ド・ドドンパ(富士急ハイランド)

 ハンドルを握ると性格が変わる人がいるという。普段穏やかな人が車に乗った途端、急発進、急ハンドル、そして速すぎるスピード。速度違反で捕まるのは本人の勝手かもしれないが、助手席に乗せられている人間はたまったものではない。私はスピード狂ではない。同僚の車から降りた私は、大きなため息をつきながら思った。
 翌朝、高速バスに乗り込んだ私は、ここでも緊張しながら前方の風景を凝視する。安全運転を心掛けた運転であるとわかっていても、時速80kmの速度はやはり少し怖い。

 2時間ほどの緊張から解き放され、目的地に到着した。
 高速バス乗り場から急ぎ入園口に向かう。
 しかし、素直に入園口までたどり着かせてくれないのが富士急ハイランドだ。お土産物屋や手前のパリ風の街並みを通り過ぎ、かなり大回りをする状態で入園口にたどりつく。その手前、右手に見えている建物、それが今回の目的だ。しかしここからでは戻って来たライドが一瞬見えるだけ。
 窓口でチケットを購入し、入園口を通過する。

 バシューン…シューーーーゴゥッ

 ちょうどそのタイミングで、右側からエアコンプレッサーの音が響き渡る。チューブトンネルになっているためここから中を伺うことはできないが、この場所がまさに発射場所だ。その音の発生源を潜るように進むと入口が見えてきた。
 一見するとプレハブのような無粋な建物に、ブルーの柱。そしてブルーと白のストライプでデザインされたスロープがみえる。約2往復しながら上部の搭乗口に続くスロープ。そのスロープの中段に巨大な「ド・ドドンパ」の看板が掲げられている。最初の「ド」の文字が非常に大きいのは、かつての「ドドンパ」よりも更にパワーアップしたことを誇示しているのだろう。さっそく最後尾に並ぶ。「ド・ドドンパ」のキューラインはこのスロープと、外にあるロープで区切った列である。今はまだスロープから待機列があふれるほどではない。

 スロープのキューライン上には大型のモニターがいくつか並んでいる。旧「ドドンパ」から「ド・ドドンパ」への見た目で一番大きな違いである、垂直タワーからループへの建て替えを定点カメラで追った映像や、「ドドンパ」時代のクイズなどが流れていて、待っている人を飽きさせない。もちろん、利用上の注意についてもしっかりと流れている。しかし、周りを見渡すと大部分の若者たちは友達同士、恋人同士の会話に一生懸命でモニターを観ているものは殆んどいなかった。

 そろそろ搭乗口が近づいてきた。入口手前からプラットホーム上に設置された超大型モニターの映像が目に飛び込んでくる。疾走感あふれる映像で、観ているだけでも段々と興奮してくるのがわかる。そしてほのかに香る焼けたゴムの匂い。他のコースターでもブレーキのゴムの匂いがするものはあるが、ド・ドドンパは車輪もゴムタイヤを使用しているだけあって、より強い匂いがするように感じるのは気のせいだろうか。

「何名様ですか」「1名です」

 係員がチケットを確認し、プラットホームへ。まずはロッカーに手荷物、ポケットの中身、身につけている装飾品をすべて預ける。ここでモタモタしているのは恥ずかしい。予めカバンの中に小物類をいれてスピーディに準備するのがスマートというものだ。ほのかにプラットホームに焼けたゴムタイヤの香りがする。

 ライドに搭乗。まずは自分でシートベルトのみ装着。係員がベルトの装着を確認した後、安全ハーネスを下ろす。肩の部分には余裕があるが、お腹にプレート状のサポート版があるので、最近少しお腹が気になる者には若干苦しい。だが安全のために我慢する。他の乗客も含めすべての安全装置の装着が確認されたところで出発。
 係員に見送られながら、ゆっくりと動き出したライドはすぐに右折しながら暗いトンネルに入る。長い直線の先にあるの出口の明かりが少し眩しい。ライドはここで一旦停止し、少しバックする。

「…ガコン」
 何かにぶつかったような軽い衝撃。これからこのライドを猛スピードで射出するエアランチャーのカタパルトに乗った音だ。一瞬の静寂が訪れ、射出のカウントアナウンスが流れる。いよいよ発射。思わず身体が強張りそうになるが、できるだけ自然体になるよう意識する。

「ぐっ」
 猛烈なGが身体にかかる。だがそれも一瞬。時速180kmの速度まで加速したライドは暗いトンネルから明るい外へと飛び出していった。
 この瞬間あまりの衝撃に硬直し、半ば気を失ったような状態になってしまう人も多いようだが、それではこの後が楽しめない。発射直前に自然体を意識したお陰ですぐに立ち直ると、まるで空を飛んでいるかのような0Gフォールの感覚を存分に味わいながら次のトンネルに突入。LEDでライティングされたトンネルは一瞬で抜けてしまうが、この時にまるでワープゾーンに入ったかのような感覚を得る。


 直後の右カーブを周りながら、こちらのライドを目で追っている絶望要塞2に並んでいるお客さんに手を振る。うん、まだだいぶ楽しむ余裕があるぞ。
 ド・ドドンパの最後の大仕掛け、巨大ループに突入。ループが大きいためかあるいは発射のGで慣れてしまったのか、回転時のGはあまり強く感じない。最上部ではかなり速度が遅くなり、止まってしまうのではないかという錯覚さえある。だが、このド・ドドンパは発射前に乗客の重さを測定し、一番ベストなパワーで発射していると聞く。止まりそうで止まらないギリギリのバランスが、スリルにアクセントを加えているようだ。

 最後の山場を終え、ブレーキゾーンに到着。他の乗客もほっと一息ついたのか、感想を述べあっている声が聴こえる。先程までのスピードの余韻に浸りながら、ライドはゆっくりとプラットホームに戻る。係員の指示のものと安全ハーネスとシートベルトを外しホームに降りる。ロッカーから速やかに荷物を取り出し、他のお客さんの迷惑にならぬよう、出口へと急ぐ。
 心地よい開放感。しかしそれと同時に訪れるもう一つの感覚。改めて入口を見ると待機列はスロープを越え、外まで伸びていた。だが、これなら1時間半も待たないだろう。

 「おかわり」しよう。

 こうして存分にド・ドドンパを堪能して、富士急ハイランドを後にした。

 帰りの高速バスは、やっぱり少し怖かった。

(END)

ド・ドドンパ:https://www.fujiq.jp/special/dododonpa/



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