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ChatGPTによるAIコーチングはレトルトカレーになるか

2023年3月29日、会話型のコーチングAIが公開されました。私がコーチングチャットボットを開発していた頃から4年でここまで来るかー!と驚きです。

世界初の音声会話型AIコーチ(CoachHub)

公開されたのは、音声でやりとりできる会話型AIキャリアコーチ。日本語にも対応しています。毎日ニュースが飛び交うChatGPTを利用しているとのこと。

開発したのはCoachHub社です。CoachHub社は、ドイツ発祥のコーチング企業で2022年にシリーズCラウンドの投資を受けたスタートアップ。90か国3500名の契約コーチを有しています。「デジタルコーチング」が特徴でこうした事業にいち早く参入するのもうなずけますね。日本支社もありコーチング業界も黒船襲来です。

https://www.coachhub.com/ja/aimy/

早速使ってみましたが、「キャリアコーチ」というテーマに絞っていますし、会話としては成立します。ただ、こちらが発話した後の応答までの間が長い、AIの声が平坦で長いセリフを聞くのが苦痛。。。とユーザー体験は改善の余地を強く感じました。しかし、最近のAIの勢いを見ると、改善されるのも遠い未来ではないでしょう。

4年前はテキストのチャットボットが限界

4年前は音声の自由なやりとりはハードルが高くテキストチャットが注目されていました。たとえば、2019年の世界最大の人材育成カンファレンスATDでは、バイエル社がチャットボットを社員教育に活かした事例を発表しています。

私も2019年以前所属していた企業でLINEを使ったAIコーチングチャットボット「ラビィ」を開発、リリースしました。

ラビィのサイト

ラビィはにくめないキャラで空気を読まず急に本質的な質問をしてきてドキッとさせられました。この辺はChatGPTはそのまま使うと、かしこまりすぎていて、ちょっとよそよそしいですよね。

ちなみに、こうした対人支援の会話型チャットボットとして有名なのは、アメリカの「Woebot」です。こちらはカウンセリングのためのチャットボットでスタンフォード大の心理学者とAIエンジニアが2017年に始めています。(こちらは今でも利用できます)

https://woebothealth.com/


今回、ChatGPTが公開されたことで、「コーチングプロンプト」(いわゆるおまじない)をつくったら友人がLINEに組み込んでくれました。実際のやりとりがこちらです。

ChatGPTにAPIでなげるだけでこのクオリティ。4年前にがんばって開発していたのは何だったのか(涙)AIの進化恐るべしです。

人によるコーチングはこれからどうなる?


このスピードでAIが進化したら、人のコーチングはどうなっていくんでしょうか。(私も2007年からコーチをしていますが、職がなくなったりするのかな汗)

分かりやすく?機械が作るレトルトが普及しているカレーを例にとって整理したいと思います。まず、カレーを「作り手別」に3種類に分け、それぞれの特徴を表にすると次のようになります。

a. 街のレストランでプロが作るカレーは、価格は高いけれど美味しい。
b. 家族が作るカレーは、思い出や作り手との関係から特別な意味があります。(たとえば、親が毎週つくってくれた味や、はじめて子供がつくったカレーなど)
c. 工場で機械が作るレトルトカレーは安価ですぐに食べられる手軽さが強みです。味は★(★)にしていますが、どんどん美味しくなっていますよね。

コーチングを提供者別に整理する

では、この表をそのままコーチングに当てはめてみましょう(強引!)


「味」を「質」にかえただけで星の数は同じです。

a. プロコーチが実施するコーチングは、価格は高いけれど質が高い。
b. チームで上司が実施するコーチングは、共にすごす時間が長く多方面での支援を受けるという点で様々な意味を持ちます。(感謝や尊敬する上司がいる方も多いでしょう)
c. AI(機械)が実施するコーチングは安価で24時間いつでも対応してくれる手軽さが強みです。また、こんなこと話して恥ずかしいなとか気兼ねする必要がありません。これは、チャットボットコーチングを受けたユーザーからもコメントとして多く聞かれました。質はまだまだですが、技術の発展スピードを考えると今後の改善が大いに期待できます。

たとえば、文脈理解についてはAIはかつて「単文」理解でしたが、「複数文」の文脈を理解できるようになっています。
ただCoachHubのような現時点でのAIコーチングの場合、会話の文字しかインプットしていないのでコーチングの質にはまだ限界があります。たとえば、「ポジティブなことを話しているのに表情は曇っているのはおかしいな」とか「月末で忙しいから深く考える時間をとるには気持ちの切り替えが必要そうだ」というような背景の推測と判断はできません。この点において人間の方が質の高いコーチングができると思います。ただ、表情動画やSNS投稿などAIにインプットする情報を増やすことで、さらに改善されていく領域でしょう。

人によるコーチングは「意味」に価値がある


AIのコーチングの質が高まっていくと、プロや上司が実施する「人間」のコーチングは、どうなっていくのでしょうか。
私は「意味」が重要になってくると考えています。ここでいう「意味」とは、「なぜこの人からコーチングを受けるのか?」に特別な意味を持たせるということです。これは山口周さんが著書「ニュータイプの時代」で書かれている「意味がある」軸から影響を受けています。

DIAMOND online 「役に立つ人より「意味がある人」が これからは生き残る」より転載
https://diamond.jp/articles/-/210229

自動車の場合、上図のように山口周さんが整理されています。AIコーチングの質が上がっていくことは、左下から左上の象限に動いていくことに当てはまります。そうなると、人は上に進むことに加え、いかに右方向つまり「意味がある」に移動するのかが重要になってくるのではないでしょうか。

と、ここまで書いておいて実はコーチングの場合は上表がそのまま当てはまるとはいえない部分があるなと感じています。
というのも、コーチングはコーチとの相互作用で影響を受け行動を起こしていくプロセスです。コーチに対して「意味がある」状態の人は、コーチの影響をうけやすい状態なので、コーチングの効果も高くなる可能性があります。つまり、表の右に進むことは、実は上に進むことも兼ねているということです。

その領域に踏み込むには身体性がある人間だけなのか、AIコーチングでもたどり着けるのか。みなさんはどう思われるでしょうか。

まとめ

今回のコラムではAIコーチングについて、チャットボットから音声会話への変遷とその影響について考察しました。

AIコーチングの実現により、気軽にコーチングをうけることが可能となります。その品質は、どんどん役に立つレベルになっていくことは間違いありません。

レストランのカレーも、家庭のカレーも、レトルトカレーも、それぞれの良さがあります。人によるコーチはカレーと同様、AIコーチと共存しながら独自の役割をはたしていくでしょう。レトルトカレーがいくら美味しくなってもレストランや家庭のカレーはなくならないのと同様、人間のコーチもなくならないと私は考えます。

まずは、AIコーチングがレトルトカレーを食べるように気軽に利用できるようになることを期待しています。

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