見出し画像

災害時の通信網復旧はどのように行われるか

千葉県の、特に南部を中心として台風15号の被害による停電が続いている。固定通信、移動通信の不通エリアも広く、現地からの情報発信がままならないとの報道もある。今回のような自然災害において通信網が損害を受けた時、どのように通信網の復旧が進められていくのだろうか。

◆電話局(NTT GC局)の電力を回復させる

若い世代では「電話局」と聞いてもイメージがわかないかもしれないが、要は家庭や企業の電話線が建物の外に出てから最初に行きつく先が各地域の電話局である(以下、NTT GC局と記載)。現在、日本国内の大手通信会社といえばNTTグループの他にKDDIとソフトバンクがあるが、実はどの会社もNTT GC局の中に固定通信用、携帯電話用の通信設備を設置している(一部例外はある)。そのため、NTT GC局の電源がなくなるとどの通信事業者の通信であっても通信障害が発生してしまう。

NTT GC局は通信における重要な設備であるので、当然東京電力による商用電源が喪失された場合に備えて予備電源を確保しているが、予備電源が稼働できるのは1日~3日間程度。今回の台風15号では当初3日以内で停電解消できると目されていたものの、その後停電期間が長くなることが判明したため、NTT GC局の予備電源が次々に停止していくという事態が発生した。

画像1

(出典:NTT東日本 報道発表資料 【別紙】「9月10日14時00分現在の見込み」)

たとえ携帯電話基地局側が被害がなかったとしても、その接続先であるNTT GC局が運用停止していれば通信はできない。その為、NTT GC局の電源は真っ先に回復させる必要がある。NTTが保有する電源車などをビルに接続することで東電の停電エリア内でも運用再開したNTT GC局も多い。

◆基地局側の電力を回復させる

携帯電話が接続する相手は基地局になる。当然こちらも停電している場合は電力を回復させないと電波は出てこない。携帯電話各社は通常時は東京電力などの商用電源を使用しているが、停電になると予備バッテリーに切り替わる。ただこちらも基本的には「停電を察知してから現地に駆け付けられるまでの時間」だけ予備バッテリーを整備していることが多く、中には3時間程度しかバッテリーが持たない基地局もある(セルインセル局など、予備電源を全く持たない基地局もあるが割愛する)。基地局に人が駆け付けた後は発電機を接続して基地局に給電することになるが、今回の台風15号では基地局に向かう道が倒木でふさがれているなど、なかなか基地局までたどり着けないケースも多いようである。

◆NTT GC局と基地局の伝送路を回復させる

NTT GC局の電源が回復し、基地局側も発電機で給電することで通信が再開できれば良いが、基地局とNTT GC局の間の光ケーブルが損傷を受けて通信できなくなっているケースもある。多くの基地局ではNTTのダークファイバーを使用して基地局とNTT GC局を接続していることが多い為、その場合NTTによる光ケーブルの補修工事が発生し、復旧まで時間を要することになる。

◆移動基地局車などによる仮復旧を行う

電力や通信の復旧に時間が要することが分かった場合は代替設備によるエリア復旧を図ることになる。各通信事業者が保有している移動基地局車は、基地局設備一式を車両に搭載したもので、イベント会場など一時的に通信需要が高まる場合などにも使用されている。衛星通信用のパラボラアンテナも搭載されており、電源も伝送路もないような場所でも電波発射が可能なものだ。

画像2

仮復旧の手段としては理想的とも思えるが、通常の基地局の代わりにはならない。まず、アンテナが低くて遠くまで電波が届かない。設置場所にもよるが、半径300m程度をかばーするのがせいぜいだったりする。また、伝送路として衛星通信を使用する場合は通常の光ファイバーと比べて帯域が狭く通信速度が出ない。あくまでも避難所や役場などのスポットで最低限電話が使える状態にできるものだ。
移動基地局車に似たものとして「可搬型基地局」がある。車から降ろして現地に設置して運用するものだが、専用の車両がいらないのでレンタカーに乗せたりすることも可能。移動基地局車は設置すると運用を終了するまで動かすことができないが、可搬型基地局であれば現地に設置したあと作業員が車両で他の場所に移動するなりして燃料補給に動き回ることもできる。

◆そのほかの暫定対策

移動基地局車以外の暫定対策としてはWi-FIやフェムト局を設置する、稼働中の基地局のパラメータ変更をしてより広範囲に電波が届くようにするなどが考えられるが、発電機で電力を回復させた場合も10時間おき程度の頻度で燃料補給が必要になるので、燃料の確保と補給の体制維持も必要だ。根本的にはやはり既存の基地局の電源と伝送路を復旧させる必要がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?