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ステートメントを考えよう(雑誌NEUTRAL COLORS ニュー・カラーへの道#5)

創刊号の序文はとても大切だ。それは雑誌の未来を照らす所信表明に他ならないから。雑誌ニュー・カラーの場合もこれから作りながらステートメントを書き上げていく。ちょっとその前に寄り道して、過去に自分が何を書いたか振り返っておこう。過去の文章……それはうれし恥ずかしなわけで……

ATLANTIS zine01 イントロダクション〜はじめに

私が編集者になった1997年。まだ電子書籍もiPhoneもありませんでした。編集者が紡ぎ出す紙の世界を、米粒みたいなキャプションひとつまでむさぼるように追って旅していた記憶があります。自分で雑誌が編めるようになり、NEUTRAL、TRANSITといくつかの雑誌を世に出してきました。ふと気がつくと、あらゆる世界にカメラが入り込み、加工したり言葉を添えたり、編集者の仕事を誰もが簡単に担える時代になりました。

でもどうだろう。本当にそれは編集なのか。編むという作業はもっと難しいものじゃないのか。大きな絶望と少しの希望をもってもう一度「紙で編むこと」を自照してみたいと思い立ちました。このzineは、今まで出会ってきた諸先輩や多くの編集者の言葉を反芻し、1冊の雑誌を生み出すまでの課程を、6冊にわたって丹念に追ってみるという試みです。もしかしたら何十年後、「雑誌を編集する」という行為は消失しているかもしれません。だからこの小さな冊子は自分のためでもあり、未来の編集者へのLetterでもあります。(2017年6月 編集者/加藤直徳)

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TRANSIT 創刊号 INTRODUCTION

美しきものを求めて、地球全体をトランジットする

旅雑誌『NEUTRAL』が深化して美しく生まれ変わったトラベルカルチャー誌が『TRANSIT』。溢れる情報をいったん頭から切り離し、ニュートラルな状態で世界を歩いてみた。見えてきたのは世界と日本の価値観の違い、美の多様さ。自分の存在する世界が本当に理想なのか、という疑問。だからこそ、面倒なことや受け入れられない現実がそこに転がっていようと、トランジットしてみよう。ここではないどこかにはきっと、見たことのない「美しい世界」が存在しているはずです。

多くのトランジット地点で、良いところも悪いところも受け止めてみる。独りで旅を続け、真実を知ることは楽なことじゃない。でもその移動の果てに、おぼろげながらワン&オンリーな何かを見つけられるはずです。誰かに教えられたものではなく、自分自身で見つけたものが。未来の選択と次の世代に美しい世界を伝えるのは私たち。そのために『TRANSIT』が一つのヒントになればこれに勝る喜びはありません。弊誌は相も変わらず「美しきもの」を求めて、生物すべての生息地・地球を旅していきます。(2008年4月 Chief Editor 加藤直徳)

NEUTRAL 創刊号 INTRODUCTION

美しきものを求めてワン&オンリーの旅を

構想から約1年の歳月を費やし、ようやく産声をあげることができたトラベルカルチャー誌『NEUTRAL』。溢れかえる情報をいったん頭から切り離し、気持ちをニュートラルな状態に戻して、自分の身体ひとつで世界を歩いてみる。すると今まで感じたことがなかった、どこかおさまりの悪いムズガユイ感情が生まれてきます。自分ひとりで判断することはきっと簡単なことじゃない。でもそれを続けていくうちに後ろ向きじゃない達観によって、他の誰でもないワン&オンリーな何かを見つけることができると思います。

『NEUTRAL』が追い求めたのは「美しきもの」。取材する中で風景や人、時として醜悪とさえ感じていたものにも美しさを感じました。マラケシュのカフェから見た夕暮れ。エディルネでオイルまみれで闘う男たちの裸身。カブールの路上で横たわる片目のつぶれた犬。でも美しさの風景や人だけではありません。アラビア半島にあるイエメンでのこと。墓場を見ていると何やらイエメン人同士の激論がはじまりました。「お前ら神聖な土地で何してるんだ!」「彼らは旅人だ。そんなことだからいつまでたってもイスラムは世界に理解されないのだ」。

そんなやりとりを聞きながら「美しいなぁ」とぼんやり考えたものです。姿の見えない思想みたいなもの。そんな美しさもこの雑誌では追い求めていこうと思います。(2004年6月 編集長/加藤直徳)

完全にインディペンデントとして存在し、オルタナティブな出版の形を模索し続けます。