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全国1万人にクルマを無償提供。なぜガリバーは迅速に大胆なコロナ対策を実行できたのか。

4月13日、中古車最大ネットワーク「ガリバー」を運営するIDOM(イドム)社が大きな決断を公表しました。それは、ガリバーによる全国ネットワークを駆使し、「いま移動を必要とする」すべての方に、最長3ヶ月クルマを無償提供する、という内容。弊社NEWPEACEでは、この支援プロジェクトの企画/クリエイティブ面でお手伝いさせていただいてます。

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店頭用ステートメントポスター

▼特設サイト


「お手伝い」と言っても、利益度外視で身を削ったのは紛れもなくIDOM社でして、IDOM社の「いまこそ社会に何か貢献したい」という強烈な想いがなければ何も始まりませんでした。

しかし、IDOM社は店舗500店、従業員4000名以上を誇る大企業。この規模の企業が、全社一丸となり超短期間で公表できたのは、いくつかの要素ががっちりうまく重なったからだと感じています。

ここでは、本プロジェクトに関わったなかで、大切にしたポイントをブランド視点で端的に紹介したいと思います。これから社会へのアクションを仕掛けようと考えている方の役に少しでも立てれば幸いです。


 ❶「らしさ」を問うことで、自ずとアクションは定まる

 
記憶に新しいテスラ社による「人工呼吸器」の無償提供。医療機器メーカー協力のもと、NYのソーラーパネル工場を転用して人工呼吸器を急遽製造&寄付するという、なんともパワフルな支援は、自動運転をはじめ、常に未来思考で無謀とも言えるチャレンジを果敢に貫いてきたテスラ社そしてイーロン・マスク氏による声明だったからこそ、私たちは胸を打たれ、希望を抱けたはずです。
 
また、ゴディバによる支援も注目せずにはいられません。医療従事者へのチョコレート送付。「人工呼吸器」のような緊急性の高い支援ではないかもしれませんが、過酷な現場で日夜戦う医療従事者に心から感謝し、愛あるエールを贈ったのは、日々、最高のチョコレートを通じて「リスペクト」を届けてきたゴディバだからこそ、自然と成し得たアクションなのでしょう。

こうした「使命」ーもっと噛み砕くならば「らしさ」を根底に、IDOM社はどのような支援を行うべきか。この根源的な問いとIDOMチーム皆で真剣に向き合いました。そして出たひとつのアンサーが、「STAY HOME」と叫ばれるなかで『どうしても移動を必要とする』人達の不安を拭うこと。

1994年の創業から、そして社名を「IDOM(=挑む)」に変えた2016年からますます、クルマを通じた「移動インフラ」のアップデートに挑んできたIDOM社だからこそ。プライベート空間で比較的安全なクルマを、今こそ彼らのために提供しようという決断に至ったのです。


❷すべてはインナーへの呼びかけから始まる

 
「安全な移動」のためのクルマ無償提供。これには当然、全国のガリバー店舗およびIDOM関連店舗の積極的な協力/サポートが不可欠です。想いだけが先走っても、現場がついて来なければ本末転倒です。このコロナショックで先行きの見えないなか、全国の従業員を奮い立たせるには、どうするべきか。まず第一に、従業員を安心させてあげる他ありません。

4月8日に公表されたメルカリCEOからのメッセージでも、まず従業員の安全確保が明記されていましたね。

2月19日よりメルカリグループとしては、従業員の安全確保および社内外への感染被害防止のため、在宅勤務や会議のオンライン化、出張・会食などの禁止を推進してきました。またすでにメルカリUSではロックダウンの中でも完全在宅勤務をしながら、サービスレベルを維持できています。
今後メルカリグループでは、まず東京・大阪・福岡拠点は原則オフィスを閉鎖する完全在宅勤務体制へと移行いたします。また仙台拠点でも原則在宅勤務とし、必要に応じて完全在宅勤務へ移行していきます。また、それに伴い自宅での勤務環境構築やオンライン・コミュニケーション(チーム・ビルディング)などのために6万円(半年分)の在宅勤務手当の支給を決定いたしました。

従業員の安心なくして、利用者の安心など提供できるはずがない。そんな「インナーファースト」な社長およびIDOMチームが行ったのは、オンラインによる全社緊急集会でした。プロジェクト公表の2日前、4月11日9:30。全社員に向けて社長が自らの言葉で、今こそ我々の仕事が必要とされているという力強メッセージ、そして、だからこそ目の前の困っている人のためにできうる限りの支援を行おうという呼びかけを行いました。

▼オンライン全社集会の様子

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日本は今、耐え忍んでいます。ネットやテレビでも不平不満や非難ばかりが目につきますね。こんな時こそ、みんなが支えあって助け合っていくことが本当に大切だと思っています。不平不満を言っても、状況は変わりません。この状況のなかで、社会のインフラである我々IDOMは、今困っている方、未来のお客様に対して何ができるのか。一人一人が真剣に考えて行動に移すことが求められています。私は、皆さんと一緒であれば、この難局も乗り越えていけると信じています。(社長スピーチ抜粋)


スピーチする社長はとても誠実に、ひとつひとつの言葉を噛みしめるように発言していました。結果として、全国のガリバー店舗およびIDOM関連店舗の店長やエリアマネージャーはじめ、多くの従業員を奮起させ、結束できたのだと思っています。

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❸企画書がアウトプットの質と速度を決める


プロジェクトリーダーのIDOM社・山畑さんのもとへ社長自ら、コロナ支援に関する相談の電話があったのは4月1日の夜。(山畑さんは風呂でYouTubeを観ていたらしい)

翌朝、山畑さんから連絡をいただき、その2日後には社長含めたプロジジェクトチーム全体への企画提案と合意を獲得しました。

今回これだけスピーディーに社長の意思決定とチーム全体の合意が得られたのは企画書の力がとても大きかったと自負しています。

Amazon社では、キーノートでの企画書はNG、すべてテキストでの提出が求められると聞いたことがあります。たしかに企画書では「それっぽい」いい感じの画像を貼り付け、なんとなく良い企画に演出することが可能です。そういった企画を通すための企画書はたしかに不要だと思うのですが、唯一、キーノートの価値があるとするならば、企画におけるクリエイティブの方向を予め提示できることじゃないかなと思っています。

IDOM社として緊急性の高いメッセージを打ち出さなければならない時、かつ今回のように「対インナー」でも「対アウター」でもあるアクションの場合、通常のフローである、企画書提案→合意→デザイン方向性議論→合意→制作、というステップがとれません。

そのため企画内容とセットで、非言語的にもプロジェクトを決定づける必要があります。どんなスタンスで、どんなテンション感で、本プロジェクトが世に放たれるのか。今回相談をいただいてから2日後に提出した企画書では、本施策のゴール、インナースローガン、具体アクションと共に、企画書テンプレートですでに本プロジェクトにふさわしい世界観の方向性を示しました。あくまでテンプレートなので本デザインではないですが、このテンプレートで内容の受け止め方が大きく変わります。

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企画書抜粋(※一部変更あり)

本プロジェクトでは、オーバーなデザインは施さず、どこまでもまっすぐで誠実なスタンスを最優先。「安全な移動」を連想させる「青信号」をモチーフに、先の見えない人たちに希望を指し示すグラデーションを採用しました。ガリバーがその一隅を照らせるように。企画書は企画内容を伝えるだけでなく、チームを動かすガイドなのです。


さいごに


大きく3つに分けて紹介させて頂きましたが、改めて3つを眺めて思うのは『コロナ支援に限ったハナシじゃ全然ない』ということ。

今、全世界がコロナの恐怖で押しつぶされる寸前で、各社この「異常事態」のなか今できることを真剣に考えていると思います。ただ、その時その時、何ができるかを考え続ける姿勢自体は、コロナに関係なく、常に持っていなければならないモノだと僭越ながらも思うのです。
 
「らしさ」と向き合い、大切な人やチームのことを第一に考え、ガイドを示し続けることで、常に迅速に動く。これは今だけでなくこの先も、常に不可欠なブランドのあり方です。

メランコリックな社会で今まさに切実に苦しむ人が大勢いて、皆、目の前の事態で精一杯です。未来のことなど考える余裕などありません。そう、未来の夢物語は本当に切実な時ほど望まれないのです。

しかし、だからこそ、重大な局面で目の前で起きている事象に対して、ブランドとして、チームとして、ぶれることなく動くために、常日頃から「ありたい未来」でつながり合うことが大切だと強く感じます。それがいざという時、あらゆるアクションにおいて「らしさ」を決定づけ、一丸となり、迅速に動く根源となるのです。

ビジョンを共通言語として、激動する社会で常に最適なアクションを進めていけるように。ブランドの真価を問い続ける重要性を、IDOM社が改めて教えてくれました。



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さいごのさいごに、今回プロジェクトに関わっていただいたPR会社・サニーサイドアップの皆さん、アートディレクターのみさとさん、サイト制作いただいた熊谷さん。爆速対応、本当にありがとうございました。

NEWPEACEでは、こういった社会を前に進める"VISIONING”を一緒に仕掛けるメンバーを募集しています。どうぞお気軽にメッセージを。


文:タナカケイスケ( @aerobics_girl




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