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BUCK-TICK全アルバムレビュー⑤未来しか見えねぇ!(補助教材付き)



山田です。
BUCK-TICKの全アルバムのレビューをやっています。

前回は『花も灰もBeauty』と題し、「十三階は月光」〜「RAZZLE DAZZLE」について書きました。

今回は「夢見る宇宙」〜「No.0」までをやっていきます。

引き続き、各作品を深く理解するために参考にした他アーティストの作品を(音楽に限らずに)書いておくことにします。

BUCK-TICKが好きな人にもそうでない人にもぜひ読んでいただきたいです。
それでは早速いきます。



●夢見る宇宙(2012)
デビューから四半世紀経って、こんなに可能性を感じるアルバムが作れるのがすごい。
2012年はフェスがあったり映画を撮ったりと音楽制作以外の活動もあって、当時のファンにとっても忘れられない年になったに違いない。
とはいえ今までの集大成と言うにはあまりにもこれからを見据えている。
このアルバムが現在まで続くニューウェーブ期の序章に過ぎないことを、当時誰が予想できたのだろう?
まそれはいいとして、このアルバムの構成は祝祭の一日みたいだと思う。
エリーゼのために-ROCK for Elise-から人魚-mermaid-までライブで盛り上がりそうな明るい曲がドドドッと続いて夢路で落ち着いたあとの流れは感動的。
みんなが星空を見上げられるよう1人残らず救っていって、夢見る宇宙のイントロの轟音で全て大丈夫にしている。
こんなに希望に溢れたシューゲイザーの名曲があったとは。
禁じられた遊び-ADULT CHILDREN-は冗談抜きで人の命を救っていると思う。それも、簡単には救えなくて簡単には救われたくない人の命である。
縮こまって泣いている幼い自分に寄り添いあなたは自由と語りかける歌詞は、大人になった櫻井敦司にしか歌えないと思う。46歳かあ。
この境地にたどり着くまでの道のりは長くて厳しかったろう。
自分の力でたどり着いて、道半ばにいる人に寄り添う側になった彼を心から尊敬します。
我々も自由に生きられる未来を夢見て自分の道を行こう。

○参考にしたもの
・映画「ロケットマン」
エルトンジョンの伝記映画。自身のインナーチャイルドに耳を傾け前に進もうとする姿があっちゃんと重なった。
・揺らぎ「nightlife」


●或いはアナーキー(2014)
DA DA DISCO-GJTHBKHTD-のアルファベットの意味分かる人いるのかな。
歌詞に出てくる「ガジベリビンバ」はダダイスムを牽引したと言われるフーゴ・バルの詩のタイトルで意味は無いらしい。
トーキングヘッズのFear of Musicの1曲目にも「ガジベリビンバ」が出てくるよね。
あとはゴスの大御所バウハウスのバンド名もダダを盛り上げたドイツの建築の学校バウハウスから取ってきている。
今のBUCK-TICKといえばゴスとニューウェーブが融合したような印象があったのだけど、どちらもダダから影響を受けたジャンルみたいだ。
反戦、ニヒル、ナンセンス、無意味、不条理…
これらはダダイスムを形容する言葉であるが、BUCK-TICKを理解するためのキーワードでもあると思った。
と同時に本質は別のところにあるとも思った。
BUCK-TICKってなんかこうもっとロマンチックなんだよな。
ルーツやインスパイア元を推理して見たり聞いたりすればするほど、彼らの根底にある叙情的な部分が愛おしくなる。
このアルバムのどこら辺がニューウェーブで斬新で…とサウンドや世界観について語るのもいいけど、滲み出る叙情こそ一番の聴きどころだと言ってしまいたい。
良い歌多い。普通に。形而上 流星とか泣くだろ。なんだあのサビの轟音。
斬新なアイデアも多彩なアレンジも、歌を響かせるための演出でしかないところがBUCK-TICKの良いところだと思う。
このアルバムで改めて実感した。

○参考にしたもの
・トーキングヘッズ「Fear of Music」
・初音ミクsings ニューウェイヴ
国産ニューウェーブの名曲を初音ミクちゃんがカバーしたコンピアルバム。原曲を集めたバージョンも同時発売されている。平成生まれとニューウェーブを繋げる名コンピ


●アトム 未来派 No.9
なんですかこれは。まだカッコよくなるんですか。
アコギとダブステの絡みが気持ち良すぎる1曲目、最初の歌詞が「愛してる〜〜」なのがこのアルバムの世界観をよく表してると思う。
SEXY STREAM LINERのタナトスで官能を、memento moriで生きる喜びを歌った彼ららしく、20世紀のSF的な世界観に血の通った歌が乗ってるのがかっこいい。
サウンドもグッとデジタル成分が増えて、SEXY STREAM LINERでやろうとしてたことって間違ってなかった!ほら!やっぱかっこよかったんだって!と大声で叫びたくなる。
El Doradoなんかミドルテンポの人力ドラムンベースですから!
まそれはいいとして。
PINNOA ICCHIO-躍るアトム-はピノッキオと鉄腕アトム、DEVIL'S WINGSはデビルマン、THE SEASIDE STORYは人魚姫など、人外×迸る命の叫びのマリアージュがたまらない。
今井寿のマッドサイエンティストっぷりが前面に出ているFUTURE SONG-未来が通る-も最高に痺れる。この先もずっと未来を行くのだ彼らは。
星野楽曲も相変わらず良いアクセントになっている。
JUPITER、楽園など彼が作曲した歌には郷愁や遠い所にいる両親に想いを馳せる詞が多い印象があるが、星野楽曲特有の異国情緒漂うドリーミンな魅力が良い意味で詞を抽象化していると思う。
近未来的な世界観のままで突き進むのかと思いきや、雨音から始まる愛の葬列とNEW WORLDで一気に現在に帰って来る流れもすごい。
21世紀の地球にはまだ雨が降るし、新しい世界をつくるのは未来を夢見る私たちなのだ。
現在を肯定するためのSF作品として、いつまでも新しい響きを持って鳴り続けるアルバム。

○参考にしたもの
・火の鳥「未来編」「復活編」「望郷編」「宇宙編」
改めて読んで吐きそうになった。
レトロフューチャー的な世界観、人間のちっぽけさと命の尊さについて容赦無く描かれていて、BUCK-TICKを理解する上で避けて通れない作品だと思う。
火の鳥を読んで最悪の年末年始を過ごそう!
・NEW GENE,inspired from Phenix
19年リリースの火の鳥のトリビュートアルバム。やくしまるえつこ×fnneszが最高。
・THA BLUE HERB「未来世紀日本」
・映画「Dune 砂の惑星」


●No.0(2018)
前作からのSFムードはそのまま、狂気が咲き乱れている。ガデムモーター超フル回転とはまさにこのこと。
このアルバムを理解するにあたって色々調べていたのだけど引用元があまりにも多くて、全部に手を付けてたらいつまでも書き終わらないなと思った。
聴けば聴くほどもっと知りたくなる。知的好奇心をくすぐるというか中二病的血湧き肉躍るSFの世界に誘うような作品だと思う。
難解っぽさとキャッチーさのバランスがすごい。
ダブステップが炸裂してるのに猫が全てを持っていくEDM歌謡GUSTAVEとか本当にどうかしてる。言っとくけどファンもだぞ。
薔薇色十字団、サロメ、光の帝国、BABELなど言い出したらキリないというか逆に何も言うことがない強烈な楽曲に思わず腰を抜かしてしまう。テクノにもロックにもないニューウェーブのかっこよさってあるよな。
単にクールなだけじゃなく破壊的な行動に出るでもなく、美しくいることで世界に反抗するような感じ。
V系とニューウェーブとナルシシズムの関係について近ごろよく考えるのだが、答えが出ないのでまだ書けない。
あと気になったのが、Moon さよならを教えてとOphelia。
この2曲は女性を演じているという共通点もあって、さらにオーフィリアの花言葉は「私を忘れないで」なのでセットなのかなと思う。
どちらも声色や詞が優しくて儚くて美しい。包容力を感じさせながらも弱々しく、理想の女性像を櫻井敦司自身が演じているように感じる。
ここからちょっとセンシティブな話をします。

櫻井敦司は限りなく異性愛者というか女性愛者で、しかも彼にとって最愛の、理想の女性ってお母様だったのかもと思うことがある。
楽曲を通して彼自身が大好きな母と同化し、想像上の母性を体現したのがこの2曲なのだと考察してみる。
女性的なモチーフを身にまとい恍惚の笑みを浮かべる彼はぞっとするほど美しい。
ただクィアなアイデンティティの表現というよりは好きなものとの同化願望の表れに見える。
つくづく彼は究極のナルシストだと思う。


○参考にしたもの
これに関しては参考にすべきものが多過ぎて全部チラ見しかしてない。
稲垣足穂、ルネ・マグリットなど、1920年代前後の芸術からの影響はあるはず。
・Apple Musicで知らん人が作った、Soviet new waveのプレイリストを勝手に聴いた



今回はここまで。
付け焼き刃の知識でも無いよりはマシだと思って色々書きましたが、トンチンカンのポンポコピーのポンポコナーの自覚があります。
本記事をきっかけに、多くの方がこのニューウェーブ期について語ってくださることを願っています。

次はいよいよ最終回だ!

あと少しお付き合いください。
ありがとうございます。
以上ですニャ

↓知らん人のSoviet New Waveのプレイリスト
キムさんありがとう

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