見出し画像

絶対可愛くしてあげる

髪を20cmほど切った。一般的な毛髪は1ヶ月に1cm程度伸びるらしいので、この日わたしは1年半とすこしを切り落としたことになるらしい。輝く銀色の鋏がダンスでも踊るみたいに頭上を跳ねては飛んで、傷んだ髪をばさりと床に落としていった。決して短くはない時間が、磨き上げられた美しい床にふらふらと舞って散った。「絶対可愛くしてあげる」彼は言った。初めての美容院、はじめましての美容師さん。床に広がる枯れた髪はわたしが身に纏ってきた自信の無さで。踊り続ける銀色の鋏は、たぶん美容師の彼が努力と経験で手にした自信だった。まっすぐで美しい自信はとても気持ちの良いものだなと思った。可愛くしてあげる、あなたがそう言い切ることで救われた女は結構いるんじゃないかと思うよ。わたしもたぶん、そうだったみたいに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?