楽天の携帯電話網構築について

楽天の基地局整備が遅れているらしい。既視感のある話だな…というわけで、私見と考察を記録しておく。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48558790U9A810C1EE8000/


<ニュース記事の要約>
・6月末の基地局数が計画の半分に満たない水準だった
・サービスの本格開始時期が見通せず料金の競争に影響する可能性が出てきた
・「配線工事などで手間取っている」(楽天)ほか、五輪の特需で作業員確保が困難
・光ファイバー網との接続といった知見が少なく時間がかかりやすい
・「東名阪を網羅する面の整備はできるが都市部の基地局密度が足りない」(楽天)

◆開設計画とは
基地局の開設計画数は事前に総務省に申告しており、計画の通り解説していくことが求められる。「この時期にこれだけの数の基地局を建てますよ、だから電波を扱う免許をください」と約束しているから、計画を達成することは必要条件なのである。独占的に使用できる電波を割り当ててもらっておきながら「すみません、3局しか建てられませんでしたっ!」ってわけにはいかないのだ。かつて「アイピーモバイル」という会社があって免許を割り当てられたが、事業を開始する前に資金難により経営破綻した。通信事業は設備事業であり、巨額の先行投資が必要になる、カネのかかる事業なのだ。

◆料金競争が遅れる?
記事では「サービスの開始時期が遅れるから料金競争に影響する可能性がある」となっているが、そもそも楽天が参入することで料金競争が起きるのか懐疑的に見ざるを得ない。モバイル通信のサービスは①エリア②料金③端末④サポートの4方面で競争されてきた。このうち③端末については近年ではSIMフリー端末の普及などもあって以前よりは垣根は低くなってきたし、①エリア②料金④サポートについても国内の大手通信事業者3社間での大きな差はないとされている。前述の通り事業を始めるのにあたり多額の資金が必要になるのに従来の半額で料金競争をかける、というのも事業的には難しいだろうし、仮にそこで競争を仕掛けても他の3要素で見劣りするようでは勝負になりにくいのでは、と考える。

◆構築の遅れは何か?
整備の遅延は「配線工事の遅れ」「作業員確保が困難」という点が挙げられているが、ビルの屋上に置くタイプの基地局の工事だけであれば着手から1週間程度で形になることが多い。2週間もあれば大体の工事は完了する。業界では「置局8割」という言葉があり、基地局建設にかかる時間、調整に労力を割くべき時間は置局、つまり建物所有者と交渉して設置場所を確保するまでに8割を要するとも言われている。設置交渉は相手のあることなので、相手方に打ち合わせの時間をもらったり会社であれば稟議にかけたりする時間はなかなか読みづらい。がんばればなんとかなるわけではないところが難しい。

◆「知見が少ない」=知ってる人がいない
構築にかかわる知見が少ないというのもありがちな話だ。ビルの上に設備を置くのと同時に、その基地局とコアネットワークを接続するための光ファイバーを手配することになるが、ほとんどの場合はNTTの電話局内に間借りして通信設備を置いて、そこと基地局の間をNTTのダークファイバを使用して接続することになる。申し込みしてから使用できるようになるまでには最大2.5か月、通常は1か月ちょっとかかるが、そこが開通してから今度は電話局内のファイバーを接続するのにまた1.5か月とか時間がかかる。うまくやれば「同時に開通!」もできるが、その「うまくやる」のは知見がないと難しい。

◆基地局の密度が薄いと建物の中で使えない
基地局の密度が足りないと、通信集中による速度低下を招くほか、ちょっと建物に入っただけで使えない、といった事象が起きる。携帯電話が登場した頃に同じような経験をした人もいるはずだ。基地局はどんどん密度を上げて建設されていくだろうけれど、サービス開始の段階で「ちょっと建物に入っただけで使えなくなる」というイメージがついてしまうのは避けられないだろう。携帯電話の利用シーンは7割程度が屋内である、という調査結果もあったりして、移動中とか外出中だから携帯電話あてに連絡を取るという使い分けはとうの昔にされなくなっている。


ともあれサービス開始まではあと1か月半。初めはユーザーを制限してスロースタートするようだけれど、過去にウィルコムが手掛けたXGPもユーザー数を制限(正確には東京都特別区へ住所登録しているユーザーに対する限定サービス)してスタートしたが本サービスに至る前に破綻してしまった。正式サービスをきちんと開始して軌道に乗せることができるのか。料金競争ができるとしたらその後になるのではないだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?