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タイ南部国境県テロ取材「今日も現場にいます」

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世界有数の観光立国、微笑みの国のタイの最南端は、長い間テロが続くムスリムたちの土地。バンコクからマレーシア国境まで1,300キロ超、いつ終わるとも知れない当地テロを2004年から… もっと読む
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2018年1月の記事一覧

Chapter 6 取材最終日にようやく事件

Chapter 6 取材最終日にようやく事件

 スンガイコーロックのオープンバーの爆破事件からちょうど1年、日付も同じ3月27日、やはりスンガイコーロックにいた。3日前の夜に南部国境県に下ってきて、今日はバンコクに戻る日。前夜まで取材になるような事件はなく、ずっとブラブラ。結構、焦っている。スンガイコーロックは2004年からの数年間、年に1~2回の割合でオープンバーやホテルなど不特定多数の被害者を出すテロが起きていたが、それ以降は2~3年に一

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Chapter 7 2世紀もズレていた王国成立

Chapter 7 2世紀もズレていた王国成立

 そもそもパタニー王国とは何なのか? 実在したのか? いつからか? 何が起きていたのか? これに答えられるタイ人は少ない。タイ領土の端も端、猫の額ほどの土地がどういう歴史を歩んできたかなんて興味ないし、知らなくても困らないのだ。それは日本人も同じだろう。琉球王国、その先住民、その言葉について、まともに答えられる沖縄県外の人間がどれだけいるか。そういう自分もしかり、沖縄どころか出身地である静岡にどれ

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Chapter 9 こだわりの地名由来

Chapter 9 こだわりの地名由来

 パタニーのことをいろいろ調べていく中でもう一つ、入り乱れた諸説を追っていった挙句に訳が分からなくなってしまったのが、「パタニー」という地名の由来だ。日本でも県や市を紹介するとき、地名の由来から始まることが多い。それはタイでも変わりない。特にパタニーを紹介する書物になると、歴史より地名の方が重要視されているのではないかと思うほど、必ず由来の詳細が書かれる。

 日本語版ウィキペディアでさえ、他言語

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Chapter 10 日本より身近な役人② その日に会ってその日に取材

Chapter 10 日本より身近な役人② その日に会ってその日に取材

 最初に会ったときにはパッターニー県知事、その次に会ったときには南部国境県5県を管轄する「南部国境県管轄センター」長官に昇進していたパーヌ・ウタイラット氏。南部国境県についていろいろ取材しているとはいえ、こちらは一介の記者に過ぎない。県のトップである県知事などにインタビューを申し込むほど、身の程知らずではない。ないのだが、タイでは往々にして企業でも役所でも政府でも、知らないうちにトップに行き着いて

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Chapter 11 古より日本が登場するパタニー史

Chapter 11 古より日本が登場するパタニー史

 パタニーの史書には数回、日本との関わりを示す記述が登場する。日本人が想像する以上に、パタニーと日本は古よりとつながっていたらしい。パタニー王国は海上貿易の主要港として栄え、ヨーロッパ、中東、インド、中国、そして日本などと交易があった。1511年にマラッカが陥落した後は、東海岸で多大な力を持つ有数の貿易港に発展した。現地で話を聞く限り、パタニーの町には多くのポルトガル人や日本人の姿があったという。

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Chapter 12 日本が引き変えたタイとマレーシアの国境

Chapter 12 日本が引き変えたタイとマレーシアの国境

 日本人が南部国境県をフラフラしていると、「日本人がこんなところで何をしている」と心配されるが、長い目で見れば我々の存在は決して特別ではない。この辺りにはちょっとした言い伝えが残っている。

「第2次世界大戦(太平洋戦争)が始まる数年前、1人の日本人が突然、パタニーの地にやってきた。地元の娘と結婚、海辺の家に住み、毎日朝になると沖に出て、夕方になると戻ってくるという生活を続けていた。1年ほど経った

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そこにいればいつでも出会えるテロ Chapter 1 陸軍分隊を従軍取材① 陸軍広報幹部との腕時計交換

そこにいればいつでも出会えるテロ Chapter 1 陸軍分隊を従軍取材① 陸軍広報幹部との腕時計交換

 1千キロも離れたバンコクから数カ月起きに訪れるだけでは、南部国境県を効率的に取材できるわけはない。テロにはある程度の波があって、各種報道を逐一追っていけば「次の山は来週だ」などと読めるようになってくる。

 ただそれだと、競輪や競馬の目を予想しているというか、(テロに巻き込まれる)人の不幸を期待しているというか、何となく後ろめたい。そんな自分の読みを頼って取材を決めても、現地で何も起きなければ「

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