【28. 煉獄】

〈この章のまえがき〉
今回のエピソードに関しては特に…
内容的に受け付け難いと感じられる方が多くいらっしゃるのでは?そんな風に感じています。
実際書いている自分ですら…そうでした。

また、このお話し【タイミング】はあくまでも18才以上の方を対象とした読み物です。
それ以外の方は、ご遠慮いただきますよう改めてよろしくお願い申し上げます。
では、本文をどうぞ…

勿論、2人はその他にもいろんなところにお出掛けした。
普通のお出掛けも、そうじゃないお出掛けも、いっぱい。
これまでに挙げた幾つかは、ほんの一例に過ぎないけれど、それを踏まえた上で、あるポイントに気付いた人はいるのだろうか?
あるポイント、それは…
仙台と埼玉とで“普通じゃない”お出掛けの内容に顕[あきら]かな差があること。
彼のところで“普通じゃない”の、といえば…露出くらいなもの。
ところが、彼が彼女の元を訪れた時にだけ催される、βとの接触。
それは何故だろう…。
結論から言えば、それはその必要がないから。
彼は、こう考えていた。
─寂しい彼女の心と身体の両方を満たしてくれる人…
それを“2人で”見付けたい。
それは、カレであって欲しくない。
カレ以外なら誰だっていい…。
もしそれを見付けられれば…カレから彼女を遠ざけることだって出来るかも知れない…─
そんな風に…。
埼玉で、それは必要ない。
その役目は彼自身が担う。
だから探すのは専ら仙台近郊のみ。
こっち…彼の住む埼玉では、探してすらもいない筈…。
あの時を除いては…。
あの時だって本当は…探したのかなんてわからない…。
本当のことなんて…
─聞かなくていい…─


彼の住む部屋の近くのコンビニにちょっとお買い物…の帰り。
彼女は、自転車を駆ける彼の背中にしっかりとしがみ付きながら、陽が暮れて間もない暖かく穏やかな風に髪を靡[なび]かせていた。
「ちょっと寄り道してくから…」
「うん」
彼は仕事場に立ち寄り、ちょっとだけ休み明けの段取り。
その間、彼女は
「これなぁに?」
「これは?」
「へぇ~…こっちは?」
と資材の山を物珍しそうに物色していた。
彼の“ちょっと”は、経験上当てにならないのが常ではあるが、その時は
「お待たせ」
意外にもすぐに終了。
「じゃ後ろ座って?」
「うん」
彼がペダルを踏み込もうとしたその時、
…プルルルルッ…プルルルルッ…
彼の電話が鳴った。
「ちょっとタイム…」
シャツの胸ポケットから出した携帯を開くと
「あ、所長からだ…ちょっと一回降りて?」
そう言って、彼は自転車に跨がったまま、何やら話し始めた。
恐らく、
─今どこ?─
とか、
─何してるとこ?─
的な質問に答えた後、
「解りました…じゃ待ってますんで…」
そう言って画面を閉じた。
─ヤな予感…─
「『今すぐ着くから、ちょっと待ってて…』だって…。少しだけ打ち合わせしたらすぐ帰るからさぁ…先帰っててくれる?」
「え~…待ってちゃダメなのぉ?」
「ダメじゃないけど…すぐ済むか、わかんないから…」
結局、仕方無く、独りで部屋に戻ることに…。
「あ、ついでにこれも持ってって?」
預けられたのは、小さなお買い物袋を前籠に載せた自転車…。
勿論、彼の部屋の合鍵は彼女も持っている。
「すぐ来てよっ!?」
「うん、すぐ追っかけるから」
彼女は独り、自転車で彼の部屋へと戻っていった。

途中の、少し急な坂道に差し掛かり、彼女は自転車を降りた。
心の中で
─よいしょっ…よいしょっ…─
と自転車を引きながらその坂を上る。
やっと上り切った途中にあるスポーツクラブか何かの煌々[こうこう]と灯る照明の下を通り過ぎた。
─この先の坂道を下れば彼のアパートまでもうすぐ…─
というところで、突如肩に衝撃を感じ、彼女は地面に倒れた…。

それから暫くして…
気が付くと、彼女は彼の部屋のバスルームにいた。
そこでシャワーに打たれ震えながら…。
皮膚が真っ赤に染まってしまいそうなくらいに、何度も何度も、全身を擦りながら…。
その少し前…
自分の身に起こったことをその身体は確かに覚えていた…。


彼女が倒れ込んだその時、不意に後ろから受けたのは
…ガバッ…
と思いっきり強く右の肩を掴まれ、引っ張られるような衝撃。
「キャッ…」
…ガシャン…
驚いて、思わず手を離した自転車が月極駐車場の傍らに倒れる。
と同時に、彼女も右肘から地面に倒れ込んだ。
「痛っ…」
すぐ目の前には、レジ袋の中身がその敷地内に転がっていた。
その時まだ彼女は、自身の置かれた状況を把握出来てはいなかった。
そして…
後ろから羽交い締めにされたまま口を塞がれた彼女は、そのまま駐車場の奥に停めてあった車の陰へと引き擦り込まれていく。
「大人しくしてれば…怪我しないで済むから…静かにしろよ?」
低い声。
パニックで頭が真っ白になっているところに、今度は背中からの衝撃。
両手両膝で受け身を取る。
車のドアとドアの間で、四つん這いの彼女。
その背に覆い被さるような黒い影。
彼女は片方の胸に、痛みを伴った絞られるれるような揺さ振りを受けた。
と同時に、腹部を弄[まさぐ]られる感触。
それが彼女の穿いているデニムパンツのボタンを探り当てると、ジッパーを下ろし、一瞬にして膝まで引き摺り下ろされた。
もう残るは1枚…。
恐怖に怯えた彼女は
─動けない…─
けれど、それも強引に、そして一気にズリ下ろされ、彼女の尻が露われた。
…自分のではないジッパーを下ろす音…
…自分のではないジーンズを下ろす音…
それらが立て続けに彼女の耳の奥に響いた後、得体の知れない邪悪な存在が陰核と膣口を這い廻る。
もう目も開けられない…。
「なんだ?お前、濡れて来てんじゃん!」
そう聞こえて来るや、彼女の後頭部に掴まれるような力が加わり
…グイッ…
と押さえ付けられた。
地球に吸い寄せられたように左の肩と頬が地面に擦れる。
まだ彼の部屋に来て間もない、2人の儀式も施されていない陰部が、夜空を仰ぎ見ていた。
─抵抗できない…─
そう悟った瞬間…
下腹部に衝撃が走った。
〈イヤーーッ!〉
声にならない声。
「うっわ…すっげぇ…」
彼女の膣が招かれざる侵入者を排除しようと執拗に収縮する余り、逆に更に興奮させてしまっていた。
「どうだ?お前も気持ちいいんだろ?」
その首が千切れそうなほど、彼女は横に振る。
何度も…何度も…振り続ける。
それを髪を掴まれて阻止され、片腕と共に後ろに引き寄せられると、侵食の度合いはより奥深くにまで達した。
そんな最中、ついさっきまで彼女が通っていた筈の道を車が走り去っていく。
それに続くように聞こえた空回りするチェーンやヒールの音。
─何で私が…─
助けを求めようとするも、恐怖で声すら出ない…。
しかし…
彼女は声を上げた。
自らの手の甲を強く噛み締めて口を塞ぎ、圧し殺しながら…。
こんな状況にも拘らず…。
「お前、ヨガッてんのか?…ほら…もっと気持ち良くしてやるからな?」
尚も膨張し、その動きを荒気る。
その時、抜き刺しされる度に彼女の意思に反して吐き出されていたのは、もしかしたら自らを浄化しようとする聖水だったのかも知れない。
「おい、なんか漏らしてんじゃん…怖いのか?…すぐに終わるから声出すんじゃねぇぞ…」
けれど…津波のように襲い掛かる罪悪感。
─助けて……。ごめんなさい……。─
その時、どこかで電話が鳴っているような気がした。
しかしそれは、彼女にとっては、一瞬にして途絶えた。
何の望みも失った彼女は、
ただされるがまま…
“それ”を受け入れた…。


朦朧とする意識の中、いつの間にかさっきまで後ろに感じていた気配が消えてなくなった。
恐る恐る目を開き、後ろを振り返る。
誰もいない…
安堵とは程遠い、心の壁の奥深くまで掻き毟[むし]りたくなるような虚無感、虚脱感が彼女を襲う。
嗚咽を漏らしながら、掻き毟るように太腿とその付け根を両手で掬い、あの灰色の影が映っていた両脇の車のドアにその手を拭う。
未だ残るその穢[けが]れた臭いを濡れたショーツとジーンズで蓋し、少し脚を引き摺りながら倒れた自転車の元へと向かう。
転がっていたジュースとお菓子、それと小さな光を点滅させている携帯を拾い集め、そのまま籠に放り込んだ。
─こんなとこ…誰にも見られて無いよね…?私は…ちょっと自転車で転んだだけ…─
そんな偽りの思いで周囲を見廻した。
しかし、自転車を起こした後のその一歩一歩が、彼女を耐え難い現実に引き戻す。
大量の、そして決して自分のものではない体液が、ショーツに滲みゆくあの感覚によって…。

煉獄[れんごく※1]の淵をさ迷う罪人が背負うような重くのし掛かる枷を括[くく]り着けられることと引き換えに、彼女は漸くその場から逃れることが出来た…。


シャワーを浴び終えた彼女は、再び穢れを身に纏い、彼に書き置きだけを遺し、部屋を後にした。
自分のベッドに戻るまでのその間…全ての擦れ違った見知らぬ視線は、
─きっと忌まわしき存在として自分を見てる…─
彼女にはそんな風に思えてならなかった…。

つづく

2019/10/07 更新
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【参照】
※1 煉獄[れんごく]…その罪の償いをまだ終っていない死者の霊魂が死後至福の状態に導かれるまで,残された償いを果すためにおかれると信じられる苦しみの状態、またその世界。天国と地獄の間にあるという。また、苦しみを受ける場所のたとえ。
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【備考】
本文中に登場する、ねおが個人的に難読な文字、知らない人もいると思われる固有名称、またはねおが文中の雰囲気を演出するために使用した造語などに、振り仮名や注釈を付けることにしました。
尚、章によって注釈がない場合があります。

《本文中の表記の仕方》
例 : A[B ※C]

A…漢字/呼称など
B…振り仮名/読み方など(呼称など該当しない場合も有り)
C…数字(最下部の注釈に対応する数字が入る。参照すべき項目が無い場合も有り)

〈表記例〉
大凡[おおよそ]
胴窟[どうくつ※1]
サキュバス[※3]

《注釈の表記の仕方》
例 : ※CA[B]【造】…D

A,B,C…《本文中の表記の仕方》に同じ
D…その意味や解説、参考文など
【造】…ねおが勝手に作った造語であることを意味する(該当のない場合も有り)

〈表記例〉
※1胴窟[どうくつ]【造】…胴体に空いた洞窟のような孔。転じて“膣”のこと

※3サキュバス…SEXを通じ男性を誘惑するために、女性の形で夢の中に現れると言われている空想上の悪魔。女夢魔、女淫魔

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