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【指先から宇宙まで 素晴らしき短編アニメーションの世界】「トクマルシューゴ x 水江未来」トーク(『ETERNITY』)

2022年12月10日から全国公開が始まった短編アニメーションのオムニバス上映「指先から宇宙まで 素晴らしき短編アニメーションの世界」。渋谷・ユーロスペースでの初日は、本上映のトリを飾る『ETERNITY』のキーパーソン、監督の水江未来さんと音楽担当のトクマルシューゴさんによるスペシャルトークで盛り上がりました。この記事では、そのトークをまとめたものをお送りします。

水江未来(左)、トクマルシューゴ(右)

宇宙の創世から現在までを体感させるかのような上映

水江未来
今日(2022年12月10日)が『ETERNITY』の世界初上映で、前日まではすごく楽しみにこの日を待ってたんですけど、当日の朝からなんか急に緊張しはじめてしまい、今まだちょっとドキドキが止まらないです。マラソンした後みたいな感じで息が上がっちゃって……今、上映が無事に終わって、すごくほっとしています。
 
トクマルシューゴ
今、見させていただいて、何か言葉が出ないというか、言葉にしたら気持ちがこぼれてなくなっていってしまうような感じがあって、何を話そうか、すごく慎重に言葉を選ばなければと思ってしまいます。
 
水江
今日の上映される5作品、全部すごく強い作品で、一緒に上映するのが結構怖くて、ちょっと疲れますね。最後、一番長い作品を作った僕が言うのもなんですけど、この上映、観終わったあとの圧倒されるような疲労感がありますね。
 
トクマル
なんというか、宇宙の創世から現在までを一気に全部見せられてしまったような。

水江
僕はずっと抽象アニメーションをずっと作ってきたんですけど、抽象的な作品は物語を追って観るものではないので、アニメーションの動きとか、音楽との関係性とかが大事なんです。だから、考え事をしたりするのとはちょっと違う脳の部分を使うことで、脳を休めるような感じになってほしいなと思ってなんかいつも作ってるんですよね。
 
トクマル
今回の5作品は全部、因果関係が少ない物語になっているというか……誰が何をして、それによって次に何が起きそうだな、というのを想像しながら楽しみにして観るというようなストーリー的な展開がほとんどないものが多い。最近、映画を早送りしてみる文化があるわけですが、今回の映画は早送りしてもスローにしてもしょうがないというか。この、直線的な時間に囚われない感じ。
特に最後の『ETERNITY』は、なんというか、時間とは前に進むものだという感覚を忘れさせてくれるというか、別に戻ってしまってもいいんだっていう、全方向的な感じがすごくしています。今回の作品は全部そんなふうに時間や枠に囚われないので、脳の違う部分を使わなければうまく言語化できない感覚があって、すごいなと僕は思っちゃいましたね。

音楽と映像の即興的なコラボレーション

水江
過去、トクマルさんのミュージック・ビデオを2本(「Poker」「Lift」)作っていたんですが、今回、トクマルさんと一緒にオリジナル作品を作るという念願が叶いました。ただ、今回、20分の作品を作ろうというところからスタートしているという、結構謎な企画ですよね。僕としては、これまで3分とか5分とか短い作品を作ってたので、長い尺で表現してみたいというのは前々から思っていて、どんな構成にしようかといろいろ考えたんですが、トクマルさんはどうでしたか?
 
トクマル
僕も結構悩みました。今回、4章構成になっていて、なおかつそれぞれの章も4つのパートに分かれているので、普通に考えたら起承転結みたいな感じでパートを作っていけばいいわけですよね。20分だとしたら、5分の曲を4曲、みたいな感じで想定ができる。でも、時間に囚われない感覚を何とかして表現できたらいいなと思って、起承承承……というイメージで最終的には作りました。特にChapter 2とChapter Finalがすごい好きです。
今回、作り方がかなり即興的だったんですよね。全体の大枠だけまず音楽を作って、レコーディングスタジオで実際に映像を流しながら、それに合わせてミュージシャンたちが演奏する。それだけじゃなくて、さらにその演奏に合わせてリアルタイムで映像を変えていく。かなり特殊な作り方をした映画だなと。
 
水江
そうですよね。スタジオで音楽家の人たちが楽器を持ってきて録音するときには、僕はスタジオにノートパソコンとプロジェクターを持ち込んで、再生ボタンを押してスクリーンに投影してました。絶対に物音を立てないようにしながらひっそりと(笑)。その映像を観ながら、みなさんが演奏する。僕が印象的だったのは、トクマルさんが途中で「(映像を)逆再生してください」って言ったじゃないですか。で、その逆再生した映像に合わせて演奏して、その録音をまた逆再生する……
 
トクマル
Chapter 2ですね。それくらいしないと、今回の映像には対応できないなと思って。

水江
レコーディングスタジオがすごく刺激的な空間で。いろいろなアイディアをその場で盛り込みながら作っていくっていう感じで。

トクマル
そうですね、全員楽しんでやってましたね。すごく面白かった体験です。譜面も一切ないですし、演奏を繰り返すことでまとまっていく様子というのが、「作ってるなあ!」という感じがあって、その場はすごくいい空気が流れていましたね。

実写のようにしてアニメーションを作る

コントローラーを使って作られたパート

水江
今回の作品、(ゲームエンジンの)Unityを使って、ゲームコントローラーでキャラクターを動かしていくこともやってます。各Chapterの2番目のパートです。人が歩いていてそれがたくさん分裂するんですけど、あのパートはコントローラーで分裂をさせたり、カメラワークをつけたりしています。
 
トクマル
「このボタンを押すとキャラクターが増えるんですよ」みたいな感じで、音源に合わせて実際にリアルタイムで増やしていく。「アニメーションって今こんな作り方もあるんだ」って驚いたんですけど。
 
水江
普通の作り方ではないです(笑)。今回、(映像作家の)早川翔人さんがエンジニアとして加わってくださって、Unityを組んでもらってます。早川さんにコントローラの使い方をレクチャーされたんですが、全然うまく動かせないんですよ。カメラ位置も止めたいところを通り過ぎていっちゃったり…
最終的には僕が指示を出して早川さんに操作してもらうかたちで、トクマルさんたちが録音している様子の音楽を聞きながら、早川さんがコントローラーを操作して、それを画面収録機能で録画していくという、通常のアニメーションの作り方とはかなり違う作り方だったので、僕にとっても刺激的でした。
 
トクマル
何が一番大変でした?
 
水江
制作期間ですね。2ヶ月半ぐらいで作らないといけなかった。
 
トクマル
通常のアニメーション制作ペースじゃないですよね。
 
水江
そうですね。でも、そのおかげで、今までやったことないやり方にチャレンジしようと思い切ることができた。アニメーションはなるべくリテイクが出ないように最初に絵コンテやレイアウトをきっちり決めていくんですけども、今回は何度も映像を撮影しながら作りました。この作品は未使用カットが尋常じゃない数あって…20分の作品ですけど、その5倍ぐらいある。とにかくたくさん映像を撮りまくって、それを組み合わせて、最適なものを作っていこうっていうふうにしているので、実写を撮るのと近いような作り方かもしれないですね。

トンネルをくぐるーー幼少期の影響

神田竜が水江未来作品のモチーフを使って高次元トンネルを作る

水江
(各Chapterのパート3などで)3D空間の中をずっとカメラが入り込んでいくっていうシーンが多く出てきます。とにかくどんどん奥に入って常に移動していくような映像を作りたかったっていうのがあって。何でだろうと思ったんですけど、昔、「できるかな」って番組があったじゃないですか。ノッポさんの工作番組。それに「トンネルを作る」という回があったんですよね。番組内でノッポさんがいろんなトンネルを作っていく。番組の最後には、スタジオの中にすごく巨大な線路とトンネルができていて、ノッポさんが汽車の格好をして匍匐前進でトンネルをくぐっていくんですけど、コースのまだ3分の1も行かないぐらいで番組が終了するんです。「それではまた明日!」って。
僕はたまたま番組をVHSに録画していたので、何回も繰り返し見てたんですよ。幼稚園ぐらいのとき。当たり前ですけど、何回見ても、先のトンネル入ってくれない。あのトンネルはどんた感じなんだろう…ってたくさん想像していて。たぶんそれがルーツにある。

トクマル
そんな影響が…
 
水江
いつまでもトンネルの中を進みたい、トンネルを出たらまた別のトンネルに入って進みたい。

トクマル
すごいいいお話ですね。
  

質疑応答

質問者1
二つあります。映像が先行しているのということで、トクマルさんの音楽性に合わせて、「トクマルさんだったらこういう音楽を作ってくれるから」ということで、寄せて作ったとか、そういうことがありますか。
 
水江
寄せて作ったってのはないんですけど、トクマルさんの音楽にすごく期待しているのは、「天国の音楽」。天国ってこんな場所なんじゃないか、この地上とは違うすごく楽園的な場所に連れてってくれるような、そういう音楽をすごく期待していました。僕が普段作るアニメーションもそういったものを作りたいなっていうのがあったので、寄せるというよりもぶつかってくというか、そういうイメージがありましたね。今日も、お仕事帰りとかで見に来られてる方もいるかなと思うんですけど、観ている間、思い悩んでることから解放されてほしいなって思います。

質問者1
2つ目の質問です。トクマルさんが今回やられた逆再生の逆再生という実験については、大成功だとご本人は思われますか?
 
トクマル
(一般に共有されている)時間の概念というのは、僕はもういいかなって…音楽は時間芸術と言われていて、その時間は左から右へと(一直線に)進んでいくようなイメージが結構強いんですが、そうじゃないんじゃないかなって。むしろ、音が発せられた瞬間にバーって広がっていく。後ろにも広がっていく。そういうイメージがありまして。
水江さんの作品ならそれをやっていいんじゃないかなって。「映画音楽作ってください」って頼まれて、「じゃあちょっと映像を逆再生してください、それに合わせて曲作ってみますんで」って言ったら、普通だったら多分怒られちゃう。『ETERNITY』はそれが許される作品だと思いました。だからやってみた。
成功したかどうかはわからないんですけど、そもそも作品を作るとき、成功とか失敗とか、できたかできないっていう判断はしてないんですよ。それが良い体験だったかどうかで判断することが多くて。良い体験かどうかで言えばすごく良い体験でした。こういう作品に携わったことが本当に嬉しいっていう気持ちがあります。
 
質問者2
今回の作品を作るにあたって影響を受けたり、参考にされたことなどはありますか。
 
水江
僕が今まで作ってきたアニメーションには曼荼羅みたいものが出てくるんですけど、これまでは平面的でした。最近、「ブラックホールって実は球体なんだよ」みたいなのをニュースで見て、「球体で曼荼羅を作りたい」って思ったんですね。それで今回は初めて立体曼荼羅が出てきます。
空間を作ってそん中にどんどんと入り込んでいくことについては、さっきも話した「できるかな」もそうですけど、小さいときに観てきたものが大きくて、僕自身がそういったもので出来上がってしまっています。「スターウォーズ」も大好きだったんですけど、一番は(戦闘機が)デススターの溝に突入する場面で、やっぱりトンネルと繋がってしまう(笑)。ほかには「フラグルロック」とか。あれもおじいさんと犬が住んでいる家の壁のの穴に入ると、その奥には小さなフラグル達がが住んでいて、さらにその先の穴に入ると巨大なトロールたちの世界がある。
穴に入り込んで別世界に行くのがすごく好きなんです。ルーカスフィルムが昔作った『ラビリンス』というファンタジー映画だったり、「ネバーエンディング・ストーリー』、『ウィロー』、『オズ』のような80年代のSFファンタジーがすごく好きで、そういうものを作りたいなと思いながら抽象アニメーションに取り組んでいたので、今回の作品は、自分なりにちょっと一歩近づいた感じがあります。

質問者3
さきほど、「脳を休めてほしい」とか「思い悩んでることを忘れてくれたら」みたいなことをおっしゃっていましたが、企画段階から思っていたのか、それとも完成してから思われたのでしょうか。
 
水江
どの作品を作るときにも、現実から離れてもう一つの世界に入り込んでいくようなものにしたいと思っています。それにはきっかけがあって、8年前に『WONDER』という7分ぐらいの短編アニメーションを作って、ベルリン映画祭で上映されたんですね。それを地元の一般の女性の方が観に来ていて。「映画祭やってるから面白そうだし行ってみるか」くらいにフラっと来たらしいんですが、その人が『WONDER』を観た後に、「私、毎日、黒やグレーの服ばかり着てたんだけど、明日からは赤や黄色や緑の服を着て会社に行こうと思います」って言って去っていったんですよ。「日常にもうちょっとワンダーを取り入れ入れてみようと思う」って。別に僕、映画の中ではそんなこと言ってないんですよ。でも、映画を観ているうちその人の中で気持ちが変わった瞬間があったわけです。「アニメーション作っててよかったな」って思いました。
アニメーション映画って、それを観にきた人の気持ちを変えてしまう力があるんだっていうのを、初めて僕自身が信じた瞬間でした。それ以降は、映画を見た体験を通じて、いろんな人がいろんな受け取り方をすると思うんですけど、それがすごく楽しみで、自分は映画を作ってるのがあったりします。
 

(おわり)


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