璦憑姫と渦蛇辜 19章「父と娘」①
白い月と黒い海のはざまを死人に守られた舟がどこかを目指して進むのを、磯螺は見ていた。
その少し前、海の東に鮮血が広がるのも見た。
鯱が人を食ったのだ。ひとりを食いかけ、その脚を齧ったたところに別のひとりが飛び込んだ。
食うと食われるは海の中では絶え間なく起こっていることで珍しくもない。見るべきものはひとつだけだった。水鏡を橋渡しとした<道>からワダツミが現れたがその腕を失っていた。
鯱が咥えた『波濤』を追ってきたのだろう。水鏡の道を開いた術者の姿はない。代わりに人の男が同じ