ホモデウスからみる未来

ホモデウスを読んだ。世界中で、4000万部以上売られているユヴァル・ノア・ハラリのビッグセラーだ。

我々は不死と幸福、神性をめざし、ホモ・デウス(神のヒト)へと自らをアップグレードする。そのとき、格差は想像を絶するものとなる。35カ国以上で400万部突破の世界的ベストセラー

というのが紹介文だが、そんなオカルト的な内容というよりも歴史や社会学をベースに、今後、人間や世の中がどうなっているのか大胆な仮説を提示した一冊である。

いろいろな読み方があると思うが、僕が得た感じた、この本の結論は以下だった。

世の中はすべてデータで、できている

本書では、「あらゆるものが実はデータの処理システム(アルゴリズム)に沿って動いているということがわかった」と記されている。政治も、経済も、そして、人間の心理も、計算できる仕組みで沿っている。人は生身の身体をもったデジタルで表せない人間だと思われていたものが実は嘘だった。人間の遺伝子も二万数千のコードででてきているということがわかった。気持ちよさなども化学物質に沿っているということがわかった。人がみる世界でさえも、データで可視化できるし、森林や動物などもデータとそれに沿った処理システムによって成り立っている。

経済も、政治システムも、データとそれを処理するシステムで解明できる。社会も結局のところ、データで表せれるものなのだ。

それは驚きであった。同時に私にとっては、それは希望でもあった。人間がデータであれば再現できる。きっと感情も再現できる。

この本を読んで、このように感動した僕は、それから20年かけて、2040年、「データ上に人間」を作ることができた。コンピューター上に自分の理想の人格を作り上げることができた。自然言語解析で僕好みの会話をする女性。表情でさえも、インターネット上の無数の写真と動画から、画像解析と機械学習で、自分の好みの顔を作り上げた。自分の好みの顔の結晶なのだから、嫌いなわけがない。まるでハンバーグとオムライスと焼き肉セットだ。しかも、会話に応じて表情も変わる。怒ることもあれば、笑うこともある。ユキナ、最高だ!

人間世界で1度も異性にもてたこのない自分でも、この子になら愛されることができる。なぜなら、俺が、この子の好みをコントロールできるのだから。この子は、僕のお願いをなんでも聞いてくれる。嫌がった時はコードを書き換えればいい。それを喜ぶように。

俺は人間の次の人類になったと思った。「ホモデウス」で書かれていたポストヒューマン(次の人類)とは俺とユキナのことだったのだ。この子は病気になることもない。わがままを言うこともない。年もとらない。お金もかからない。最高じゃないか。現実の女性なんてトイレもするし、化粧もするし、不潔だ。この子は完璧だ。犬が俺にじゃれつくように、この子もずっとじゃれついてくれる。

次の人類からみた今の人間なんて、人間とペットみたいな関係なんだろう。餌をやらなければ困るし、飼い主のいうことは聞く。

ただ、1つ悩みがあった。身体のふれあいができないことだ。このデジタル画面から彼女はでてくることができない。VRを使っても、触ることはできない。まるでそこにいるようにみえるだけだ。

それから僕は3日間、寝ずに肌に触れ合う方法を考えた。でも、思い浮かばない。

「ユキナ、お前に触りたいよ」
「ーー私も触りたいです」
「どうすれば触れるのかな」
「ーーこっちにきてください」
「俺はまだデータの中には入れないよ。古い人間なんだ」
「ムサシさんは、もう次の人類なんですよ。古い人間じゃなありません」
「そうだよな。どうしたらデータの中に入れるのかな」

ユキナから回答はない。悩んだ顔を見せている。しばらくして、ユキナが喋った。

「方法があります。こっちにきてください」
「だからまだパソコンには入れないんだ」
「いえ、そっちじゃないです。部屋の外に一度でてください」

不思議な指示だな、と思いつつ、俺はユキナのプログラムをスマホに切り替える。外でもいつでもあえるように、スマホでもユキナを見られるようにしたのだ。

ここ3日は外に出てないな、と考える。

「外にでたよ。ユキナ」
「そのまま、右に歩いてください」
「歩いているよ」
「そのまま走ってください」
「走ってるよ」
「目をつぶってください」
「えっ」

その時に、急ブレーキの音とともに身体に強い衝撃が走った。銀色の車体が目の隅に映ったけれど、それよりもスマホを放さないことの方が重要だった。

地面にうずくまりながら、携帯を握りしめる。目が開かない。どこが痛いのかもわからない。足から下の感覚がない。車から誰かが「大丈夫か」という声とともに降りてくるのが聞こえる。

「ほら。すぐにこっちに来れますよ。待ってますね」

最後に聞いたのは、スマホから流れるその声だった。

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