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#51「聞かす必要ないこと」は聞かすな

芸能稼業は際立って浮き沈みの激しい商売で、「昨日までの超売れっ子が一夜明けたら閑古鳥状態」なんてこともザラです。

私が上京した頃、駅前の書店の店頭で、とある有名女性歌手(ここでは○△Xと厳重な伏字にさせていただきます)のサイン会が開かれてました。
エッセー集の出版を記念しての販促イベントでした。
その人は私が小さかった頃に一世を風靡したんですが、その当時は鳴かず飛ばずの不遇期で、サイン会には誰も並んでません。
マネージャーらしき男性と並んで店頭に座っている姿はとても淋し気で、お金に余裕があれば本を買ってサインをしてもらいたいところでした(余裕がなかったんで買えませんでしたが)。

私がいたたまれない気分になっていた時、サイン会場の前を見るからにチャラい男の2人組が通りかかりました。
1人が看板をチラッと見て「○△Xって誰よ? オマエ知ってる?」と聞こえよがしに言うと、もう1人が大きな声で「知らねー」。
いや、知らないわけがないんです。
私と同年輩ですから、子ども時代にはいやというほど彼女のヒット曲は聴いてたはずなんです。
そのときの○△Xさんの顔は正視できないほど辛そうでした。

今もSNSで「聞かす必要のないこと」をわざわざ当人に聞かせる輩がいますが、昭和の時代にもいたんですよ。
ほんっと、ああいうバカは大嫌い。
「好きではない/興味が無い」んだったら黙ってスルーすればいいだけなのに、妙な自己顕示欲を発揮して言わなくていいことをわざわざ言いやがる。

幸い○△Xさんは10年くらい後に再ブレイクして表舞台に返り咲きました。
そうなる前にはミュージカルで地道に頑張ってました。
それを見に行ったとき、楽屋口で出待ちをしてサインをもらったんですが、ニコニコと快く応じてくれましたね。
やっぱ人間、「低迷期にも腐らず動き続ける」のが大事なんだと思います。

山本リンダ


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