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おさらい対談!水江未来×土居伸彰「ようこそ、変態アニメーションナイトへ」

2012年のスタートから約5年。日本中を旋風する人気イベントへ成長した『変態(メタモルフォーゼ)アニメーションナイト』。その始まりは何だったのか? そして「変態ナイト」が抱く“本当の試み”とは……?

ここでは、note読者の皆さまだけに、初回から「変態ナイト」のMCをつとめるアニメーション作家の水江未来さんと、このイベントの仕掛け人である土居伸彰との対談をお届けします!(本内容は『変態アニメーションナイト2014』公開時に配布されたパンフレット「旅のしおり」からの再録です)

◇「ヘンタイ」ではなく「メタモルフォーゼ」

水江:「変態」は「ヘンタイ」じゃなく「メタモルフォーゼ」って読むことを最初に言っておきます。

土居:それ、知らない人の方が多いですからね。みんな「ヘンタイ」って言ってますから。

水江:確かに、「メタモルフォーゼアニメーションナイト」って言ってる人は誰もいないですよね。

土居:略称で「ヘンタイナイト」は正しいです。まあ、僕らも「メタモルフォーゼ」なんて呼んでないですけど、みなさんの頭のなかではせめて「ヘンタイ」じゃなくて「メタモルフォーゼ」って読んでほしいんですよね。

◇「変態ナイト」のはじまり

土居:「変態ナイト」ってそもそも、2012年の広島国際アニメーションフェスティバルの関連企画としてやったんですよね。関連企画といっても正式なものじゃなくて勝手にやったんですが。広島は毎晩18時から21時までコンペティション上映があるのですが、それが終わったあとの夜中に、映画祭に参加した人が来れるように開催したんですよ。

水江:最初から「変態ナイト」をやろうっていう話ではなく、なにかやるっていうところから始まった。

土居:そう。そこに、自分たちが感じている問題意識も絡んでいって。現状、日本に暮らしていて、世界のアニメーション作品を包括的に観れる場所っていうのが広島アニフェスしかない。それはある種の偏りにもつながってしまう。広島アニフェスで流れる作品って、日本における海外のアニメーションの受け止められ方を強く形成したわけですよ。広島アニフェスは「愛と平和」がスローガンということもあって、温かくて、手触り感があって、手仕事で…みたいな、作品が好まれる。もしくは、すごく作家性が強くて、暗い作品。まあ、あれですよ、「アートアニメーション」っていう例のクソみたいな括りが人に想起させるものに、広島アニフェスで上映される作品はおさまってしまう。

水江:うん。

土居:僕や水江くんはここ数年、海外のアニメーション映画祭にたくさん参加しているわけだけれども、そういう機会を経て分かるのは、広島のセレクションも筋が通っているけれども、それとはまた別の観点で評価しうる作品がたくさんある、ということだった。だから、広島アニフェスだけでしか作品が観られないと、そこらへんが見えなくなってしまう。

水江:広島アニフェス自体への応募数は2000作品以上あるわけだけど、コンペティション上映に至るまでの選考で、そのなかからわずか50作品くらいしかコンペのなかでは上映されない。でも、上映されなかった作品にも、いろんなものがある。「変態ナイト」は、そういう状況の補足になるというか。

土居:そうそう。広島をリスペクトしたうえで、ついでにこのCALFのイベントに来ると、色々なシーンがわかりますよ、っていう。で、そのときのメインフォーカスにしたのが、笑える作品とか、なんか凄まじい作品。とにかくインパクトがあって、頭のなかに「?」がたくさん出てきちゃうような、でも、圧倒されるし笑えるっていう作品も集める、っていうコンセプトが出てきた。で、ある時、それをまとめるのに「変態」っていう言葉を思いついたわけですよね。

水江:どこで思いついたんだっけ? これ、土居君が考えたんでしょ? みんなでさ、「タイトルどうしよっか? 意見出し合おう」っていう時があって、で、土居くんが「“変態”。“メタモルフォーゼ”って読むけど“変態”」って。

土居:うん。

水江:なぜその言葉が?

土居:多分それは、ブルース・ビックフォード。広島のイベントで何よりも上映したかったのは、ブルース・ビックフォードの最新作『CAS'L'』。作品の噂を2012年にどこかで耳にして、「絶対に日本でやりたい!」と。ブルース・ビックフォードは粘土アニメーション界の唯一無二の巨匠で、昔はフランク・ザッパのお抱えアニメーターだった。彼の作品って、とにかくずっとメタモルフォーゼを繰り返し続けるだけだなあってボンヤリと考えてたら、「メタモルフォーゼ」ってそういえば、「変態」って訳すこともできるな、ってピンときて。

水江:なるほど。

土居:この言葉にこびりついているパブリックイメージを逆手にとりつつ、あわよくばぶちこわしてやろうという野望も持つようになった。つまり、「HENTAI」ってやつですよ。海外の人からすると、触手とかが出てくるような日本のエロアニメを想像させる。日本でも「変態」っていう言葉には変質者みたいなイメージがこびりついてる。そういうイメージを一方で利用しつつも、「いや、“変態”って“メタモルフォーゼ”だから」、ってシレっと出す。そういう枠組みを作ることで、この言葉にふさわしいような、過剰な人間味、フィルターなしでパッションが溢れ出すような、そういう作品を紹介するイベントにしようと。

水江:とてもいいキャッチコピーになったよね。短編のアニメーションって、たとえば「アートアニメーション」って言われたときに、「ああ“アートアニメーション”かあ…別にいいや」っていう人もいたりするわけじゃない? この「変態ナイト」の作品はそれとは違って、「アートアニメーション」じゃない、じゃあなんて呼ぶんだっていったら、もう「変態(へんたい)アニメーション」としか言いようがない。

土居:で、実際、「変態ナイト」の開催決定!ってなって、『CAS’L’』を取り寄せたんだけど……ちょっとビックリしちゃって。良い意味でなく(笑)。これまでのビックフォードの作品同様ずっとメタモルフォーゼしつづけてるんだけど、これまで以上に、物語も何にもない。「これ、“きちんとした作品”として観たとき、はたして普通の人は“面白い”って思ってくれるのか?」って、俺、最初に観た時に頭抱えちゃって…

水江:土居くん、広島で最初に上映したときは逃げようとしてたよね。

土居:うん。でも、上映するって決めちゃったし、なんとかしなきゃいけない。それで思ったのが、「とんでもないものを観せられてしまった」っていうような、「体験」として楽しんでもらうのがいいのでは?ってこと。「普通の」見方をしたら、もしかしたら苦痛だし、拷問に感じちゃうかもしれない。でも、それさえも「体験」として楽しんでもらおう、って切り替えた。そのために思いついたのが、MC付きの上映にするってこと。何も解説無しで観たら「えぇっ!?」ってなっちゃうんだけど、適切な「ツッコミ」を入れることで、その作品を活きさせる。

水江:MCが入ることによって「今のは何だったんだろうね!?」ってみんなで確認しあえて。鑑賞というか修行。映画館が、共に修業を乗り越えて違うステージに行った者同士で語り合う場になる、みたいな。

土居:でも、この逡巡を経て分かったのは、結局のところ、そういう作品って、作者が悪いんじゃなくて、観るこちら側の方が悪いってことなんだよ。つまり、アニメーションに対する自分たちの見方がどれだけ狭いのかっていう。結果的に「変態ナイト」って、アニメーションの新しい見方を無理矢理体感させる…

水江:ショック療法だよね(笑)。

土居:そう。「変態ナイト」の作品って、作り手の素直な部分がめちゃくちゃダイレクトに出ているような作品が多い。だから、エネルギーはとにかく沢山ある。物語だったり、技術的なものはちょっと脇に置いておいて、そのエネルギー自体を楽しむ。「あ、こういう楽しみ方もあるんだ」って、観客自体の考え方もメタモルフォーゼしていくっていう。でも結局、それでもビックフォードの作品は怖くて、今に至るまで、ビックフォードの作品については常に一番最後に入れて、上映したらそのまま解説入れずにお開きにしてる(笑)…

水江:あ、そうか。

土居:そう。さっきも、広島の最初の『CAS’L’』の上映のとき、逃げたくてしょうがなかった、って言ったけど、この作品については、責任を取りきれないな、もう、ほっぽるしか無いな…と思って。でも、終わった後のアンケート読んだら、こちらの想像以上に楽しんでくれていて。結果的に大成功だったのかな、と。単純に、変わったアニメーションを「楽しむ」っていうふうに方向が転換できたかなと。

◇ 「変態ナイト」はアニメーションの/世界の見え方を変える

水江:吉祥寺バウスシアターで2012年の12月にオールナイトで「変態ナイト」をやったときって、衆議院議員選挙の前日だったんだよね。だから、朝方『CAS'L'』を観て、みんなそのまま衆院議員選挙に行くという。投票先変わるよねえ? そのくらい、価値観というか、世界の見え方が変わってくるよね。

土居:素直に、動物的に、反応しちゃうというか。人間は動物だし生存本能ってあるじゃないですか。「これが体にいい」とか「世界の生存にとっていい」とか、本能で分かってるはずなんだよ。「変態ナイト」はそういう感覚を鍛えられる上映。だから投票にも影響したはず。

水江:影響した。『CAS'L'』観る前だったら、政策とか全部読み込んだうえでこの人がいいってなるけど、観たあとだと、選挙ポスターの顔とか、名前の感じとか観るだけで決めちゃうというか。

土居:だけど一番いい人が分かるっていう。でも残念なのが、バウスの上映、満員になったけど、それでも220人だから。220人じゃ国政は変わらない。

水江:みんな同じ選挙区じゃないしね。

土居:でもまあ、世界の見え方がスッキリするのは間違いない。

水江:人間って年取ってくると頭固くなってくるからね。今回の「変態ナイト2014」も、それがめっちゃ揉みほぐされるような二時間になると思いますね。

土居:強調しておきたいのは、「変態ナイト」って、別にお遊びでやってるわけじゃないし、作家の作品を貶したり笑ってやりたいわけでもない。新しい楽しみ方、見方を身につけるレッスンなんだよ。訳の分からないものを目の前にして、「勉強が足りないのは自分たちの方なんだ」って思うための、非常に謙虚な上映でもある。「どういう風に楽しんでいいのか分からない」っていうときに、知らんぷりしたり怒ったりするんじゃなくて、MC付きでみんなで一緒に体験することによって、体で作品の楽しみ方を覚えるというか。それが最終的には世界の見方が変わるのにも繋がる。作品も「変態」だけど、観てる自分たちも「変態」する。

水江:だってこれ、映画祭でも手におえないような作品集めてるってところもあるしね。

土居:そうそう。これまでCALFでいろんな上映をやってきたけど、もしかしたら、海外のアニメーション映画祭で評価を受けた作品を持ってきてるっていうイメージがあるかも。でも、「変態ナイト」はむしろ、映画祭でさえひっかかんないようなものに注目して、ひとつの価値を見出すということでもあるんですよね。ブルース・ビックフォードやピーター・ミラードって、ヘタしたらコンペにも入らない。めちゃめちゃだから。でも、間違いなく素晴らしいんだよ。

◇「変態ナイト」は日本のアニメーションの未来を変える!

水江:ポスターなどのビジュアルを見ると、「ホラーなのかな?」とか、「グロいのかな?」とか心配する人もいると思うんだよね。でも、そうじゃなくて…

土居:人間味が溢れてる。「変態ナイト」を観たあとって、他人に対して寛容になると思うんですよね。「こんなん作っちゃう人間って、ほんとしょうがないなあ」っていうような。受け入れて、赦せるというか。きっと、今一番大事なことですよ。他人に対する寛容の心。そういうのを養うのにもちょうどいいから、最終的には小学校とかの映像教育プログラムにも組み込んでもらえるといいかなっていう。

水江:いいかもしれない。色んなところで上映の仕方を考えたいよね。

土居:うん。だって絶対世の中の役に立つんだから、「変態ナイト」は。

水江:今回の「変態ナイト2014」はロードショー公開。つまり、これまでよりもいろんな人のアンテナに引っかかる可能性がある。僕、大学1年生の時、ヤン・シュヴァンクマイエルを新宿武蔵野館で見て、「こんなものがあるんだ」って衝撃を受けた。それでアニメーションに興味を持ちはじめた。そういう若い学生も出てくると思うのよ、「変態ナイト2014」を観て。だから、これ以降の日本のアニメーション史を変える、大きな出来事になるのではないでしょうか! 日本のインディペンデント作品の作られ方が、かなり変わってくる気がします!

土居:そう、今まで、ノルシュテインとかシュヴァンクマイエルとかブラザーズ・クエイとか、ある世代みんなが共通して持っているアニメーション体験っていうのがあったわけですが……

水江:そう、「変態世代」みたいなのが、出来上がる。

土居:これまで以上に自由なアニメーション作るのに、繋がるんじゃないかなっていう気は、ありますよね。

水江:日本のアニメーションはただでさえ海外からみたらストレンジに見えるのに、更に更にパワーアップする。

土居:海外からのドーピングを得て。

水江:そう! これは楽しみですね、十年後。

「変態アニメーションナイト ザ・ツアー:セレブレート」
2017年12月16日(土)札幌・札幌プラザ2・5
2017年12月19日(火)京都・龍谷大学響都ホール校友会館
2017年12月22日(金)東京・なかのZERO大ホール
2017年12月23日(土)福岡市総合図書館映像ホール・シネラ
出演:ピーター・ミラード、エイミー・ロックハート、ホン・ハクスン(東京・福岡のみ)
MC:水江未来、土居伸彰

各会場のチケットはイープラスにて発売中!
https://eplus.jp/ath/word/114005

公式サイト:http://newdeer.net/hentai-tour/
公式twitter:http://twitter.com/georama_jp
公式FaceBook:http://facebook.com/metamonight

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