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眠る前に読む小話

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眠る前に読む一言小話です 読者になっていただけるととてもうれしいです。
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記事一覧

異国でみるべきはツイッター?インスタグラム?

遠い異国の首都からさらに飛行機を乗り継いでたどり着く街で宿をとる。

「とれるチケットならどこでもいい」と考えた旅行だったけれど、思ったよりもワイルドな街に降り立つことになった。英語もうまく通じないし、そもそも空気だって日本と違う。水が国によって異なるように空気だって国によって異なるものとなる。アジアの島国に降り立つ時に南国の匂いが鼻孔を驚かせるように、異国の空気は肺を驚かせる。「なんかきたよ」と

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テクノロジーで花見はどう楽になった?

テクノロジーによって我々の生活はとても便利になったと言われるけれど、実際、便利になったものは少なかったりする。花見なんて、なにも便利にならない。

たとえば、週末に花見を予定したとして、「週末の天気は?」と簡単にインターネットで調べられるようになったかもしれない。ただ、昔から、177に電話をすれば、天気を知ることはできた。

花見の撮影がスマホでできるようになったからって、撮影は昔からできた。イン

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セレンディピティとは

「ね。セレンディピティって何」と、女が尋ねる。

ベッドの上で携帯を見ながら気だるそうに男が答える。

「偶然の出会いってやつだよ」
「人との出会い?」
「人にも限らないんじゃないかな。仕事とか、探してるものとか」
「いじめられている亀を探してたら、亀と出会う。これもセレンディピティ?」
「竜宮城に行きたいの?それとも何かの比喩?」
「セレンディピティのことが知りたいのー!」
「その単語、どこで聞

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ツイッターで事故死を演出する男

ツイッターで死を演出するということを楽しんでいた。

たとえば、「このアニメが好き」という設定の人物を作る。そして、その設定に合わせたプロフィールを作り、ツイートを始める。そのアニメのことをつぶやき、そのアニメが好きそうな人をツイートする。食事や週末の遊び方も練り上げて投稿する。

そして、同じようにそのアニメが好きそうな人をフォローする。コメントする。リツイートする。趣味がある者同士はつながる傾

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2人きりの部屋

男がドアを開けて中に入る。続いて女が「失礼します」といいながら部屋に入る。酔っているからか、足元がおぼつかない。

女はブーツを脱ぐのがめんどくさそうに、足のかかとでブーツをける。

男が先に部屋に入る。「コートかして」と男が女からコートを受け取る。ハンガーにかける。

部屋に入ると女が言う。「わぁ、キレイにしてるのね」

「Alexa、ジャズをつけて」と男が言うと、「はい、わかりました」という声

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14106と言って

「14106」という言葉が世の中を騒がせるころ、僕は高校生だった。そして初めてのデートを経験することになった。

当時は、ポケットベルという数字を送り合う端末が登場し、学生たちはこぞって持ち始めた頃だ。それまでは、デートの誘いは、相手の実家に電話をしなければいけなかった。誰しも「親に電話を切られる」という洗礼を受けていたものだ。

愛しているという意味を込めた「14106(この数字の読み方を語呂合

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ポケベルが残してくれたもの

2018年12月に、ポケベルが終了した。1990年代の後半に流行ったサービスで、お互い数字を送り合うことができるものだった。とはいえ、ポケベルは数字を受け取るだけの機能で送ることはできない。だから、僕たちは公衆電話からその番号を送りあった。

ポケベルはたくさんの思い出を僕たちにくれた。それまで、家には家庭の電話しかなかった。友人とコミュニケーションをする時は、そこに電話をするしかなかったのだ。家

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ホモデウスからみる未来

ホモデウスを読んだ。世界中で、4000万部以上売られているユヴァル・ノア・ハラリのビッグセラーだ。

我々は不死と幸福、神性をめざし、ホモ・デウス(神のヒト)へと自らをアップグレードする。そのとき、格差は想像を絶するものとなる。35カ国以上で400万部突破の世界的ベストセラー

というのが紹介文だが、そんなオカルト的な内容というよりも歴史や社会学をベースに、今後、人間や世の中がどうなっているのか大

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下書きに残ったメール

下書きに残ったメールを眺める。週に何度かは見返して文章を修正するけれど、まだ「送信」ボタンが押されていないメール。切手をはられてまだ封をされていない手紙のよう。

毎回、見返すたびに「こういう表現がいいな」と書き直す。文章って本当に難しいな、と思う。夜みる文章と朝みる文章は違う。タイピングをしてかじかんだ手を「はー」っと息で温めながら、そんなことを考える。

彼女と会ってから2年以上もたつ。最初は

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今年の抱負の宛先

年始から、「今年の抱負」をFacebookなんかにアップして。誰も人の抱負なんて興味ないっつーの。抱負を書くくらいなら、自分の手帳にかいておけよ。

コメント欄には、「がんばってください」「いい抱負ですね」とコメントが並ぶ。

そこに取引先の相手の抱負もあがる。少し考えて「接待いいねでもするか」とLikeをおす。

そんなにみんな抱負があるものかね。「今思いついたそれっぽいことを書いてます」大会な

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2050年、ついに他人の脳を体験できるように

2018年、Oculus Goが販売された。従来より廉価でVRを体験できるその端末によって、多くの人がVRを体験できるようになった。それによって、家にいながら、旅行を体験できるようになった。ジェットコースターも体験できるようになったし、ゾンビ退治など、現実の世界で体験できないことも、実体験のように感じることができた。身体が不自由な人でも、飛行機がのれない人でも、そんなことを気にせず世界中を飛び回れ

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LINEでの挨拶と年賀状の挨拶の違い

新年をすぎると「あけましておめでとうございます」とLINEが飛び交う。

なぜ、この人は私のLINEのアドレスを知っているのに、Facebookメッセンジャーで送ってくるんだろう。あ、Facebookの方がパソコンから送りやすいからか。たくさんの挨拶を送るには、携帯から送るよりもPCから送る方が送りやすい。なんだ。

年賀状を手書きで書いていたころを思い出す。当時は、1枚1枚絵を描くという苦行のよ

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2025年、お礼を言わなくなった子供たち

2025年、新聞のある記事が世間を騒がせた。

「お礼を言わない子供たちが急激に増えている」という記事だった。「子供にお礼を言われたか」という定点観測の結果、ここ3年で50%もお礼を言われなくなったということがわかった。

新聞は、いろいろな仮説を検証していた。

- 少子高齢化で、「子供が宝」になっているから、偉そうになっているのだ。だからお礼を言わないのだ

- ゆとり教育のせいだ

- 親の

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囚人が、刑務所の中で一番使いたいインターネットサービスは?

その独房に閉じ込められた囚人たちは時間が余っていた。なんせ労働以外、毎日は同じ日の繰り返しだ。新しい出来事も起こらない。同じ日が、同じ時間が過ぎていく。

ただ、変化もある。話がうまくなっていくのだ。

毎日、同じ話をするにつれ、話術が磨かれる。また、話題の着眼点が研ぎ澄まされる。

たとえば、こういう話だ。ある時は「おとぎ話の中で、一番犯罪をおかしたのは誰か」という自分を重ねた話題。あるいは、「

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