【第3回】 ぐずる

 8時間寝れば自然と目が覚める。私は昔から寝起きがよい。赤ちゃんのときからよいらしい。私が目を覚ますとき、ベッドには”寝起き抜群ご機嫌ガール”が誕生している。でも、今日は10時間眠っても眠くて、3時間の昼寝までしてしまった。昨日もいつも以上に寝ていたように思う。休日だったからよかったものの、平日だったら眠くて仕事が手につかなかっただろう。

 寝起きがいい代わりに、なかなか眠らない子だったと母親は言っていた。
 私は眠くなるとぐずり始める。ぐずるのは赤ちゃんだけではない、大人だってぐずる。
(いや、大人なのでぐずるのをやめろとは思いますけど、いかんせんこちらとしては眠くて眠くてたまらないのです。ぐずらないわけにはいかない。眠いという気持ちに嘘をつきたくない。私はねむいのだ!)

 眠いときにぐずる、ということに気づいたのは数年前のこと。当時、お付き合いしていた方と寝る前に通話して、かなり深い時間になっていた。私は眠いくせに話したい一心で通話を切ろうとしない。相手が「もう寝たほうがいいよ」と言っているのを「やだ!」と子供のように跳ね返す。そうしたら通話の相手が「また、『ぐずってる』。いつも眠くなると『ぐずる』よね」と言ったのでした。「ぐずってない!」「ほら、ぐずってるじゃん」なんてくだらない言い争いをして、通話を切った。私はそのとき初めて「ぐずっている」ことを自覚した。
 
 眠くてぐずるなら、そして眠れる状態にあるのならば、さっさと寝たほうがいいのでは?と睡眠第一主義者のみなさんは思うかもしれません。
 しかし、私は寝たくないのです!
 例えば子どものとき、私の家では20時以降はテレビを見させてもらえなかった。クラスで話題にのぼる楽しそうなドラマやバラエティー番組はすべて20時以降にやっていた。私はテレビを見たかった。
 例えば中学生になったとき、好きなアニメが深夜帯にやっているのに思春期特有の羞恥心から録画することもできず、リアルタイムを目指すものの親がいつまでも起きているから結局見られないで終わる。
 例えば高校生のとき、好きな男の子からのLINEがいつ来るか分からず、眠っている間に来るかもしれないと思っておちおち眠れない。

 こんな調子でずっと私は眠りたくない。大学生のときは、明日が来るのが怖くて眠りたくなかったし、最近だと楽しいことが目の前で起きているのに眠るわけにはいかないと意地になって無理やり起き続けてしまう。眠ったら何らかのチャンスを逃してしまう気がして眠れない。体はすごくすごく眠いのにね!

 
 会社に入社してからは、情けないことに(?)「明日もあるしな……」と思って、できるだけ睡眠時間の確保を優先できるようになってきたものの、未だに眠くても眠らない方を選びがちだ。「寝たら?」と言われたら「やだ!」と言ってぐずる。ぐずぐず眠りたくないと頑なな態度をとる。


 ぐずるのをやめて、眠っている間の、私が体験することができない事象を諦めることができたならば、大人になったということなのだろうか。大人にならなくたっていい、私はもう少し諦めたくないと思っている。眠らないで楽しいことをしたい。他人には迷惑かけない程度の「ぐずり」には抑えるので、多めに見てほしい。


清水優輝

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