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旅先10kmラン 鬼怒川市

氷雨振る11月の鬼怒川…午前4時。
必然性とか全く無視したこのシチュエーション。
あるべき時間、あるべき場所、あるべき存在…そのいずれの要素を省みることなく、ただ走るだけの為にここにいる…。
とか書くと、少しは格好もつくのですが、今朝の僕は完全に不審者です。
運悪く、夜間ラン用に完全武装した僕に出くわした人は、狼狽し肝をつぶしたあげく、都市伝説系サイトにその様子を書き込むに違いありません。

鬼怒川の廃墟に伝説の山人あり。
身の丈六尺三寸もあろうかという大男が、三つ目を光らせながら、鬼怒川沿いの道を疾走しているのを、付近に住む与平というものが見たり。
急いで後を追うも、山人は国道から山中へと分け入り云々…。

今回の旅行先は鬼怒川温泉。
本当なら家族とぬくぬく布団の中で眠りこけている時間なのですが、今回も旅先10キロランを敢行すべく晩秋の鬼怒川に一人立っているわけです。
「意味とか考えちゃ駄目だ…」
やたらに深い闇を前に、理性にフィルターをかける僕でした。

鬼怒川の温泉街から龍王峡を目指し、鬼怒川上流に祀られている清八霊神から引き返すルート

①ローソン

今回、宿泊したのはは鬼怒川温泉街の中心に位置する老舗の温泉ホテル。
バブル期以降、地方の温泉街の寂れぷりは著しいものがあったのですが、大手の資本注入により再開発がなされ、復興の兆しを見せる温泉街も多く、ここ鬼怒川でも数々の施設が買収され、新たに息を吹き返している様子を目の当たりにしました。
僕が宿泊したホテルも、そうやって再生を果たした施設の一つ。古い施設に新しい試みが同居する、ちょっとアンバランスな雰囲気のホテルでした。
一部で復興が進む鬼怒川の温泉街を疾走する僕ですが、早朝の淋しい時間帯に何かと勇気をくれるのが24時間営業のコンビニです。
3kmほど走った地点で目にした真新しいローソンに、鬼怒川温泉街の確かな再生の息吹を感じ、勝手に励まされた気分になる僕でした。

観光地でよく見る「茶色看板」のローソン。店舗は新しく、駐車場も広め。

②闇

再開発が進む温泉街を抜けると、いきなり街灯が途切れました。
左手には生気の無いコンクリートの壁。
いつの間にか廃墟となった温泉ホテルの脇を走っていました。
再生が進む場所とは対照的に、打ち捨てられたままの建物も数多く存在する…。
往事の賑わいはもう望むことは出来ないのか…と、少し感傷的な気分になりました。
…というか、普通に怖い。
ここで何かに出くわしても完全に自己責任だよなぁ…と、そんなことを考えながらペースを上げると、ふっ…とコンクリートが途切れ、鬼怒川の対岸の景色が目に飛び込んできました。
「え?」
突然現れた光の城に唖然とする僕。
それは対岸に聳える大規模な温泉ホテルの照明でした。

創業130年の歴史を持つ老舗中の老舗ホテル
。イザベラ・バードが宿泊した襤褸宿が前身とか…

③闇2

温泉街を抜け、景勝地である龍王峡に差し掛かりました。
建物は途絶え、街灯とヘッドライトの灯だけが頼りとなります。
本格的に「なにやってんだろう」感が心と体を苛むのですが…深く考えると(何かに)負けてしまうので、思考のフィルターを強化し、ただ走ることに専念していたのですが…。

街灯が途切れ、本格的な闇に突入したその刹那、突然ヘッドライトが消えました。

本来ならパニックになるところなのでしょうが…
もう、なんというか、心も体も冷え切っていて、思考のフィルターもかかりまくっている状態だったので
「あ、消えた」
と、酷く鈍い反応を示しつつ
「この状況はネタ的に大変おいしいな」
…と、のろのろとスマホで写真を撮っている、胡乱な自分が居ました。
もはや不審者というより、さらに一歩進んだ何か別のモノになり果てたのでは…と、自分の存在に危うさを感じてしまう僕でした。

ヘッドライトが消え、本格的な闇に包まれる。

④闇3

ヘッドライトは電池を入れ直したら、あっさりと点灯しました。
スマホの灯で改めて電池周りを見ると、電極部分がかなり腐食しているのが見えました。そろそろ買い替え時かな…。もう10年くらい使ってるしな…。
…そういえば10年くらいになるのかな、ここにあった鬼怒川秘宝殿が閉館になってから…。
既に建物は撤去され、ただ空き地が残るばかりの、ぽっかりと開いた空白地を前に、ちょっと切ない気持ちになる僕でした。
ここのPVを作ることを快諾してくれた館長のおばあさんは元気にしているだろうか….。
そんなことを考えていると、ことりと何かが胸の中に降りてくるものを感じました。それが何かはよくわかりませんが、あまり深く考えることはせずに、さらに深い闇に向けてさらに足を進めるのでした。

鬼怒川秘宝殿跡地を撮影するも、何も映らず

⑤清八霊神

さらに国道を登ります。
完全に人家は途絶え、もはや人がいて良い領域ではなくなりました。
道路という人工物はあれど、人である自分は完全に異物でしかなく、この瞬間にでも何者かに排除されてしまうのでは…という気持ちが溢れてきます。
「そろそろだよな…?」
不安げにグーグルマップを確認する僕。
目指す清八霊神は道から少しだけ離れた地点にあるようでした。
道の脇に開けた場所があるのが見えます。
どうやらここが目的地の清八霊神の入り口のようです。
古い石碑と小さな社、そして鳥居の奥に続く細い参道…。
参道は沢沿いに続いているようで、奥へ進むにはヘッドライトの灯だけで進む必要がありそうでした。
「もし滑落したら、助けが来るまでに低体温で死ぬな…」
さすがにここで理性が働き、鳥居の手前で引き返すことにしました。
鳥居の前で一礼し、来た道へと戻る僕。
自分の限界を悟りながらも、不思議と満足した気持ちになっていました。

簡易防水のビニール袋越しに撮影したので、妙な光が映り込んでます。…雰囲気ありすぎ。

⑥ゴール

坂を下り、往路から逸れて国道のバイパスに進路を変更しました。
歩道がしっかり整備されて安全だと感じたからです。
トンネルの中で車とすれ違いました。
こんな時間にトンネルの中を走る僕の姿を見て、ドライバーの方は何を思うだろうか…などと想像しながら走ると、なんだか妙に楽しい気分になってきました。
人のいるところに戻ってきたんだという実感。
実際はそれ程奥地に踏み込んだわけでもないのに、人里がこれほど恋しくなるなんて、自分でも意外でした。
バイパスから眺める鬼怒川沿いのホテルの灯を見ていると、妙に暖かい気持ちがこみ上げてきました。
あ…まだ僕は人間なんだな…と、当たり前の事実を噛みしめつつ、今回の旅先10キロランを終えたのでした。

青看板のある地点でちょうど10キロ走破。この後ホテルに帰るのに5キロくらい走りましたが…

⑦おまけ

AIレインに鬼怒川秘宝殿について、しつこく聞いてみた結果が下の画像です。

古代の秘宝とか眠ってるらしいが、真相は謎とのこと

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