はぶ・あ・ないすとりっぷ
滑走路が眼前の席は僕にとって特等席だ。アイスコーヒーを注文し、文庫本を読み始める。
いざ空港まで来てしまうとなんだか落ち着かない。三時間後には空の上なのだ。
背面にあるテーブルの会話が耳に入る。
窓に映して目をやると男が二人、ビール片手に楽しげだ。おそらくアメリカ人。多分。
ずいぶん会話が弾んでいるが、僕は英語がわからない。
じゃあ、もう行きゃなきゃ。とでも言うように男が立ち上がった。
どうやら友人ではなく、ここで意気投合しただけらしい。
残った男はタバコをくわえたまま見送る。
立ち上がった男が身をかがめそのタバコに火をつけた。
座っていた男は煙に続いて呟く。
「はぶ・あ・ないすとりっぷ…」
これは僕でも聞き取ることができた。
男は振り向かずに右手を挙げカフェを出る。
なんだよそれ。映画かよ。
僕は少しにやついている。自分が言われたわけでもないのに、なんだか幸先がいいじゃないか。
もう旅は始まっているのだ。
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