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伝統が残る都市・愛知から届ける“普遍”で“透明”なものづくり

「愛知県」という言葉が想起するのはどんなものでしょうか。

クルマの街・豊田市が知られていたり、今や全国区ともなった“モーニング”のイメージがあったり、八丁味噌や手羽先などの食文化を思い描く方も多いかもしれません。

この記事を執筆している筆者も幼少期から愛知県で育った人間の一人。ところが、愛知県らしさを語る言葉をそう多くは持っていません。愛知県を象徴するものは、その土地の知名度ほど多くはないと思っていたからです。

けれど、それはただ知ろうとしていなかっただけなのかもしれないな、なんて思うできごとがありました。愛知県名古屋市で産声をあげたアパレルブランド「OSOCU」との出会いです。

「愛知県には地元でも案外知られていないのですが、繊維に関係する工芸がたくさんあります」と語るのは、「OSOCU」の生みの親であり、愛知県の繊維業に長きに渡って携わる会社の六代目である谷佳津臣(たにかづお)さん。

愛知という土地の魂が宿る、美しく、強いものづくり。その片鱗を「OSOCU」に学びます。

シンプルだけれど、それが良い。凛々しい知多木綿の良さをこの手に

「OSOCU」が取り扱うアパレルには、凛とした潔さがあります。クセがなく、かといってありふれているわけでもない製品の姿形からは、なんだか強い信念を感じるよう。

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〈Chita-momen band collar shirt black dye 愛知の素材と技術で作る「伝統を日常で愉しむシャツ」〉
https://www.osocu.jp/items/51022064

「OSOCU」の製品に多く使われている生地は、愛知県の知多半島で昔から生産されているという知多木綿。知多地域でかれこれ400年以上生産されているという伝統的な木綿生地で、立体感のある風合いと旧式の機械ゆえに生まれる繊細な個体差こそが魅力的です。

また、木綿の生地の特徴である風通しの良さも抜群。「今どきの高機能ではないけど、心地いい質の良さが魅力の生地と感じています」と谷さん。

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〈Chita-momen baloon pants black dye〉

派手なカラーは極力使わず、白や黒を中心としてシンプルな勝負を賭けている潔さもまた気持ち良い。ただし、この色にも、ただの「黒」ではないたゆまぬこだわりが隠されています。

「江戸時代から尾張の国で受け継がれてきた、名古屋黒紋付染の黒染め技術を用いて染めています。少量ずつの職人による手作業での染色なので、製品ごとに独特の風合いを楽しんでいただけることでしょう」

伝統的な工芸を、今の時代に合わせた愛し方で届ける。愛知県内に長く根付いてきた知多木綿と名古屋黒紋付染という技術に着目し、リデザインし、「OSOCU」というブランドを通して世の中に届けています。

工芸との距離をもっと近づけたいから。知られざる愛知の工芸を日常に迎え入れた

「OSOCU」が誕生したのは今から遡ること3年前、2018年のことでした。立ち上げた理由はもっと自分たちの日常に工芸を取り入れて定着させたいと思ったから。

「『OSOCU』が生まれた背景には、僕が現在代表取締役を務める谷健株式会社の存在がありました。弊社は綿反卸として創業し100年間以上もの間、問屋業に携わってきました。扱ってきた製品は時代に合わせて変化しており、綿具、寝具、ギフト、アパレルなどと移り変わっています」

問屋業に携わる中で感じたのは、これからの時代はただの仲介ではなく、作り手側も使い手側も知る立場になることが重要であるということ。産業の規模や流れが変わっている時代の中で、従来の問屋としての立ち位置では存在価値を出すのは難しいと感じていました。

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「近年、D2Cブランドも増えていますよね。発想としては私も近かったと思います。ただ、自分たちのブランドを広げたいという気持ちよりも、日本の作り手側と使い手側の間で価値のあることをしたかったというのが根っこにあります」

どんなものを作るのか、どうやって作るのか、どんな人のために作るのかと、思案した時間は決して短くなかったそうです。そんな中たどり着いた一つのアイデアが、自分たちのいる土地の素材を活かすというものでした。

「地元愛知で長年受け継がれてきた工芸を、日用品を通して楽しんでもらえる製品を作れないかと考えたのが始まりでした。

知多木綿も名古屋黒紋付染も長い歴史があるものの、あまり現代の生活の中では知られていません。裏方としての仕事が多かったこともあるでしょうし、主な販路が着物や浴衣といった和装であったこともあるでしょう」

谷さんは「OSOCU」を立ち上げ。トレンドに踊らされず、長く愛し愛される製品づくりを目指してブランドを育ててきました。

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「ユニセックスなデザインをと思い研究を重ねているので、性別問わず知多木綿をはじめとする素材の感触をたっぷりと楽しんでいただける製品作りを意識しています。実際、現在の購入者層も男性:女性=6:4と拮抗しています」

購入者のおよそ半数が愛知県出身・在住だったり、愛知県にゆかりのある人なのだそう。愛知県という土地が生み出す文化を、その土地を知る人々は一体どのように見つめているのでしょう。いつか尋ねてみたい気もします。

心地良いものづくりは、心地良い情報提供から

売上高だとか生産ラインの確立だとか、アパレル業界ではそういった指標を見つめて成長を掲げることが珍しくありません。なのに「OSOCU」のスタイルはそれとは正反対。むしろ、一辺倒にせず、ゆらぎごと良さとして残すその在り方が、工芸品らしくて人の温かさごと感じられるかのようです。

あらゆる効率化によってブラックボックスになりがちな生産工程を、谷さんは生産者への影響を配慮しながら極力オープンにしていくことで、フェアでニュートラルな製品づくりに関わっていきたいと話してくれます。

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「アパレルは生産工程の多くが消費者には見えていません。工程の中で捨てられてしまっている端材があること、職人の技術力がどんな風に宿って製品が生まれているのか……僕たちが見ている世界は酸いも甘いもさまざまですが、その景色を少しでも消費者と共有したいなって思うんです。

きっとそのほうがわかることがあると思うし、理解が深まれば日々使う製品への愛着は自然と強くなると思うんです。そのためには、自分自身が興味を持って、観察し伝えられることができるものを組み合わせたいんです。なので、なかなか大量生産とはいかないですね」

「1年で流行は変化し、10年であらゆるものが変わってしまう世の中だからこそ、100年を越えて受け継がれてきているものを大事にしたい」谷さんは取材の中でそう仰っていました。

地に根ざし、確かな思いと技術力によって形取られる「OSOCU」なら、100年先でも呼吸を続けるブランドとなりうるのだろうなあと、谷さんのお話を伺った今はそう感じてしまいます。

普遍的な魅力があるロングライフデザインには、トレンドやブームなどに打ち勝つだけのしなやかな強さがあるのでしょう。いつか「OSOCU」が日本中にとってのロングライフデザインの象徴となりますようにと願わずにはいられない、そんな取材の時間でした。

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10月8日(金)〜10日(日)の3日間、渋谷・MIYASHITA PARKで「NEW POINT〜FACTORY〜」と題したポップアップイベントを開催します。当日は、本記事でご紹介した知多木綿を生地に使用したシャツや新作なども登場予定です。

知多地域の魅力、愛知県の工芸品の奥深さなど、本記事のお話で触れた思いはぜひ会場にて感じてみてくださいね。ご来場、お待ちしています。

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