見出し画像

雑誌の顔(タイトル)を決める(雑誌NEUTRAL COLORS ニュー・カラーへの道#3)

ATLANTIS zineとは雑誌ATLANTISができるまで、を追う内容で全6冊でした。雑誌が生まれるまでの編集者の心の動き、技術的なことを網羅しました。当初ここでATLANTIS zineの全文掲載をする予定でしたが、内容を追いかけつつ、新雑誌NEUTRAL COLORS(ニュー・カラー)が生まれるまでをレポートする方が面白そうという結論に至りました。ATLANTIS zineを掲載しつつ、NEUTRAL COLORSで実践する。そんな試みです。まずはATLANTIS zineの最初の最初、「タイトルを決める」からです。

「タイトルを決める」 ATLANTIS zine 01より

 コンセプトは後付けでもいいと思うくらい、雑誌にとってタイトルは重要だと思っている。自分の場合、これだというタイトルが浮かばないと作る気にならないくらいだ。それは気持ち的な部分が大きいからだろう。タイトル=自信に置き換えられる。強いタイトルは、説明を省いてもなお心に伝わる。編集作業中や広告営業中に、いちいち誌面を説明しなくても名を体が表してくれるのだ。ちなみに僕が最初に配属された雑誌は『日本ミニスカ倶楽部』だった。ミニスカのおネエちゃんの専門誌だから、ミニスカ倶楽部。電話で呼びだされるときはいつも「ミニスカのカトウさ〜ん!」と大声で言われていた(笑)。まあ関係ないけど。今でも憶えているってとこは強いタイトルだったということか……。

タイトルはコンセプトの後付けでいい

 かつてNEUTRAL(ニュートラル)は、久しぶりにマニュアル車を運転したときにピンときた。NEUTRALという単語の意味は“中間”。車ではギアがつながっておらず、動力が伝わらない状態をN(ニュートラル)ポジションと呼ぶ。その状態はP(パーキング)でもD(ドライブ)でもない。ふわふわした状態から、ギアを入れて発進もバックもする。そんなところから、頭をニュートラルな状態に戻して、右も左もそして世界を見る目さえも判断したい、とのコンセプトができた。企画書を書き始めたとき最初のタイトルはCONTAINER(コンテナ)だった。アフガニスタンでコンテナに詰めた玩具を配りにいくプロジェクトに参加したことがきっかけで、トラベル・ジャーナルマガジンのアイディアを思いついた。夢を詰めて運ぶもの=コンテナ、というコンセプトから先に考えていたタイトルだった。

 TRANSIT(トランジット)もまた偶然に思いついた。それでも常にタイトルになりそうな言葉を探して、数ヵ月バンド名を決める中学生よろしく辞書を引いたり、旅関連の言葉を組み合わせたりしていたのだが。結局、たまたま訪れたタイの乗り換え(トランジット)ポイントの表示で閃いた。旅するときは、世界中どこでもTRANSITポイントなんじゃないかと。あとはホテルの送迎車が“TRANSIT”だった……。これも最初のタイトルは、地球全体を旅するというコンセプトから、PANGAEA(パンゲア)だった。要するにコンセプトからタイトルを決めるのではなく、いつもタイトルからコンセプトが導き出される。

タイトルは連想ゲーム

 ATLANTIS(アトランティス)はどうだろう。男子がやたら好む、遺跡とかピラミッドとか儀式とか神殿とか、エリアではなく普遍的に興味の湧くものにしたかった。ワクワクするもの。日常を逸脱したもの。NEUTRAL、TRANSITと旅雑誌が続いたからそこからは離れたかったし、2誌はある程度女性を意識した雑誌だったので、今度は男性目線のみで突っ走りたいと思っていた。そして『のび太の海底鬼岩城』を娘と観ていたときのこと。じわじわと昔はこういう荒唐無稽な伝説とか、巨大な大陸とか憧れたなあと。そこからアトランティス大陸!=ATLANTISが降りてきた。まだ見ぬ大陸を見てみたい。日常の裏に大冒険が潜んでいる。そうやってタイトルとともにコンセプトが同時に生まれた。

 どんなタイトルならいいのか(最終的にはセンスなのだけど)、自分の中に少しだけルールがある。それは単純明快、“すぐに思い出せる”ものであること。ほら、親戚や友人の子どもの名前でもあるじゃないですか。まったく思い出せない名前と逆にすぐ思い出せる名前があるはずです。思い出すときに、何かと連想して憶えているというものある。たとえば、イチローと同じ音だけど朗らかのほうで「一朗」とか。親がサーファー(お父さんの日焼けした顔を見ながら)だから「海ちゃん」だったなとか。人は頭の中で連想して記憶を脳にすり込んでいる。そして何度も連想して思い出すうちに二度と忘れない記憶となって定着していく。雑誌のタイトルも同じだと思っている。コンセプトをこねくり回してタイトルにつなげても定着する記憶にはなりづらい。

 タイトルが降りてきたら簡単な“検証”作業に入る。ATLANTISはすぐ思いつけるか(まあ男子なら大丈夫か)、何かと連想して記憶の定着となりうるか(言わずもがなアトランティス大陸)をテストしていく。方法は100人に聞いてみること。内訳は、自分のことを知っている仲のよい10人、ターゲットに近そうな人20人(編集者とかライターとかイラストレーターなど同業者)、遠そうな人(公務員とか年配の方など)20人、まったく面識のない一般の人40人(街に出て聞き込み)、うるさがた(逆のことを言うような一家言ある先輩など)5人、家族が5人……そんな感じで100人アンケートを取る。結果としては、やはり男性はピンときているようだった。男性的には「昔、憧れた」「なんか不思議に記憶してる」など同じようなプロセスを経ているのが面白かった。

最後は自分で決める

 思いついたイメージの断片を数々と並べ、ふるいにかけ、最後は直感を信じATLANTIS(アトランティス)というタイトルに決めた。誰でも知っている単語よりも少しマイナーだけど、連想ワードで定着するようなタイトルだと思う。最後に蛇足だけど、自分で決めることが重要。誰かに相談して少しでもその人のアイディアが入ると永遠に言われるじゃない、俺も考えたって(笑)。アンケートはあくまでも補助的な要素。自分の確信を高めるために行う。あとは身近な人に突然告げて、反応が良ければそれが答えな気がする。最初の読者になってほしい人に聞いてみて反応を見る。究極を言うと、奥さんの眉間を観察すればわかりますよ。シワが寄ればNGで、緩めばOKってことです(笑) © SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS

NEUTRAL COLOR(ニュー・カラー)の場合

 どうして『NEUTRAL COLORS(ニュー・カラー)』にしたのか。まずは20代で作ったNEUTRAL(ニュートラル)というタイトルに深い愛情があったということが一番大きい。20代でNEUTRAL、30代でTRANSIT、40代でATLANTISにチャレンジして、さあ最後の雑誌となったとき、心に決めていたタイトルでもあった。けれど、そのままの名前は使用できない。ふと本棚を眺めると、捨てられない雑誌の中に『COLORS』という雑誌を見つけた。90年代によく買っていた雑誌で、衝撃的な特集と新しい写真組み、そしてジャーナリステックな記事で知られる。特集主義の掘り下げ方にかつてはとても感銘を受けた。

ニュー・カラーという響き

「NEUTRAL」と「COLORS」という単語を念仏のようにつぶやきながら、単純にくっつけてみたとき、ニュートラル・カラーズ、ニュート・カラー……ニュー・カラー!という呼び方が自然と生まれた。「新しい色(ニュー・カラー)」ではなく、「ニュートラルなカラーでニュー・カラー」。もうどっちでもいいんだけど(笑)。ATLANTIS zineで書いたように、すぐ憶えられるし、何よりも響きがいい。

 ニュー・カラーのコンセプトは、個人の体験や思想を反映すること。日常に張り付いたイメージを具現化するために旅に出て、吸収したものを人生に活かす。だから旅先は個人によって千差万別であるはず。雑誌がそこをコントロールしない。超個人がニュートラルな立場で発信する新しいカラー。

 NEUTRAL COLORSは、印刷すらも自分でコントロールしていく。自分の色は自分で作る。そんなことを考えて、NEUTRAL COLORS(ニュー・カラー)というタイトルに決めた。最後に奥さんにも確認を取った。「ニュートラルなカラーか、、、最初にNEUTRALを見たときのことを思い出した。それでいけ」

完全にインディペンデントとして存在し、オルタナティブな出版の形を模索し続けます。