ツイッターで事故死を演出する男

ツイッターで死を演出するということを楽しんでいた。

たとえば、「このアニメが好き」という設定の人物を作る。そして、その設定に合わせたプロフィールを作り、ツイートを始める。そのアニメのことをつぶやき、そのアニメが好きそうな人をツイートする。食事や週末の遊び方も練り上げて投稿する。

そして、同じようにそのアニメが好きそうな人をフォローする。コメントする。リツイートする。趣味がある者同士はつながる傾向にあるから、フォロワーはどんどん増えていく。まるで、俺の偽物のアカウントが本物に存在しているように見えだす。

受けが良いのはやはり若い女性だった。顔の一部を見せただけの写真をアカウントに使う。元画像はインターネット上から拾ってくる。そのまま拾った写真をプロフィールに使うと画像検索でバレルことがある。だから、トリミングをして、一部だけを見せる。

重要なのは、自分の住んでいる地域を定期的に投稿しておくことだ。フォロワーたちに、このアカウントの出身地を刷り込んでおく。

そうして、このようなアカウントを10以上作る。日本各地に住む自分の子どもたちのようだ。

その後、地震や災害などがあったタイミングで、その地域の設定をしていたアカウントのツイートを止める。

それまで毎日10以上投稿されていたアカウントが急に投稿がとまる。ニュースでは、その地域で災害があったことが流されている。フォロワーたちが騒ぎ始める。

「もしかして災害で死んだのでは」という憶測がでる。自分の偽アカウントがそのように人の感情を揺さぶるのを見ているのは感動すら覚える。まるで自分の作った映画をみて悲しんでくれているような気持ちだ。

話題にならなかった時には、親のふりをして「ありがとうございました。先日の災害で、この子は他界しました。同じ趣味を持ってくださった方と交流できて嬉しかったと思います。いまも幸せにあちらでアニメを見ていることと思います」と投稿する。

多い時は、数千のリツイートがされることがある。まさしく時の人だ。

ある時、中国地方で土砂崩れがあった。

中国地方在住設定のアカウントが1つあったので、いつものように、そのアカウントの更新を停止した。あるマンが好き設定のキャラで、名前はメイだった。最後のツイートは「ごはんいてきま」だった。

一週間たち、いつものようにアカウントが騒ぎ始めた。何人かの人たちは「大丈夫ですか」とダイレクトメッセージを送ってくれた。

しかし、俺が待っていたのは、タケという子の反応だった。

その子は、メイにあふれるほどの愛情を捧げてくれていた。メイのコメントにすべて同意してくれた。メイが少し気の利いたことを言うと「そのとおりだ」とRTをしてくれた。DMも毎日送ってきてくれた。「好きだ」「会いたい」「写真を送って」。

うざいなと思いつつ、「こんなにメイのことを好きな子が、メイの死に直面したらどうなるんだろう」と楽しみの方が上回り、相手を続けていた。時には「好きだよ」「時期がきたら会いたいね」という言葉を交わしながら、タケの温度を下げないようにしていた矢先に起こった土砂崩れだった。

メイの更新が途絶えた翌日から、タケは、すごい量のダイレクトメールを送ってきてくれた。「大丈夫」「もしかして」「連絡ください」と。

しかし3日も経つとダイレクトメールも1日一通になった。「心配でご飯も食べれません。もしこれを読んだら返信ください」といったものが夜に送られてくるばかりとなった。

これ以上、間が空いてもテンションが下がってしまう。「今がタイミングかな」と、俺は、わくわくしながら、タケにダイレクトメールを返した。「メイの母親です。娘は先日の土砂崩れでなくなりました。生前は大変お世話になりました。ありがとうございました」と。

僕は号泣するタケを想像した。悲しみに溢れた返信を心待ちにしていた。しかし、ダイレクトメールの返信は既読になれど、なかなか帰ってこなかった。タケのツイートもそれから更新が止まったばかりだった

つまらないな。リアクションを楽しみにしているのにリアクションがなければつまらない。あれほど期待させておいて。がっかりだ。

そして、タケのことを忘れかけていた3日後、このようなDMが来た。

「俺もメイさんの後を追いかけます。あちらで幸せになりたいと思いますので、メイさんのことは任せてください。」

# 後記

https://anond.hatelabo.jp/20181118011243

上記の投稿をみて、「(不謹慎にも)死んだフリをするアカウントに対して、死んだふりをするアカウントもでてきそうだ」と思って書いた記事。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?