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アイドルを応援すること

アイドルファンはふたつに分かれる、
最近そんな気がしている。

お金を払って、試合に参戦するためのコントローラーを握っているひと。
お金を払って、芸術を鑑賞するための座席を確保しているひと。

コントローラーを握るひとにとって、同じユニットのファンはみな同じ闘いに挑むプレイヤー同士。だからこそファンなのにゲームに非協力的なひとを見つけると違和感を覚えたりもする。「あまり声を出さない」「お金を出さない」「投票やツイートに積極的でない」といったものだ。居眠りしているプレイヤーがいると当然ゲームが進まないので、「クリアするためにもっとみんな協力してプレイしよう!?課金しよう!?金銭的に課金が難しくてもログイン時間を増やそうよ!」と一生懸命呼びかける。
そして勿論自分が動かしているキャラクターにも積極的に声を上げていく。プレイヤーの意見を反映したアップデートを希望しているからだ。
お金を払ってゲームのコントローラーを握っているひとたちにとっては全てごく自然な行動で。コマンドを連打し続けることが応援で、同じチームのあんまり協力的じゃないプレイヤーはゲーム進行を阻害する因子で、キャラクターのアップデートはプレイヤーの意見と人気が反映されるもの。

一方で、お金を払ってもコントローラーを握らずに観客席に座るひともいる。握らないことを選んだのではなくて、そもそも買いに行ったお店が違うのだ。住んでいる国も多分違う。彼らがお金を払って買っているのは「座席のチケット」。自分の好きな絵画や音楽や演劇を眺めるための手段。大声で笑い拍手するひともいれば、大好きでたまらないからこそ声を出す暇もなく息を潜めてじっと見つめるひともいる。作品の感想を語るのが好きだから座席を確保するひともいれば、一年に数日しかない休みに気分を変えたくて初めて観客席に座ったひとだっているかもしれない。彼らはみんなお金を払い、自分の椅子に座ってアイドルを眺めている。勿論そんな観客席の住民も時にはたくさん課金する。でもそれは「もっとふかふかの良い椅子で鑑賞したい」「次はもっと大きいシアターでこの作品を観たい」「次回作が観たいから製作費用に充てて欲しい」という芸術鑑賞への対価であることがほとんどで。壁に飾られている絵画を観にやってきて「色を塗り替えろ!」「ピンクの方が可愛いのになんで?」とは誰も思わないし、もうすぐ公開される映画に対して色々考察はしようとも本気で監督に対して進言するひともまあいない。だって自分たちは椅子に座る観客なんだから。

これらは使う金額や現場に参加する頻度の話ではない。CDの複数買いはしなくともどうにかゲームに役立つプレイヤーになろうと日々RTに励むファンはきっとコントローラーを握っているし、東京ドームのふかふかの椅子からコンサートを眺めてみたいな〜!という想いから束のようなCDを買いあさる観客席のファンだっている。行動よりもそこに至るまでの意識のお話です。

そして、これは私の推察でしかないけれど。所謂地下アイドルと呼ばれる方々のファンはコントローラー型が比較的多いのではないかと思っている。観客席に座るためにはある程度コンテンツが世に流通している環境が必要だから(物理的な現場の座席ではなくあくまでも概念の話として)。そして揉め事だって多々ありつつも、皆でコントローラーを握り締めひとつのキャラを育てたり時には奪いあったりする日々を楽しんでいるんだろう。また逆に国民的アイドルまでいくと、今度はファンの母数が圧倒的に増える。観客席に座っているひとたち同士の国ができるし、コントローラーを握るひとたち同士の島もできる。ひとつの地球を割ときちんと棲み分けして生きられる。たま〜に肩がぶつかると戦争が起きるかもしれないけれど、広い海を隔てているのでそんなことはまあ少ない。

問題は今まさに発展途上のアイドル。観客席にいるひとたちとコントローラーを握るひとたちが頻繁にすれ違って肩が触れてしまうサイズ感のアイドル、現代にはままあると思う。私が応援しているアイドルも多分きっとここに属する。

「もっと頑張ろう?私たちは危機感が足りないよ〜!」と言われたら、コントローラーを握るファンは燃えるだろうしもっと頑張るしいっぱい買う。でも、観客席にいたファンにとっては「この映画は大好きなのに、この椅子はなんだか座り心地が悪い…」ってなっちゃうんだよ。

より良いアップデートのためにファンこそ積極的に意見を交わすのが当然と思うひともいれば、飾られている絵画の色を塗りかえようとするなんて考えもつかないひとだっている。どちらが良い悪いなんてないと思うけれど、いろんな応援のあり方が共存できるグループが結果的に売上の向上に繋がるんじゃないかな。これが私の最近思うことだ。
コントローラーを握っているひとたちがとっても楽しそうだったら、普段は観客席に座っているファンもたまには立ち上がって参加してみるかと思えるし(私は正にこのタイプで、なんだかオタクが楽しそうに見えたから複数買いするようになった。)推し変や就職や結婚や出産でコントローラーを一生懸命に握る余裕がなくなった人がいたとしても、次は観客席からゆるく見守ってそのひとり分の座席のチケットだけ買い続けることもできるんだよ。椅子の座り心地さえ良ければ。

そして少し話は変わるけれど、個人的には。
大好きなパン屋さんに対する最大の敬意は、きちんとお金を払ってその日に陳列されたパンから自分が美味しそうに思えるものを美味しく食べることだと思っている。それ以上でもそれ以下でもない、ファンにできる最大の愛情。
「たくさん買っている人が偉い」「売上に貢献している人が偉い」「声を上げている人が偉い」これらは間違いなく明確で分かりやすい確実な指標のひとつだ。でも、その査定が出来るのは実際に売上の恩恵を受けているアイドルや運営サイドの話であって。ファンがファンの愛情を査定することなんて絶対にできない。わたしたちが唯一他者を評価することを許されるのは、自分自身が正当に楽しむ権利を奪ってくるようなマナー違反(規定外うちわに視界を遮られるとか違法ダウンロードで推しの売上が下がるとか)に対峙したときくらいだと思う。
あと、無償ではなく仕事としてやっている以上頑張らないといけないのはまず彼らなんだよ。「こちらを向いてくれない人を怒ってはいけない、こちらを向かせるのが我々の仕事なんだから」と上司に言われたことが昔あるけれど、アイドルにも同じことが言えるんじゃないかなあ。もちろんファンとして全力で応援したいし協力するつもりでいるけれど、でもやっぱり頑張らないといけないのはいつだって本人たちなんだよ。仕事なんだから。この言葉は本人たちに向けてでは全く無くて(そんなことは言われずとも理解しているはずなので余計なお世話になってしまう)、ファンサイドを見ていて感じることだ。美味しいのにあまり人が入っていないパン屋さんを見てお客さんが罪悪感や焦燥感を感じる必要はないんだよ。もちろん大好きな店を閉店なんてさせたくないからブログで一生懸命宣伝するし友達に勧めるし毎日パンも食べるけれど、でも最後に頑張らないといけないのは絶対に店主だ。そこを履き違えないことが、アイドルへの敬意だと思っている。

アイドルって人間性そのものを売っているようなお仕事だから、パン屋さんと一緒にするなんて怒られるかもしれないけれど。そこで給料を得て生活している彼らの仕事を尊重するからこそ。賃金を(CDやグッズやチケット代といった形で)払うかわりに毎日の楽しみを享受する、そんな利害関係がちゃんと成立している「客」であり続けることが大切なんじゃないかなと思います。ファンが楽しそうにしている姿を見せるのが最大かつ最高の販促だよ!

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