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“北の危機”熟知の2人が証言「戦争一歩手前…」回避できた理由

北朝鮮情勢が今以上に緊迫し、戦争の危険性が高まった時期がありました。当時、北朝鮮と真正面から向き合った2人の人物に会ってきました。

一人は、国防長官を務め、北朝鮮への攻撃を真剣に検討したウィリアム・ペリー氏。もう一人は、何度も北朝鮮の核施設を視察したヘッカー博士です。彼らに、危機への対処方法を訊いてきました。
(TBS NEWS23 17年7月31日オンエア)

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アメリカ・クリントン政権で国防長官をつとめた、ウィリアム・ペリー氏。

●ウィリアム・ペリー氏
(1994年の北朝鮮危機について)
「あのとき、もう少しで北朝鮮と戦争をするところでした」

1994年、北朝鮮の核兵器開発疑惑が高まるなかで、アメリカは寧辺にある核施設の攻撃を検討していました。当時のペリー国防長官は日本にも協力を求めました。

●ウィリアム・ペリー氏
「戦争の可能性が高まってくると、私は当時の日本の首相に会ってこう説明しました。『戦争を望んではいませんが、もしそうなったら日本にある空軍基地、海軍基地を使用することになります』とね。それには首相の事前の承認が必要でした」

しかしこのとき、戦争になれば軍民あわせて100万人の韓国人と10万人のアメリカ人が死亡するという試算が出されます

●ウィリアム・ペリー氏
「もし北朝鮮と戦争していたら…その結果は明らかでした。北朝鮮は敗北し、彼らの政府は跡形もなくなったでしょう。戦争に勝っても代償はひどいものになった。だから当時、軍事行動を躊躇しました。そして今、同じ理由でさらに躊躇するのです」

結局、戦争は回避され、交渉の中で北朝鮮は「核開発計画の凍結」をのみます。しかしその後、北朝鮮は核開発を再開し、金正日総書記・金正恩党委員長と続くなかで、合計5回の核実験が行われました。また、ミサイル発射の数は金正恩体制になってエスカレートしています。

●ジークフリード・ヘッカー博士
「みんな金正恩氏は、より大胆で、より多くの核兵器を持ちたがっているのは明らかだといいます。でも私はその比較が正しいとは思いません」

そう話すのはジークフリード・ヘッカー博士です。北朝鮮を過去7回訪問し、核施設も視察したヘッカー氏は、実はターニングポイントは2008年後半から2009年あたりだといいます

●ジークフリード・ヘッカー博士
「私は2009年2月に北朝鮮にいました。彼らは“もう交渉はしない””ロケットを打ち上げるのだ”と言っていました。金正日時代から、北朝鮮は核攻撃能力の拡大路線を始めていたんです。そしてそれが金正恩時代に”実を結んだ”のです」

ただ、ペリー氏もヘッカー氏も、北朝鮮が核による先制攻撃をする可能性は極めて低いとみています。アメリカに反撃されれば体制が崩壊するからです。

●ジークフリード・ヘッカー博士
「それは自殺的攻撃です。金正恩はクレイジーではないと思います。生きていたいでしょうし、自分の体制を発展させたいでしょう。彼の核兵器は、使用しないからこそ役に立つんです」

懸念されるのは、より偶発的な事態です。

●ウィリアム・ペリー氏
「核兵器を持った北朝鮮がより挑発的で、無謀な行動を取れば、それが韓国の軍事行動を呼び、さらに大きな軍事行動、最終的には核を使った行動にまでエスカレートするかもしれません」

では、現状をどう解決に導くのか。ペリー元国防長官は、中国の重要性を指摘しつつも、トランプ政権のやり方ではだめだといいます。

●ウィリアム・ペリー氏
「『中国さん、あんたが解決しろ』と言うだけでは不十分。『これはあなた方にとっても、我々にとっても深刻な問題なんだ』と説得すべきです」

ヘッカー博士は、もはや何らかの「対話」をすべき段階だ。との意見です。

●ジークフリード・ヘッカー博士
「以前、『制裁と中国』は効き目がありませんでした。そして私が思うに、今日でもそれは同じです。我々はもっと北朝鮮のことを理解する必要があるんです。どれくらいの能力があるのか、彼らの動機は何なのか。金正日時代には対話がありました。対話は、相手の”人となり”を知るのに必要です。私がみるところ、我々は金正恩という人物の“人となり”を知る機会が今のところないのです。我々は、彼のことをほぼ何も知らないんです。だから、対話が必要なんです」

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●星浩キャスター
「日本にはいま、『北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に独自の敵基地攻撃力を持つべきだ』という意見が出ていると聞いたら、二人とも「東アジアで軍拡競争を招くだけ。愚かな考えだ」と語っていました。