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アスリートに筋トレは必要?~コンディショニングの観点から~

はじめに

アスリートと筋トレの話題について、メディアでよく取り上げられるようになりました。一昔前は、「筋トレをすると身体が硬くなって動けなくなる」「筋トレで鍛えた筋肉はスポーツでは役に立たない」といった説は、あたかも信憑性が高いかのように伝えられていました。

今でもそういった話はありますが、有名なアスリートが筋トレを行っていることを取り上げるメディアも増え、またアスリート自身がSNSなどで発信していることもあるので、そのアスリートが活躍するほど肯定的な印象を与える面もあると思います。

そして、筋トレ(トレーニング)の指導に関わる専門家や研究者が、ブログやSNSなどで発信することによって、一般の人達にもわかりやすく筋トレに関するトピックスに触れる機会が増えています。

それはポジティブな側面がある一方で、発信者も受信者も多様であるが故に、情報もその解釈も多様になります。指導者であれ研究者であれ、ほとんどの専門家は、盲目的に「筋トレは誰でもするべき」とは考えていないはずです。

しかし、専門家ではない一般の人達にとっては、「小難しい話はどうでもいいので、筋トレは効果があるの?ないの?」といったように、白黒はっきりさせたいという感覚かも知れません。確かにその感覚は、専門分野以外のことに置き換えると、わかる気もします。

このnoteでは、色々な文献を参考にしながら、「そもそもトレーニングって?」という部分に立ち返るとともに、トレーニングの位置づけを整理してみました。また、少し具体的な事例を設定し、ひとつの視点としてまとめています。

白黒はっきりさせたい人向けではないかも知れませんが、トレーニング指導に携わる専門家やその学生、トレーニー、アスリートにとって少しはお役に立つ読み物になればと思っています。

目次

第1章 コンディショニングと健康
コンディショニングの定義/木を見て森を見ず/トレーニングもコンディショニングの手段のひとつ/コンディショニングと健康/アスリートは健康的か/容姿・体格に関する問題/筋醜形恐怖症/摂食障害/容姿・体格に関する問題のまとめ/オーバートレーニング症候群/ピーキング・テーパリング/ピリオダイゼーション理論における3つのピリオド/高強度トレーニングと免疫機能/睡眠の重要性/まとめ

第2章 体力とフィジカル
体力の分類/フィジカルとは/筋肉質な体格はフィジカルが強い?/個々のトレーナビリティ・特徴と特長・目標と課題/筋力と筋肥大/体重を増やすなら

第3章 biomotor abilities
biomotor abilitiesとは/ abilities間の相互依存の例証/各体力要素の用語の整理/ほとんどのムーブメントは単一の体力要素(ability)だけに依存しない/特定の体力要素(ability)を強調したトレーニングの意義/競技練習は必須

第4章 ルーの法則と“Disuse””Overuse“”Misuse”
ルーの法則/Disuse(廃用)/Overuse(過用)/Misuse(誤用)/“Disuse””Overuse“”Misuse”の相互関係

第5章 トレーニングの原則
全面性の原則/意識性の原則/漸進性の原則/個別性の原則/反復性の原則/過負荷の原則/特異性の原則/SAIDの原則/まとめ

第6章 トレーニングを実施する意味
競技動作を練習すれば必要な体力要素は向上する?/競技動作に負荷をかける/スクワットとスプリント能力/事例①「遠くへ打球を飛ばしたい」/事例②ジャンプ力が課題のケース/プライオメトリクスとジャンプ力/傷害予防/身体のアンバランスの是正/競技や練習だけでは身体を使い切れない/全面性の原則に立ち返る/トレーニングありきではない/課題・問題解決のためのトレーニング

第7章 能力を引き出す・能力を引き上げる
予備力を向上させる/能力を引き出すこと/ウォームアップ/ストレッチの種類/ウォームアップとスタティックストレッチ/何故スタティックストレッチなのか?/増大した可動域の運動を制御する/活動後増強/能力を引き上げること

第8章 トレーニング効果の転移
筋トレは役に立たない?/ファンクショナルトレーニングという発想/万能なトレーニングはない/競技パフォーマンスに繋がる体力要素を養成する/何故トレーニング効果の転移なのか?/野球のスイング速度向上のためのトレーニング/スイング速度向上のための「総合的」トレーニング/スイング速度向上のための「特別」トレーニング/スイング速度向上のための「特異的」トレーニング/ウォームアップとしての素振り/一般的エクササイズと専門的エクササイズ/スピード-筋力の養成方法論/まとめ

第9章 体力と技術は独立しているか?
基礎体力の上に技術がある/野球のバッターを例に/バスケットボールのジャンプを例に/動ける身体と動けない身体?/体力の向上を伴わない技術の向上/泳げるようになるためには/運動調整能力/コーディネーショントレーニング

最後に

~本章~

第1章 コンディショニングと健康

【コンディショニングの定義】

コンディショニング(Conditioning)とは、スポーツパフォーマンスを最大限に高めるために、筋力やパワーを向上させつつ、柔軟性、全身持久力など競技パフォーマンスに関連するすべての要素をトレーニングし、身体的な準備を整えることです。また、一般の人々にとっては、快適な日常生活を送るために、筋力や柔軟性、全身持久力を始めとする種々の体力要素を総合的に調整することです。

NSCA JAPANのホームページより

コンディショニングという言葉の定義にこだわる必要があるかどうかは立場などにもよります。現場における「選手のコンディショニング」といった表現は、徒手療法や物理療法などを用いた調整を指すこともあります。

NSCA JAPANの定義が唯一正しいというわけではありませんが、その定義を参考にすると徒手療法や物理療法もコンディショニングの手段であると言えます。

【木を見て森を見ず】
ここでNSCA JAPANのコンディショニングの定義に触れた意味としては、例えば体力要素の一部に捕らわれて、(便宜的な言葉として)全体を見ない、全体との関係性を考慮しないといった、「木を見て森を見ず」にならないように立ち返る指標として活用するためです。

のちに触れますが、さまざまな体力要素がある中で、ひとつの体力要素をピックアップして、それさえトレーニングすれば良いということはありません。さまざまな手段も、コンディショニングのためと捉えることで幾分整理がしやすくなると思います。

【トレーニングもコンディショニングの手段のひとつ】
コンディショニングはアスリートにとってはハイパフォーマンスを発揮するための準備、一般の人々にとっては快適に日常生活を送るための調整とすると、トレーニングはその目的のための手段のひとつと考えられます。

実際には、栄養や休養といった要素も重要です。ですから、トレーニングによって得られる効果を効率良く・無駄にしないためにも、コンディショニングを狭義で捉えすぎないことが大切です。また、場合によっては他の専門家との連携が必要となります。

【コンディショニングと健康】
<WHOの健康の定義>

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

世界保健機関(WHO)の定義では、健康とは、単に病気でないとか、虚弱でないということではなく、肉体的、精神的、そして社会的にも、すべてが満たされた状態です。しかし、この定義に当てはまる人は多くないかも知れません。

この定義をそのまま当てはめるのは無理がありますが、アスリートにしても一般の人々にしても、コンディショニングは健康の管理も含まれていると言えます。健康の三要素と言われる「運動」「栄養」「休養」はコンディショニングにとって重要な要素です。

【アスリートは健康的か】
アスリートの場合、より高いパフォーマンスを目指すためには、オーバートレーニングに陥らないことを前提として、限界近くまでトレーニングすることがあります。また、競技自体が非常にハードな身体的・精神的ストレスを強いることも多くあります。

現役中に怪我と無縁であるアスリートは、多くないかも知れません。それどころか、日常生活にも影響を与えるような障害が残るケースもあります(例:ラグビーの脳震盪による後遺症、ピッチャーの肘の伸展制限など)。

一般の人々であっても、例えば仕事の内容によっては同じようなことが言えますが、「アスリート=健康」と一概には言えません。

ボクシングなどの格闘技、ウェイトリフティングやパワーリフティング、ボディビルディングなど、体重別競技においては、体重管理が必須になります。体重が規程の上限を上回れば試合に出られないため、身体的・精神的に過度なストレスを伴う減量行動が必要なケースもあります。

このようなケースでは、「適度な運動・栄養・休養」とはかけ離れるため、一般的な意味においては健康的とは言えないと思います。だからと言って、健康を害することが仕方ないということではなく、そういった側面があるからこそ、コンディショニングを考える必要があるということです。

【容姿・体格に関する問題】

「健康的に見える」「若々しい」「たくましい」「美しい」…容姿を指してそのように表現することがあります。肌つやが良かったり、ボディラインにメリハリがあったり、筋肉質な身体は、そのようなポジティブな印象を与えやすいと言えます。

「たくましい身体」「美しいボディライン」というように、見た目に対する表現を、アスリート、非アスリートに関わらず使われることがあります。ボディビルディングやフィジークなど、見た目を重視した競技もありますが、それ以外のアスリートの場合は「結果的に」そのような体格になっているという側面があります。

競技特性(ポジションの違いも含む)、競技に有利な体格(例:バスケットボールの身長)、トレーニングの内容などによって体格が違ってくる傾向があります。

フィギュアスケートやバレエといった芸術性を含んだ競技は、身体運動としてのパフォーマンス以外に、見た目に対する意識は他の競技と比較して強い傾向にあるかも知れません。

健康的な体格という時に、一般的に想像するのは「太りすぎ」「痩せすぎ」のイメージではないと思います。しかし「太りすぎ」「痩せすぎ」、また「筋肉質」も主観的なことが多く、体格に対するこだわりと行動が一定の限度を超えることで健康を害することがあります。

【筋醜形恐怖症】

アスリートであれば競技パフォーマンスの向上のために、トレーニング、栄養、休養などに配慮してコンディショニングします。筋の横断面積が大きいことは筋力に有利なので、結果的であれ意図的であれ、筋肥大がパフォーマンス向上に貢献するケースもあります。

しかし「筋肥大=パフォーマンス向上」とは言えませんから、いつの間にか筋肥大を優先することでパフォーマンス向上にマイナスの影響を与える可能性があります。これは体脂肪の減少も共通している部分があります。

本来は競技パフォーマンスの向上や傷害予防のためのトレーニングが、過度な体脂肪の減少や筋の増量によるたくましさの追求が目的となり、結果的に競技パフォーマンスを低下させる、健康を害することになれば本末転倒です。

トレーニングによる見た目の変化は、自己効力感の向上に繋がる可能性もありますが、指導者が体格に対する価値に重きを置きすぎる言動には気をつける必要があります。

【摂食障害】

摂食障害には、過食障害、神経性食欲不振症、神経性過食症があります。摂食障害は、気分障害(不安障害やうつ)、薬物乱用など、その他の精神疾患の有病率が高いとされています。

体重制限のある競技や、見た目の美しさが影響し得る競技のアスリートは摂食障害になりやすい可能性があると言われています。

フランスでは2017年に痩せすぎたモデルを雇用することを禁止する法律が施行されました。痩せすぎたモデルに憧れて影響を受けることで、摂食障害に陥るなど、健康を害することを防ぐ意味もあるようです。このように国レベルで取り組んでいる事例もあります。

【容姿・体格に関する問題のまとめ】
筋醜形恐怖症や摂食障害は、トレーニング指導に関わる専門家の範疇ではありません。「真面目」「ストイック」といったポジティブに捉えてしまうと、実際に起きている有害なことを見逃してしまう可能性があります。

また、指導者が体格のことについて過度に意識させるような言動は避けるべきだと言えます。ボディビルディングなどの競技は特殊ですが、「体格=自分そのものの価値」「体格の良さ=高い競技パフォーマンス」といった極端な思考を助長しないように気をつけなくてはなりません。

とあるアスリートが、「外国人選手が、日本人でもこんな大きな選手がいるということを知ってもらえるようにしたい」という発言をしていたことがありますが、それは競技パフォーマンスの向上に必ずしも繋がるわけではなく、目的が違ってくるように感じました。

もちろんスポーツにおいて、見た目にインパクトがあることは、ファンにとって楽しさのひとつという側面もあります。

この辺りが難しいところで、圧倒的な競技パフォーマンスがメディアで取り上げられ、ファンを魅了するケースもあれば、競技パフォーマンス以外の部分がメディアに取り上げられ、ファンが増えるというケースもあります。

特にプロスポーツの場合、注目されなければ結局はビジネスとして成り立たないため、さまざまな手法でメディアに取り上げられる、ファンが足を運ぶ、グッズが売れるといったことに繋がっていく必要があります。

アスリートの個性はそれぞれ違うため、画一的である必要はありませんし、多様であるからこそ多様な層のファンが生まれるとも言えます。注目される、ファンを楽しませるということは、前提として高い競技パフォーマンスがあるとしても、それ以外にも方法はいろいろあります。

そのように考えると、「外国人選手が、日本人でもこんな大きな選手がいるということを知ってもらえるようにしたい」と考えて取り組むことは、無意味なことではないと思います。

しかし、これが極端な行動になって、本来の競技パフォーマンスにポジティブな影響を与えないどころか、ネガティブな影響を与える、健康を害するといったことになることは、避けて欲しいと思います。

筋醜形恐怖症や摂食障害といったものは、単純な問題ではありませんので、「○○が原因で解決策は△△だ」と簡単に解決しないところが難しいと言えます。現実的には対応が難しいと言われていますが、専門の機関で受診することがクライアントを守る上で必要になります。

【オーバートレーニング症候群】
<オーバートレーニング症候群とは>

アスリートは高強度なトレーニング、練習や試合による心身の疲労から、適切な栄養や休養によるリカバリーが必須です。

トレーニングによる刺激が続き、適切なストレスの軽減やリカバリーがなされない場合に、オーバーリーチングという状態からオーバートレーニング症候群に至ると考えられています。

上記の症状があればオーバートレーニング症候群というわけではありませんが、選手のコンディショニングに関わる専門家は、オーバートレーニング症候群の存在と、これらの症状を頭に入れておくことは必要だと思います。

上記のスライドで着目すべき点のひとつとして、「スポーツとは関係ない精神的ストレス」が挙げられています。これを参考にすれば、トレーニング、練習や試合、リカバリーといった部分以外の要素にも目を向ける必要があると言えます。

【ピーキング・テーパリング】
ハイパフォーマンスを発揮するためには、日常生活レベルと同等の強度でのトレーニングでは明らかに不十分です(第5章参照)。高負荷の練習やトレーニングが必要ですが、その代償として疲労も伴います。

疲労が十分に抜けない状態のまま試合に臨んでも、本来持っている能力を発揮したハイパフォーマンスは期待できません。ここで重要になるのが、ピーキングとテーパリングです。

<ピーキング>

『ピーキングとは、狙った重要な試合にベストのコンディションで望めるように、コンディションを上げていき、そのピークを合わせること。』

河森直紀:ピーキングのためのテーパリング 狙った試合で最高のパフォーマンスを発揮するために, p12, NAP Limited, 2018. より引用

<テーパリング>

『テーパリングとは、徐々に練習・トレーニングの負荷を減らしていくこと。』

河森直紀:ピーキングのためのテーパリング 狙った試合で最高のパフォーマンスを発揮するために, p10, NAP Limited, 2018. より引用

ストレングス&コンディショニングコーチの河森直紀氏の著書を参考にすると、ピーキングは目的であり、その手段の1つがテーパリングであると述べておられます。

このような用語の定義の確認と、目的と手段の整理は非常に重要です。テーパリングしたからピーキングという目的が達成できるかと言えば、必ずしもそうではありません。

ピーキングの方法は、テーパリングだけではなく、例えば栄養はどうかといった他の要素も考える必要があります。これもコンディショニングという面で考えると整理がしやすいかも知れません。詳しく知りたい方は、上記の河森氏の著書が参考になると思います。

ハイパフォーマンスを発揮するためには、高負荷の練習やトレーニングは不可欠ですが、リカバリーが不十分であったり、ずっと負荷を線形で増やしていくことは、ピーキングが達成できないばかりか、オーバートレーニング症候群に陥る可能性が高くなります。

【ピリオダイゼーション理論における3つのピリオド】
マトヴェーエフ博士は、高い記録を持つ選手が記録の低い選手に負けることを疑問に感じていたそうです。それがきっかけとなり、約10万件の世界のスポーツチャンピオンの成績変動の公式データを基にして、ピリオダイゼーション理論が生み出されました。

『選手は1年のうち毎月、絶えず自分の記録を向上させてはいない。トップレベルの選手が高い記録を出し、それをさらに伸ばす時期もある。しかしこれらのピリオドの間に、記録が下がる別のピリオドが存在する。そこで、これは何によるものかと原因を探り始めたのである。』

魚住廣信:マトヴェーエフのピリオダイゼーション理論誕生の経緯, 兵庫大学論集 8, p9, 2003. より引用

マトヴェーエフ博士らの研究により、競技成績の変動は大きく分けて3つのピリオドが存在することを発見しました。

準備期…スポーツ・フォーム※を獲得するピリオド

維持期…スポーツ・フォームを維持するピリオド

移行期…スポーツ・フォームを一時的に失うピリオド

※<スポーツフォームとは?>

『「記録達成に対して、肉体・技術・戦略・メンタルのバランスの取れた最良の仕上がり状態」ということになる。実際のスポーツにおける定義では、「あるマクロ・サイクルにおける」というただし書きをつける必要がある。あくまでも「永遠に続くわけではない」「進化をする選手によって更新される」ことが用語の表現に反映されていなければならないため、これでスポーツ・フォームのもつ意味合いが強調される。』

魚住廣信:マトヴェーエフ理論に基づくトップアスリートの育て方, NAP Limited, p10, 2010. より引用

この法則からわかることは、パフォーマンスが線形で向上し続けること、ピークをずっと維持することは不可能ということです。

このことを頭に入れておかないと、あるパフォーマンスが停滞する、もしくは低下するといった自然な現象に対して、「トレーニングが足りない」といった誤った認識により、オーバートレーニング症候群など、パフォーマンスの低下のみならず健康を害するリスクが高まります。

このような行き当たりばったりの指導では、ピーキングを成功させることはできません。トレーニング強度や量を上げていくだけで成功するのであれば、トレーニング指導の専門家は必要ありません。

【高強度トレーニングと免疫機能】
ハンス・セリエは適応症候群の3つの段階、「警告反応期」「抵抗期」「疲憊期」を提唱しましたが、ストレスが繰り返されると、次第に疲弊してしまいます。短期的にも高強度トレーニングによる免疫機能の低下が報告されています。

【睡眠の重要性】

疲労回復の手段として睡眠は欠かせません。睡眠時間を削って睡眠不足と引き換えにトレーニングに費やすことは、トレーニング効果が得られないばかりか、オーバートレーニング症候群に陥る危険性もあります。

夜の睡眠時間が7時間以上グループと比べて、5時間未満、5~6時間未満のグループは風邪を引きやすいという報告があります。

Prather AA et al:Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold. Sleep. 2015 Sep 1;38(9):1353-9.

思春期のアスリートを対象とした報告では、平均8時間未満の睡眠時間の選手は、8時間以上の選手と比べて、怪我をした割合が有意に高かったとあります。

Milewski MD et al:Chronic lack of sleep is associated with increased sports injuries in adolescent athletes. J Pediatr Orthop. 2014 Mar;34(2):129-33.

睡眠不足は2型糖尿病、肥満、冠動脈疾患、脳卒中、癌のリスクを高めるという報告があります。

Kecklund Get al:Health consequences of shift work and insufficient sleep. BMJ. 2016 Nov 1;355:i5210. 

その他では、睡眠不足はうつ病のリスクを高めるといった報告もあり、心身ともに悪影響を及ぼす可能性が高くなります。

睡眠障害といった場合は受診が必要となりますが、睡眠時間の確保の優先順位を上げておくことは、アスリートに限りませんが、重要であると言えます。

睡眠の効果という視点よりも、むしろ睡眠を確保することが前提と言って良いほど重要であるという認識の方が適切かも知れません。

【まとめ】
コンディショニングはアスリートにとってはハイパフォーマンスを発揮するための準備と言えます。トレーニングはコンディショニングの手段のひとつであり、栄養や休養などさまざまなことを考慮する必要があります。

ハードな練習やトレーニングは時期によっては必要です。しかし、追い込むこと、疲労困憊になることが良い練習、効果的なトレーニングであるという捉え方は危険です。

その日の疲労が次の日までに完全に回復することは、特にアスリートの場合は難しいですが、練習・トレーニングとリカバリーはセットで考えるべきです。

休養をとることに対して不安を持つアスリートやコーチもいますが、不十分なリカバリーは、せっかくの練習やトレーニングの効果を損ねる可能性があることを頭に入れ、栄養や休養を十分にとることを心掛ける必要があります。

いつの間にか追い込むことが目的になる、トレーニングのためのトレーニングになる、見た目が変わることが目的となるといった、本来の目的から離れてしまうと、競技パフォーマンスにネガティブな影響を与えるばかりか、心身ともに健康を害する可能性が高くなります。

短期的な視点、長期的な視点、コンディショニングを考える際はどちらも重要であると言えます。オーバートレーニング症候群、オーバーユースによる怪我や傷害などを予防しながら、ハイパフォーマンスを発揮できるように準備すること、それがアスリートのコンディショニングと言えます。

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