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【西粟倉で生きて、考えた7のこと】

私は3月1日から4月16日まで、一般社団法人Nestでインターンをしながら、その拠点地である西粟倉村という地域で過ごしました。この村で生きて、感じたこと、そして学んだことを7のテーマに分けてレポートします。

1.  カラフルなみんなでつくる「カラフルなPocket」

ちょうど私のインターン期間に、子どもたちの「やってみたい!」を叶える居場所「Pocket」が西粟倉に誕生しました。3月15日に開所式が行われ、翌日16日はNestが地域の皆さんに日々の感謝を伝える「感謝祭」を開催しました。Pocketは子どもたちの居場所、ある日は冒険に出かけるときの基地として、ある日は学校から帰ってきておやつを作れるキッチンとして、ある日はその日の気分で自由にアート作品が生まれるアトリエとして。

Pocketの由来は子どもの「ポケット」からきています。「とくに、男子のポケット」というのはNestのみなさんから教えていただいたキーワード。「男子のポケットって文房具とか、石とか、生き物とか、お菓子とか、本当に色々入っているじゃん?そんなポケットのように、好きなことが詰め込まれた場所になればいいなって。それと、もう一つ、たまにはPocketで”ポケ~っと”してほしいという願いも込められている(笑)Pocketという施設自体そんなにカラフルな建物ではないけど、子どもたち自体がカラフルだから。カラフルな子どもたちと、その子どもたちから生まれる鮮やかなことやものがPocketをこれから色鮮やかにしてくれたらいいな」とNestのなぽさんがお話してくださいました。

その言葉どおり、オープンして約1か月経ったPocketは子どもたちの手によって、ボルダリングの足場や、山積みになった薪、絵の具とビー玉で作ったアート作品など、彼らが作った居場所になりつつあります。ボルダリングの一番上の取っ手は「つかまりやすくしてほしい!」という子どもたちの声から生まれました。「おなかすいたからせんべいつくる!」というおやつづくりも、子どもたちの「やってみたい!」から生まれます。

子どもたちの「やってみたい!」は、子どもたちの素直な学びを生み出す大事なきっかけだと感じました。Pocketは、そんな子どもたちの心からの学びを引き出すわくわくできる場所。

わくわくできるのは子どもだけではありません。特に感謝祭の日、私は心から解き放たれた気分でした。初めてお会いする村の方、同世代の大学生たち、いつも遊びに来てくれる子どもたち、通りがかりの方々。ともに遊んで、薪割りして、かまどをつくってそれで豚汁をあたためる。Nestが感謝するはずのお祭りが、村の皆さんからの感謝のおかえしのようになって、最終的にはみんなでつくったお祭りのようになりましたが、それもすごくいい関係だな、と感じて。感謝は連鎖することを肌で感じました。Pocketが村民みなさんの家になっていた光景に、「みんなの居場所」という言葉がぴったりだと思いました。

2.私は私の「やってみたい!」に素直になってもいいのだということ

「人と文化と自然をつなげる人になりたい」
今回Nestでインターンをしたいと思ったきっかけになった話ですが、私自身が自然の中に身を置くこと、生き物に触れること、山に登ることが好きで、在住している北九州の水環境館という自然教育施設であり、市民が憩える場所ではアルバイトとして働いていました。

人が集まる場所で思うのは、そこに集まる人が、同じ自然・音楽・絵・文学・アクティビティなどを一緒に楽しむ時間ってすごくいいな、という気持ち。だから、Nestの事業をはじめて知った時に、子どもから大人まで、学び合ったり教え合ったりする地域で、自分の「やってみん!(やってみたい!)」を叶えていこうとするのが本当に自分の理想のような気がして、ここに来たいと思うようになりました。でも、私は地域創生や教育を専攻しているわけではないし、私自身が自分のビジョンに自信を持つことができなかったから、「人と文化と自然をつなげる人になりたい」という、ぼんやりとした夢をあまり周りに話すことはしてきませんでした。ですが、西粟倉のどんな方に自分の夢ややりたいことを話しても、絶対に否定や軽い言葉で返すようなことはされなくて、とてもうれしそうに「そうか~!いい夢だね!」と、一生懸命になって一緒にそのことを語ってくださることが本当にうれしくて、そのたびに「ああ、私はこの悩みを抱えた時期に、ここに来れて本当によかったな」と思っていました。

「やってみたい!」を認めたり、一緒に考えたりしてくれることって、子どもの時だけでなく、いくつになってもうれしいことだと思います。こうして子どもたちと関わって、子どもが自分の世界を広げたという瞬間にたくさん立ち会えて、自分の「人と文化と自然をつなげたい」という理想は、やっぱりホンモノだったんだと、自分のことながらですが、感動しました。

はっきりと夢の言えない自分が嫌で、でも私の夢を言葉にできたのは、今回ここで、自分が理想とする時間と場所のようだと気づけるくらい、私が私らしく楽しめたからだと思いました。「人と自然、人と文化、人とひとがつながる場所」をこれからも私のテーマにして生きていきたいと宣言したいような時間になりました。
 

3.子どもが「学ぶ」瞬間に立ち会えた

桜が枝いっぱいに咲いた頃に、子どもたちと春さがしに行きました。
つくしが土手にいっぱい生えているのを見て「つくしだ!食べれるかな~」と言うと、子どもたちが「えー、おいしくなさそー」「食べれんよー」と険しげな表情。ところが外から帰ってきて、バケツにいっぱい入ったつくしを見たある女の子が「料理してみよっかなー」と言って、タブレットでレシピを調べ、つくしの炒り卵をつくり始めました。袴を剥く工程も「ぺりぺり取れるの楽しいねー」と手間さえも楽しんでいる様子。ほとんど一人で作ってくれて、出来上がったつくしの炒り卵をみんなに振る舞ってくれました。
実食するとき、大人のわたしたちの反応を見ながら恐る恐る口に運んでいた子どもたちでしたが、嚙んでみると目を大きく開けて「え!おいしい!」とお椀に入ったつくしを一瞬のうちに口に入れていて「これ地域食堂で丼にして食べたい!」「家で今日もつくりたい!」と、とても気に入ってくれた様子でした。

食べたことのないものを食べてみるという体験をして、おいしそうではなかったものが実はおいしかったというまさに「子どもたちの世界が広がった」日だったと思います。村にある資源や身近なものから、世界が広がる。そう考えると、日常や自然はいつでも教室になるように感じます。私も子どもたちから、思い込みをそのままにしていてはもったいないということ、季節の野草をいただく喜びなど、たくさん学ぶことができました。

 また別の日、薪割りをした男の子が「なんか白いのがついとる」と、割った薪に付いていた白い破片を見て、一言つぶやいたことがありました。その疑問にすかさず要さん(Nestスタッフ)が「その白いのなんだと思う?」と問いかけていました。「わからんー、汚れ?」と答えた男の子に要さんが、次は「顕微鏡で見てみる?」と聞いて、顕微鏡で見てみると、ちょっとよく見えない。その後は火で燃やしたり、水に溶かしたり、もう一度薪から白い破片を採集したりしました。すると次に、薪を見たその男の子は「年輪って植物にもあるのかなー」と新しい疑問を持ちました。すぐに一緒に川辺の植物が生えている場所に行って、12種類くらいの植物を採集してきました。図鑑で見つけた植物を探したりして、そこからもまた新たな疑問の連続。「葉っぱってどんな形があるんだろ?」「図鑑って本当に全部種類が載ってるのかな?」などなど…

ひとつの疑問から様々な疑問につながって、世界が広がって、学びはその姿勢がある限り、止まることはないということを教えてくれました。そんな子どもたちの学びをサポートする大人は「それだけ多くのことを知っておかないといけないよね」と要さんがおっしゃっていて、大人も子どものように「なぜ」のアンテナを張っておくことが重要であるということも教えてくださいました。

4.企画づくりにチャレンジした

Nestの事業のサポートに加えて、今回のインターン中に自分で企画したイベントを実施させてもらえる機会がありました。考案した企画は「オリジナルチョコレートをつくってみよう!」という「食」に関するテーマのイベント。現在、私は大学でフェアトレード推進団体に所属しており、以前フェアトレード関連のイベントで、カカオ豆からチョコレートを作るワークショップに参加した時、カカオからどうやってチョコレートになるのかを体験し、その過程やカカオの味に感動したことが今回Nestでの企画に結びつきました。

「教える、教わる」の関係性から「学び合う」関係性へ

企画を作り、それを実行するということはファシリテーターになるということ。大学やサークルで進行をすることは何回かありましたが、本格的な進行は初めてでした。

はじめに想定していた進行方法は、レシピを伝えてそれに沿って作ってもらい、時々カカオに関するクイズやお話をするという、私が参加したチョコレートづくりのワークショップスタイルでした。しかし、ファシリテイトの内容をNestの皆さんに見ていただいて、自分の進行には子どもたちとの関係性が見えないということがわかりました。

「教える」「教えられる」の立場がある、それは一方的に情報を与え、受け身の知識しか得られず、関係性があるとは言い難いものです。大人も子どもから学ぶ、一緒に学ぶ関係性は「対話」を大切にするということ。そこからは、「甘くするにはどうすればいいと思う?」「太陽光でカカオニブは溶けやすくなるか?」を実験のように進めていく内容に変更しました。

そうすることで、子どもたちの考えた予想と違う結果で生まれるギャップから学びが生まれることもあったし、「カカオ豆、剥きにくいからすりこ木でつぶす!」と言って、子どもたちが工夫しながら自分のやり方を見つけて作業しているのを見て、私も「その手があったか!」と学ぶことがたくさんありました。

学びは大人が「教える」のではなくて、大人が「教えられる」ものでもあること。子どもたちから「そんなやり方もあるのか!」ということもたくさんあるし、知らないこともたくさん教えてくれます。ある日のPocketで、「菊芋って生でも食べれるよ~」とある女の子から教えてもらえたので、食べてみるとしゃきしゃきで甘い大根みたいな食感で美味しかったんです!「子どもと大人」という年齢の関係だけではなく、「子どもだから見つけたこと」「大人だから知ってること」を教え合える関係はとても大切だと思います。

伝えたいメッセージはひとつでいい

企画の準備を進めていく中で、要さんから「この企画でたった一言、子どもたちに伝えられるとしたらどんなメッセージ?」という質問に、かなり頭を悩ませたことがありました。

「どうやったらカカオからチョコレートができるか?」「フェアトレードのこと?」あれこれと考えても、なかなか自分の中で答えを見つけられない。「最初に企画について一緒に考えたときに話していたのは何だったっけ?」という言葉でやっと思い出したのが、「自分で作ったチョコレートはおいしい!」ということ。自分の企画づくりを振り返ると、話したいことや体験してほしいことが色々とありすぎて、用意している企画が一体何のイベントなのか、自分自身でもいつの間にか分からなくなっていました。

ひとつのメッセージを軸に持っておくことで、プログラムづくりが格段に良くなったと感じます。例えば、「フェアトレード」という少し難しい話をどうやって子どもたちに伝えよう、という場合。「チョコづくり」も「フェアトレード」もメッセージを伝えるための手段と要素ですが、それをバラバラにやってしまうと一貫性のない内容になってしまう、そんな状態をつないだのが「チョコレートのパッケージづくり」でした。

どういうことかというと、「100円チョコのうち、カカオ農家さんはいくらもらえると思う?」という質問をした際に、その答えである「約3円」というカカオの現実に衝撃的だったのか、パッケージづくりで自分が設定した値段をじっと見つめている子がいて、自分が身をもって体験したからこそ感じられるチョコレートの現実を知るきっかけになった様子で、「パッケージづくり」がその二つの要素を同時に実施できる・伝えられるアイディアになったということ。フェアトレードっていうおいしいチョコレートがある、ということを知ってほしい身としては、子どもたちが自分でそのギャップに引っかかったことが何よりもうれしかったです。

パッケージづくりは、子どもたちはお絵描きが好きという日常から浮かんだアイディアだったのですが、これがチョコづくり全体の振り返りのようなはたらきにもなり、どんなところがセールスポイントか?どんな原料を使ったのか?子どもたちが自発的に思い出しながら学んだことや初めて知ったことをラベルに書いている様子がとても印象的でした。

本気の想いがあれば伝わる

企画当日、私のタイムマネジメントの配慮不足で、予定していたフェアトレードの話を十分にできないという事態が発生してしまいました。そこで急遽、オリジナルチョコと市販のチョコ、そしてフェアトレードチョコの食べ比べの時に少しだけ、フェアトレードとカカオ農家さんの抱える問題についての話を短く、子どもたちにお話ししました。

急に予定時間の10分くらいから2分ほどになり、準備していた台本は使い物にならなくなった。さあ、この2分で何が伝えられるだろう?頭の中はまったく整理されませんでした。咄嗟に口に出た言葉は「今目の前にある100円のチョコレートのうち、カカオ農家さんはどれくらいのお金がもらえると思う?」という質問。「半分?」「うーん、30円くらい?」と子どもたちは答えてくれて、その後はどうしてそんなことが起きているのか、そしてフェアトレードが「みんなが幸せになれるチョコレート」だということを伝えました。誰がどうして幸せになるのか、子どもたちは私を見て話を聞いてくれていた気がします。

正直、これほどしか覚えてないくらいでしたが、その日の振り返りへのフィードバックに「普段から考えていることしか本番で出せないと思っています。大学での活動3年間が詰まっていたし、想いをもって取り組んでいたことが伝わってきました」というコメントをいただき、私ははじめてフェアトレードに対して無意識の熱意を持てていたのだと気づきました。大学生になって一番と言ってもいいほど、自分の中では試行錯誤しながら取り組んだ活動だったので、その言葉は感情がこみ上げてくるほど報われた気持ちになるようなものでした。

5.繰り返しやることでわかること

大人の期待する学びを強制しないこと

実は当初の予定では、チョコレート作りは一回で終了する予定でした。一回目のチョコレート作りの振り返りで、食感がザラザラの、カカオ本来の味が体験できるチョコレートはできあがったけど、一方で子どもたちが思う美味しいチョコレートにはならなかったことについて、カカオ本来の苦いチョコレートを知ってもらうっていうのは大人の期待する学びになる、というフィードバックをいただきました。

こうなってほしい、こうしてほしい、というのはあくまでも大人の期待する学びであり、今回の「苦いけど、自分で作ったチョコレートっておいしいよね」は「おいしいチョコレートをつくりたい」という子どもの「やってみたい」から外れるメッセージになっていたことに気づきました。カカオの味はわかった、ではおいしい甘いチョコレートはどうやってつくることができるのか?「苦いチョコ」で終わるのではなく、その次のステップをつくってあげることの大切さを学びました。砂糖の量を変えたり、粉乳、牛乳、コーヒーフレッシュを入れてみたり、分量を変えて何度も試作を重ねました。

そして二回目のチョコづくりを経て、二回とも参加してくれた子どもたちからは「一回目よりもおいしい!」との声。子どもたちは「お!これチョコレートになっとる!」と、思っていたチョコレートができた様子で、チョコレートってこうやってできるんだ!という発見を一回目の時よりも楽しんでやってくれた気がします。

2回し、3回し…することの大切さ

二回目のチョコづくりでは、子どもたちから「おいしいチョコレートができた!」と言う声をもらうことができましたが、一回目でできたはずのフェアトレードのことを話すことができませんでした。

二回目の準備の段階から、今回はチョコレートをおいしく作ることをメインに考え過ぎていて、前回のGoodだった「フェアトレードを知ってもらえた」という点を二回目ではBetterにしてしまいました。同じテーマの企画であっても、毎回Betterは増えていくし、同じコンテンツになることはないと思います。一回目のGoodをそのまま放置しておいてはいけないし、さらによくするための二回目に、GoodをBetterに戻しては振り出しになってしまう。

二回目をすることによって、子どもたちに、子どもたちの思う「おいしいチョコレート」をつくってもらえたこともそうだし、私にとっても、「ホンモノとは何?」「大人の期待を押し付けるってどういうこと?」「同じことを繰り返しやってみることってどうして大切なの?」など、振り返りを重ねることや試作を重ねたからこそ、コンテンツ作りで考えないといけない大切なことを知って、皆さんと考えることができた貴重な機会になったと確信しています。

二回目のチョコづくりでの振り返りでは、次は子どもたちにフェアトレードをわかりやすく伝えるために絵本や紙芝居をつくりたいと思っています。これからまた、3回目、4回目…と繰り返し同じ題材でやることで出てくるBetterを追求しながら、伝えたいメッセージを一人でも多くの人に届けられるようになりたいです。

6. 私 という人間を見てくださったNestのみなさん

Nestのインターン中は終業後にその日の振り返りとして日報を書きます。また、イベント時にはNestスタッフ全員で「Good(よかったこと)&Better(こうすればさらによくなること)」を出し合う振り返りも行います。
私の毎回の日報には、Nestの皆さん全員がいつも欠かさずフィードバックをしてくださいました。はじめはフィードバックというと、(厳しい言葉があるのかな…)と少し構え気味で書いていたのですが、Goodにはとことん「いいね!」をくださり、Betterには細かくアドバイスをしていただきました。
Nestでの活動はよく体を動かし、初めて学ぶことがたくさんあるので、頭と体を使うなー!と毎日思っていました(笑)でも、そんな中で思うのは、自分で振り返りをして、文字におこして、こんなことを発見できた!みなさんからこんな風に思ってもらえていた!と感じるときに、自分の知らなかった一面を見つけられたような、成長を感じられたような気がしました。

要さんとその日の終わりにひとつかふたつ、おしゃべりさせてもらったことがあったのですが、その瞬間も、私はこんなに話を聞けて本当によかったね、忘れちゃだめだよ、と自分に言い聞かせていました。「人に止められてもやってしまうことは本物の好きであり、やりたいこと」「行動よりも感情をふりかえられるということ」。Nestでのインターン活動もですが、それと同じくらいNestの皆さんとの対話は濃くて、悩みで締め付けられている頭のなかが緩む気分でした。

1か月半にわたって完成した「私の振り返り」と「私という人間に向けてくださったNestの皆さんからのフィードバック」は、西粟倉で生きて、Nestという場所で過ごせた世界で一つだけの大事なお守りになりました。これから悩んだり、何かがわからなくなったりした時、このお守りをもう一度見返したら、きっと自分が何に夢中になっていたのか、自分はどんな傾向なのかを知ることができると思います。それは、この振り返りがこの1ヵ月半で間違いなく私が考えた証拠になるものであり、過去の気持ちや考えを見つめ直せるものだから。

マイ企画、子どもたちとの関わり、様々なバックグラウンドを持つ大人との出会い、これらの瞬間のできたての感情こそ、自分の大切な価値になったと思います。

7.毎日「うれしかった」と思えるのは人と話すことだった

Pocketの地域食堂

「Pocket」が開所してから、毎週火曜日と木曜日、村の皆さんが気軽に夕食を食べに来ることができる「地域食堂」がオープンしました。

最近楽しかったこと、今ハマっているもの、はじめましての人との自己紹介、大きな一つのテーブルを囲んでおしゃべりしながらご飯を食べました。普段会わない大人と子どもたちが交流している風景や、子ども同士でご飯を食べ終わってから遊んだりしている姿や、お母さん同士がお話している様子を見て、「食べていただく」の裏にもっと大事なねらいがあったのだと気づきました。Nestのみなさんが「小学校に新しく来た単身の先生に宣伝してきた!」「新しく来た役場の職員さんに地域食堂があること言った!」と、どんどん輪を広げていかれているのが、人の輪がどんどん広がっているようで素敵だなと思いました。

私自身、地域食堂のおかげで、たくさんの村のみなさんとお知り合いになることができました。食堂がつなげてくれたご縁です。村の皆さんは面白い方たちがたくさんいらっしゃるので、いつも食堂の時には「今日はどんな人としゃべれるかな」とわくわくしていました。普段会っている子どもたちからは「ぴーちゃん、横で一緒に食べて!」と言ってくれることもあって、そんなときはとてもうれしい気持ちでいっぱいになりました。食事終わりには小学生の男の子たちとチェスなんかしたり…。

少なくとも私にはこの食堂で生まれたご縁、もっと強くなったご縁がいっぱいあるので、ここを利用してくださった方たちにも、きっとたくさんのご縁が生まれたのではないかと思います。

遠くから名前を呼んでくれるということ

このインターンでの一番の醍醐味は子どもとの関わりだったと思います。関われる場所はPocketだったり、小学校・中学校だったり、休みの日に村のどこかでばったり会ったり。

このインターンで出会った子どもたちからは「ぴーちゃん」と呼ばれていました。顔がやっと認識できるくらいのところから「ぴーーーーちゃーーーーん!」と名前を呼んでくれたり、Pocketでやりたいことを見つけた時に「ぴーちゃんも来てや~」と誘ってくれたり。もしかしたらこのインターン中に最もうれしかったことは、名前を呼んでくれて、一緒に「やってみたい!」をすることだったかもしれません。

子どもたちとの関わり方は、Nestのぽんさんから学ぶことが多くありました。どんな声掛けが子どもたちの背中を押してあげるのか、一緒に悩み考えてあげることは考えることの妨げにはなっていないということ。「どうしたい?」と聞くと、「こうしたい」という答えが返ってきたときは、子どもの自由な気持ちや感じ方を問いかけるって、子どもを信じてあげることのひとつなのかなと思いました。大人が思う完成形に導くことが子どもとの関係ではないと思うし、子どもの素直な感性を聞いて、背中を押してあげることこそ、大人の役目なのだと思います。

大人の皆さんとお話することも、西粟倉で生きるうえで支えられたと思える時間でした。一度伺っただけの飲食店で「インターンはどう?生活は慣れた?」と、お店の方々が覚えてくださっていたことがほとんどで、知ってもらえているってシンプルだけどとてもうれしいことなんだな、と縁もゆかりもなかった土地に来た身としてはすごく幸せな気持ちでした。

お会いする西粟倉の大人の皆さんは「がんばってね」というお言葉だけでなく「楽しんでね」と言って下さり、それがとても印象に残って、私はそれがとても素敵なことだなと思います。インターン中は想像と違って大変なことも多かったですが、「楽しんでね」という言葉が、「楽しさ」「ときめき」「ウキウキ」を忘れないようにしないと!と度々思い出させて、背中を押してくれた気がします。

人が集える場所

温泉地である西粟倉は昔々、鎌倉時代に狸が狩人に撃たれ、数日後には元気な姿で山に帰っていくのを見た村人が川辺を探すと温泉が湧き出ていた!という言い伝えがあるそうです。(なんとある夜に狸を見かけました…!)そんな狸がシンボルマークのあわくら温泉に「元湯」さんという温泉兼ゲストハウスがあるのですが、週3で通っていました。お風呂のサブスクに入ったくらいです(笑)

元湯さんに行くと思うのは、「銭湯」がコミュニティの中心の機能を持っているということ。行くと必ず誰かとお話できるんです。林業をされている村の女性、以前会館でお会いした女性とそのお子さん、温泉巡りをされていた村外の方。「あ、この間一緒に遊んでくれたお姉さん!」「この間、会館で縫い物してましたよね?」(感謝祭の時の粗品のポケットを作っていました)と声をかけていただくことが何回かあって、コミュニティの小さな西粟倉だから成り立つことだと感じました。

一人で西粟倉にインターンに来たというのは事実だけど、寂しさを感じることは思えばなかったような気がします。繋がりが生まれるというのは、少なくとも私は大変幸せなことだと思います。西粟倉はどこのお店に入っても、帰り際に「また寄ってくださいね」と声をかけてくださります。村の人にも、村外の人にも、誰にでも。そんな一言が人と人をずっとつなげているんだな、とあたたかい気持ちで胸がいっぱいになりました。

8.さいごに

これから私は何をやりたいのか、どんな理想をもって生きるのか、悩みを抱えてここに来たからこそ、数えきれない人や体験から与えてもらったことがたくさんあったと思います。「生きるを楽しむ」という西粟倉村のスローガン。誰にでも平等に与えられている「生きる」というものは、自分自身で、楽しく、理想的に作れるのだということを改めて知りました。

要さんが人間の一番の美しさは「人間の希望や夢を持つ」というところだと、いつか私にお話してくださり、私もまさにその通りだと思いました。人はいくつになっても希望や夢を見つけることができるはずです。

子どもたちが遊びで世界が広がっていたように、私の世界も大きく大きくなりました。悩んだことも、大変だったことも、やがては理想や夢を持つきっかけになり、その感覚がとても好きになりました。

西粟倉で出会ったすべての方とのご縁に感謝いたします。ここで生きることができた西粟倉での時間と考えたことは、必ずこれからの私の価値になると信じています。

 藤野ひより


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