「ウェットなボードほどCBは高く打つ」を統計で否定する

1.「ウェットなボードほどCBは高く打つ」とは?


CB(コンティニュエーションベット)、打っていますか?

CBとは、プリフロップにおいて最後にレイズorリレイズを行い、イニシアチブ(主導権)を持ったプレイヤーによるフロップのベットを指しています。

このコンティニュエーションベットについて、フィルゴードンの教科書(赤本)では、「ウェットなボードほどCBは高く打つ」という記述があります。

「ドライなボードの時には、私はポットの2分の1ぐらいを打つ。ダンプな(ややウェットな)ボードでは、私は3分の2を打つ。ウェットなボードでは、だいたい4分の3ぐらいを打つ。モンスーン(非常にウェットな)ボードでは、ポットサイズを打つ。」

このフィル・ゴードンの趣旨としては、「ドライなボードでは相手にアウツが少ないため、CBを安く打っても差し支えない。しかし、ウェットなボードになるほど相手にはドローが多くなるため、CBをより高く打って相手に高い代償を払わせる必要がある。」といったものです。

ポーカー初めて間もない私は、この教科書の理屈に「なるほど!」と頷き、アミューズメントカジノでは自慢気に「いや~、ボードがウェットだったので高く打ちました!」と言っていました。


しかし、自明の理のように使っていたフィル・ゴードンの「ウェットなボードほどCBは高く打つ」は、本当に正しいのでしょうか?

前回記事のボードファクターを使い、改めて検証してみます。

2.前提条件

まずは、セオリーを検証するうえで、下記のように前提条件を設定します。

・プレイヤーの想定レンジは、PokerSnowie PreflopAdvisorを使用する。

・CB理論値は、オリジナルレイザーのチェックを含む複数のアクション選択について、アクション頻度とBet額の加重平均をとったものとする。
(例えば、特定のボードでオリジナルが「10%頻度の100%potBet&90%頻度のCheck」の混合戦略であれば、そのボードでのCB理論値は、10%*100%pot+90%*0=10%potとする。)

・ドライ⇔ウェットの関係については、前回記事のとおり、1つにスート(レインボー、ツートーンなど)と、もう1つにコネクション(連番、ガットなど)の2つのファクターで構成されるものと想定する。

・説明変数として設定するボードファクターは、以下のとおり。
(各カテゴリで上に来るほどウェット、下に行くほどドライ)
<スート>
1.モノトーン
2.ツースート
3.レインボー
<コネクション>※複数に該当するボードは、最もウェットな項目を適用
1.ストレート3連(ストレートを作るコンボが有り、[89T]など連番の形)
2.ストレート(ストレートを作るコンボが有り、[8TQ]など連番以外)
3.コネクタ(ボードに[78x]など2枚がコネクトした形)
4.1~2ギャップ(ボードに[8Tx]、[TKx]など飛び飛びの2枚がある形)
5.ドライ([26J]など、上記全てに当てはまらないボード)

今回は、過去にGTOで解析済みであるBTNvsBB(2betpot)およびBBvsBTN(3betpot)の2つの異なるシチュエーションについて、検証してみます。

3.BTNvsBB(2betpot)

●シチュエーション
<プリフロップ>
BTN:Raise 2.5bb
SB:fold
BB:Call 2.5bb
<フロップ>
BB:Check
BTN:??

●サンプルボード数:400パターン

GTO+で出力されたBTNのEQ、EV、最適アクション比率を上図のようにまとめました。

前項でまとめたボードファクターについて、BTN側の「AVERAGE_BET」を被説明変数とし、それぞれに与える影響を重回帰分析(※)します。

※「ダミー変数を使った重回帰分析で何がわかるか?」というと、端的に言えば、「フロップで各ボードファクター条件が該当した時に、AVERAGE_BETが平均で何%ほど変動するか?」を示したものです。
もちろん、ある1つのボードを構成するボードファクターは、スートとコネクションの複数ありますが、データセットに重回帰分析を行うことで、それぞれのボードファクター単体での平均的な影響を調べることができます。
各解析結果の図表は、スプレッドシートの「XLMiner Analysis ToolPak-LinearRegression」機能を使って出力しており、サンプル数やら信用度数など色々載っていますが、今回の記事の趣旨としては、見るのは図の赤枠内の係数のみで差し支えないです。

3-1.AVERAGE_BET重回帰分析結果

まずは、BTNのAVERAGE_BETについて、スートに限定した回帰分析を実施します。

上図より、AVERAGE_BETは、モノトーンの時に平均24.65%と最も低く、ツートーン・レインボーでは31~32%と高い値となりました。

次に、コネクションに限定した分析をしてみます。

AVERAGE_BETは、ストレート(3連番)のときに平均24.79%と最も低く、コネクタ、1~2ギャップとなるにつれ32~35%と高くなり、ドライなボードでは28.36%となりました。

どうやら、GTO戦略は、先の「ウェットやモンスーンなボードではより高く」打つとしたフィル・ゴードンの持論とは異なり、「最もウェットなボードにおいては、むしろ最もAVERAGE_BETが低くなる」という結果を算出しているようです。

こうしたボードの変化に伴うAVERAGE_BETの高低差の原因は、どういったところにあるのでしょう?
参考として、各ボードファクターによるBTNのEQ変化について、同様に重回帰分析を行ってみます。

3-2.BTNのEQ重回帰分析結果

下図は、AVERAGE_BETの代わりに、BTNのEQを被説明変数として、上記の分析同様の重回帰分析を行ったものです。

BTNvsBB(2betpot)のフロップにおいて、スートに着目したBTNのEQは、モノトーンの時に平均53.14%と最も低く、レインボーの時に平均54.45%と最も高いことがわかります。

BTNvsBB(2betpot)のフロップにおいて、コネクションに着目したBTNのEQは、ストレート(3連番)の時に平均52.56%と最も低く、ドライになるにつれてEQは高くなり、全くコネクションが無いボードの時に平均54.60%とEQが最も高いことがわかります。

つまり、BTNのEQに着目すると、ボードがウェットになるほどEQが下がり、逆にボードがドライになるほどEQが高くなることを示しています。

Q.なぜウェットなボードになるほど、BTNのEQが下がるのか?

この答えを一言でいえば、「オリジナルのみが持つハイポケットの価値が相対的に落ちるから」といえます。
BTNvsBB(2betpot)において、今回扱った400全てのフロップで、BTNは50%を上回るEQを保持しています。こうしたBTNの高いEQは、オリジナルのみがレンジに持つハイポケットによるところが大きいです。
しかしながら、ボードがウェットになり、ストレートやフラッシュを作り得るコンボが多くなるほど、オフスートかつコネクトしていないハイポケットの価値は、相対的に低くなっていきます。


3-3.分析結果

結論付けると、GTOは、「ウェットなボードほどBTNには不利であるため、ウェットなボードにおいては、BTNはAVERAGE_BETを低くすべき」という、ある意味当たり前な理論をデータで示しているといえます。

よって、フィル・ゴードンが提唱した「ウェットなボードほど高く打つ」は間違いであり、回帰分析では、むしろ反対に、「ウェットなボードの時ほどCBを安くする」ということがわかります。

4.(参考)BBvsBTN(3betpot)

さて、BTNvsBB(2betpot)においては、フィル・ゴードンの定説とは反対に、「ウェットなボードの時ほどCBを安くする」ことがわかりました。

この結果は、果たして違うシチュエーションでも適用できるのでしょうか?

レンジ・ポジション・エフェクティブスタック等を変えたBBvsBTN(3betpot)でも同様の分析をしてみます。

●プリフロップ・シチュエーション

BTN:Raise 2.5bb
SB:fold
BB:Re-raise 7.75bb
BTN:Call 7.75bb

●サンプルボード数:1,000

上図のデータセットを使い、BTNvsBB(2betpot)と同様に、ボードファクターがオリジナルであるBBのAVERAGE_BETに与える影響を分析します。

各フロップボードにおけるBBのAVERAGE_BETは、モノトーンの時に14.93%と最も低く、レインボーになるにつれて最高39.10%と上昇しています。

コネクションに着目すると、BBのAVERAGEは、ストレート(3連番)のときに21.49%と最も低く、ドライになるにつれて34~35%と高くなっています。

上記より、BBvsBTN(3betpot)におけるAVERAGE_BETについても、BTNvsBB(2betpot)の分析と同様、ウェットなボードで最もCBが低くなる結果となりました。

付け加えると、BBvsBTN(3betpot)の分析の方が、BTNvsBB(2betpot)の分析よりもAVERAGE_BETの高低差が顕著になっており、より有意に「ウェットなボードほどCBは高く打つ」が間違いであることを示しています。

5.まとめ

AVERAGE_BETに対する重回帰分析をまとめると、下図のようになります。

上図の数値からもわかるように、GTO戦略におけるオリジナルの平均CB(pot%)は、スート・コネクションに分類したボードファクターがよりウェットになるほど、低い値となることがわかります。

よって、フィル・ゴードンのCB戦略である「ウェットなボードほどCBは高く打つ」は、統計的に誤っていることがわかりました。

また、今回の分析によって、むしろ大多数のシチュエーションでは、「ウェットなボードほどオリジナルのEQが低くなり、これに応じてCBも低くすべき」ということがわかります。

つまり、集合分析によって、かつてのポーカーセオリーとは真逆の戦略こそが、統計的に正しいといえたことになります。


最後になりますが、今回の記事の目的は、「コンティニュエーションベット」の概念を世に広めた偉大なポーカープロ、フィル・ゴードンの功績を否定するものではありません。

かつてのポーカーにおける一般的なセオリーに対しても、GTOを使った集合分析は、依然として目新しい発見と戦略を見つけてくれる、ということの一例となれば幸いです。


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