Free Transfer戦略
Free Transferという言葉をご存知だろうか。
サッカー好きのみなさまはもちろんご存知だろう。
選手が所属クラブとの契約が満了になり、契約延長のオファーに応じない場合、
別のクラブは直接選手に対して契約をアプローチすることができ、移籍金ゼロで獲得することができる。
(その際、選手側は移籍金がゼロとなることを売りに、好待遇(高額な年俸など)で迎え入れられることを望むケースが多い。)
そんなお得な移籍市場の仕組みを巧みに利用した、強かな補強戦略をとるクラブが存在する。
そう、ユヴェントスだ。
アンドレア・アニェッリが会長となり、ジュゼッペ・マロッタがGMに就任した2011年以降、ほぼ毎年と言っていいほど、名だたる名プレーヤーをFree Transferで獲得してきた。
アンドレア・ピルロ
ポール・ポグバ
フェルナンド・ジョレンテ
キングスレイ・コマン
ネト
サミ・ケディラ
ダニエウ・アウヴェス
エムレ・ジャン
そして、今夏獲得した、アーロン・ラムジーとアドリアン・ラビオである。
これだけの名プレーヤーを通常の移籍市場で獲得しようとした場合、どれだけの費用が必要になるだろうか。
単純に考えることはできないが、もし現在の相場で実現しようとしたら、きっと2-3億€はくだらない筈だ。
ユヴェントスがこれまで成立させてきた上記のFree Transferはもはや魔法ともいうべき偉業である。
仮にそうして獲得した選手が移籍を望んだ場合でも、クラブにはその選手の移籍金で今度は金銭的なプラスが見込まれる。
即戦力のフリーでの獲得は、サッカークラブにとっては理想的な補強戦略なのである。
そうした移籍を実現させることができたのはなぜだろうか。
もちろんフロントの働きが重要な役割を果たしたことは疑いの余地がないだろう。
契約が満了となる選手をしっかりと見極め、事前にアプローチを行い、好待遇でクラブに迎え入れる。
他のクラブが動き出す前に、一気に契約まで漕ぎ着けてしまう狡猾さも1つのファクターとして挙げられるだろう。
だが、その本質は実は別の場所にあるのではないかと私は考える。
ユヴェントスというクラブ
その伝統および文化
所属した選手が口々に語るクラブ愛も。
長年所属したバンディエラの存在も。
選手のことを第一に考える誠実なクラブも。
革新的かつ堅実な成長戦略も。
ピッチ上で見せる選手たちの全力のプレーも。
その全てが世界中のプレイヤーを魅了してやまないのだ。
選手が望む、思うままにサッカーに向き合うことができる環境が、そこには確かにある。
着実な補強戦略を土台に、ユヴェントスはこれからも勝利を積み重ねていくだろう。
世界屈指のビッグクラブとなり、世界中にファンが溢れることになるだろう。
そうなって欲しいと心から思っている。
ただ、もし、そうなったとしてもクラブには忘れないでいて欲しい。
ユヴェントスがユヴェントスであることを。
これまで積み上げてきた伝統や歴史を、いつまでも誇りに思い、大切に次の世代に継ないでいって欲しいと切に願う。
だが、おそらくそれはいらない心配なのだろう。
彼らの姿を見ていると、そう思う。