことですが、今はもうちょっと広い意味で使われている言葉です。概ね、正義の味方の冒険者、といった感じで。『終末』から世界を救った英雄……たちもそう呼ばれています」
「へえ!なんだかかっこいいど!おらもなれるど?」
「ええ、なれますよ、きっと」
 この時点で、青年はもうソフィアに夢中だった。ロスガルしかいないロスガル村から出てきたところに、ヒューランの美少女が親切にしてくれたのだから、無理もないことである。
「あなたにもハイデリンの加護がありますよう」
 海都に到着した別れ際、ソフィアはそう言って青年の手を握った。
 それが青年とソフィアの出会いで、初めて受けた依頼の護衛対象が彼女だったのだから、もうこれは運命である、と青年は張り切っているのだった。

 依頼というのは、ラノシアを巡って何かの調査をしているソフィアと、そのキャリッジを護衛することだった。青年は新人冒険者なりに魔物と戦って、そのたびに割とぼろぼろになっていた。だが、ソフィアを守るため、と何度も奮起して護衛を続けていた。
 低地ラノシアでドードーの群れに苦戦した次の日の目的地は東ラノシアだったが、その途中、青年の護衛するキャリッジは足止めを食らっていた。
「まいった、ヘソ曲げちまった。こうなるとしばらくダメだな」
 ルガディン族の御者はチョコボを撫でてなだめすかすが、チョコボのほうは全く意に介さず、リゾート地らしい海岸の脇で、地面に座りこんでしまった。
「大丈夫ですよ、チョコボに無理をさせてもよくないですし、今日はまだ時間もありますから。ね、少し観光していきませんか?コスタデルソル、初めてですよね?」
「い、いいど?!仕事中だどに」
「冒険にアクシデントはつきものですから、せっかくなら楽しまないと、ですよ!行きましょう!ほら、鎧も脱いで!」
「わ、わああっ!ソフィアちゃんの水着ッ!まぶしすぎるどっ!!」
 砂浜で水着になった彼女に、青年は思わず目を覆いつつ、指の間からしっかりと見る。
(ぼ、冒険者になってよかったど~っ……!)
 ロスガル村にいては一生味わうことのなかった、白く熱い砂浜、清涼な海風、そして水着の美女……。青年は心の中でハイデリンに感謝の祈りをささげた。

 そこからしばらく、青年は夢のような時間を過ごした。
「あれ、そのアクセサリー。ソウルクリスタルですか?」
「あー、村のじい様がくれて。よくわからんど」
 ひとしきり海辺で遊んだ後、ソフィアは青年の身に着けていたものに興味を示した。普段は鎧の内側につけていた、お守りだった。
「ちょっと、見てもいいですか?」
「もちろんだど、ほら」
 青年は首からお守りをはずし、ソフィアの小さな手に渡そうとする。
「あっ!」
 その時、一羽の海鳥が、輝く装飾品めがけて急降下し、嘴でそれをさらっていった。
「ま、待つど!このへんの鳥は悪いやつばかりだど!」
 からかうように低空を飛ぶ海鳥を、青年は全力で追いかける。海岸から海のほうへ、一直線に。

「離れて!」

 後ろからソフィアの声がした。同時に、海面が弾け、巨大な魔物が躍り出る。サメだ。青年の身の丈の3倍はあろうかという、二足歩行のサメが、大口を開けて飛び出していた。

 海鳥の嘴で煌めいたアクセサリーは、すぐにサメの巨体で隠れて見えなくなった。全力疾走していた体勢を変えることもままならない。しまいこんでいた斧を出すのも間に合わない。地獄のような歯が並ぶサメの口に、飛び込むような形になった。

(えっ、おら、死っ……)

 青年の脳裏に、走馬灯のように今までの人生が――。

がきんっ!!

「大丈夫ですかっ!」

 流れなかった。サメと青年の間に、一人の騎士が割り込んで、盾でサメを弾き飛ばしたのだ。
「あ、ああ……っ?!」
 サメが水面に叩き返され、再び陽光が青年と騎士を照らす。尻もちをついた青年をかばった騎士は、逆光にその金の髪を輝かせた。
「ソ、ソフィアちゃ……」
「よかった、無事ですね。これ、ごめんなさい、わたしが見せてって言ったばっかりに」
 白銀の鎧を着込んだソフィアは、海鳥が落としていったアクセサリーを拾い上げ、青年に差し出す。
「立てますか?」
「な、なんだど……今の『力』は……っ?!ずっと後ろにいたのに、いきなり前にきて……一撃で、あんなデカいのを……」
 安堵や感謝より先に、青年の心を満たしたのは恐怖だった。キャリッジの奥で微笑んでいた細身の美少女と、目の前の人間が同じモノとは思えなかった。
「ソフィアだ!《白妙の》ソフィアがサメを倒したぞ!」
 海岸の観光客の一人が快哉をあげる。周囲も、拍手や指笛でソフィアをたたえた。その様子を見れば、いかに世間知らずの青年でも事情が分かった。
「ソ、ソフィアちゃんは……ほ、ほんとはすごく強いんだど…?」
「え、えっと」
「おらがソフィアちゃんを守ろうとしてぼろぼろになってた時も……ほ、ほんとは裏でよわっちいロスガルだって笑ってたんだど?!」
 青年は目を見開き、涙をにじませ、牙を剥く。
「そんなことはっ」
 そしてソフィアの手から装飾品をひったくると、逃げるように駆け出した。

 太陽海岸コスタ・デル・ソルの名前の通りの陽光が、青年の影を小さく砂浜に写した。

「バカみたいだど……おら……あんなボロボロになって、がんばったのに……」
 めちゃくちゃに走った青年は、いつの間にか随分遠くまで来ていた。護衛の依頼も放り出したことになる。冒険者としては最悪だろう。
「でも、別に護衛なんていらなかったんだど。ソフィアちゃんは、あんな……」
 思い出しただけで、青年の背筋に悪寒が走り、腰が砕けそうになる。直面した逃れられぬはずの死、そしてそれを容易く退けてみせたソフィアの異様なまでの強さは、村いちばんの力持ちだったはずの青年の心を折るには十分過ぎた。
 水平線に、すっかり傾いた夕日が沈んでいく。丘の上に座り込んでそれを見送っていた青年の目の端に、にわかに慌ただしくなったコスタ・デル・ソルの光景が飛び込んできた。
「あ、あれは……さっきの変なサメ?!あんな数?!どうなってるんだど?!」
 遠くからでもわかる。海岸から二足歩行のサメが大量に上陸している。逃げ惑う観光客を、イエロージャケットが避難させている。チョコボキャリッジと御者は見当たらなかった。逃げ出したようだ。
「ソ、ソフィアちゃんは……?!」
 青年の目線が、銀色の鎧の影を探す。それは大量のサメたちをひきつけ、切り倒し、押しのけていた。だが、あまりにも数が多い。イエロージャケットの斧術士たちも、押されているようだった。

(逃げないと)
(助けに行かないと)
 2つの思考が同時に青年の中を巡った。
 ここは、逃げるのが正しい。そう本能は告げている。あれだけ恐ろしかったサメが、あんな数いたら、勝てるわけがない。さっき救われた命を、みすみすムダにすることはない。自分はまだ駆け出しの冒険者だ。あんな魔物の大群を相手にすることまで依頼に含まれていない。自分が行って助けになることなど、何もない。だから、逃げるべきなのだ。イエロージャケットもいる。ソフィアだっている。逃げよう。
 踵を返そうとした時。遠くでソフィアの影が、膝をついた。

(数が、多い!)
 夕日の照らすコスタ・デル・ソルを、無数のサメが埋め尽くしている。さらに海からも増援が来ている。いかに星を救った英雄といえど、全てに対応しきることはできなかった。
 先の戦闘で受けた『エーテル流出』の状態異常が長引き、本領を発揮できなくなったソフィアは、戦闘から一時退き、ヴォイドクラックの調査のためにラノシア各地を巡っていた。お嬢様の道楽の学術研究、そんな外見を整えるために御者と新人冒険者の護衛まで雇った。それが、こんなことになるとは。
(彼には悪いことをしたなあ)
 剣でサメの魔物を切り裂きながら、ソフィアは頭の片隅で考える。自分が守ると張り切っていた女の子に、逆に守られてしまったら、あんな顔になるのも無理はないのかもしれない。せめてあのまま、無事に逃げてくれていれば良いが。
(女の子、ですか)
 剣の切れ味が、多少鈍ってきた。不安定なエーテルと絶え間ないサメの侵攻のせいで神聖魔法をつかえない。腕力と武技で押し止めるのも、少し辛くなってきたかもしれない。
 せめて、数十秒でも詠唱に時間が使えれば。
 そう思った時、向かってきたサメの頭に、見覚えのある斧が突き刺さった。

「や、やったどっ!?」
「あなたはっ?!なんでここに?!」
 青年の投げた斧が、ソフィアを襲おうとしていたサメに突き刺さった。
「このっ、ソフィアちゃんから離れるどっ!!」
 そのまま体当たりをすれば、サメの巨体が倒れる。二足歩行といえど、陸上には不慣れなのだろう。頭から斧を引き抜き、青年はソフィアの隣に立つ。

「……さっきは、ごめんだど。おら、怖くて、情けなくて、つい……」
「いいんです、そんなこと!逃げてください、それかわたしの後ろに!」
「いいや、おらは、ぐえっ!!」
 別のサメの腕が青年に直撃し、派手に吹っ飛ぶ。ソフィアはその隙にサメの急所をとらえ、斬りつける。
「はあっ、はあっ……!おらは弱いどっ、ソフィアちゃんよりずっとっ、でもっ」
「だったらっ!」
「だとしてもッ!!」
 斧を砂浜に突き立て、青年は立ち上がる。夕日が彼の――青と銀の毛皮を照らした。

「おらは冒険者だどッ!おらの仕事は、ソフィアちゃんの護衛だどッ!!おらが、ソフィアちゃんを、守るどッ!!!」
 斧を振り上げ、吠える。
「聞け魔物どもッ!!おらは『光の戦士』ネメア・レオンNemeos Leon!!『諦めを知らぬ者』の名と心得るどッ!!」

 青年の――ネメアの名はロスガル村の方言で、そういった意味の名前だった。ソフィアは少しはっとしたような顔をして、すぐに、隣の『光の戦士』に声をかけた。
「……ごめんなさい、ネメアさん。あなたが『ただの女の子のソフィア』としてわたしに接してくれて、なんだか嬉しくて、わたしはそれに甘えていました。正体を隠していたことも謝ります」
「いいんだどっ別にっ、何か事情があったんだど?」
「わたしは今、エーテルの不調を抱えています。でも30秒だけ詠唱に集中できれば」
「ぬおッ!」
 ネメアは、襲いかかってきたサメの大口を斧で受け止め、踏ん張る。到底勝てるわけのない相手でも、動きを止めることはできた
「ぐぎぎぎぎぎぎっっ!!!!!!」
「……20秒、耐えてください!!それだけあれば魔法で一掃できます!」
「わかったどッ!おらが、守るどッ!!」
 ソフィアが詠唱の体制に入ると同時に、ネメアは咆哮をあげて周囲のサメを一気に引き付ける。
「こっちだど魔物どもッ!相手はおらだど!かかってこいッ!!」
 敵視を一心に引き受ける。斧のダメージは通らず、それでもソフィアに攻撃を向かわせないために殴り続ける。
 しかし、それも長くは続かない。もとより階級レベルが違いすぎる相手だ。
「っがああああ!」
 サメの腕がネメアの鎧を砕き、体を打ち据え、牙が突き刺さる。それでも、ネメアは意識を切らさない。戦闘不能になど、なっていられない。
 あと10秒。
「お、おらが、ソフィアちゃんを、守るんだどッ!!!!!」
 痛みが脳を焼く中で、ネメアが吠えた。
 その魂の輝きソウルクリスタルが、内に秘めた原初の力を呼び起こす。口をつくままに、知らないスキルの名前を叫ぶ。
「『ホルムギャング』ッ!!!」
 エーテルの鎖がサメたちを拘束する。そして、すべての攻撃を受け止めることを可能とする、文字通り己の身を『無敵』とする技。ただの斧術士としては最上位の階級レベルに位置するそれを、ネメアはソウルクリスタルから引き出した。
「うおおおっ、ソフィアちゃんッ!」
 『ホルムギャング』の効き目のいっぱいまで、ずたぼろになりながら、サメたちの猛攻を耐えるネメア。その意識が途切れる直前、彼はソフィアの優しい声を聞いた。

「ほんとうに、よく耐えました。もう大丈夫」
 白く烈しく、優しい光が放たれる。

「冴えよ、未来を拓かんがため!『ソーレムコンフィティオル』ッ!!」

 その後、ネメアが目を覚ました時、彼女はすでに次の冒険に旅立ったあとだった。
 無敵によって命こそ助かったものの、身の丈を超えたエーテルの放出はネメアにかなりの疲労を与え、しばらくは病院のベッドから起きることはできなかった。
「あの子に礼をいっとくんだな。見舞いとかいって治療費を差し引いても十分すぎる金額を置いていったんだから」
 チョコボキャリッジの御者はそう言って、一通の手紙モグレターをネメアに手渡す。そこには、丸みを帯びた字で短い文が書かれていた。

『🔃また会いましょう!🔃』


「はは……次は、ちゃんと並んで戦えるようになってないと、だど……」

 開け放たれた病院の窓には、あたたかな日差しが降り注いでいた。エオルゼアは今日も、『光の戦士』たちの活気で満ちている。



サウナに行きたいです!