マガジンのカバー画像

タイ南部国境県テロ取材「今日も現場にいます」

55
世界有数の観光立国、微笑みの国のタイの最南端は、長い間テロが続くムスリムたちの土地。バンコクからマレーシア国境まで1,300キロ超、いつ終わるとも知れない当地テロを2004年から… もっと読む
¥1,500
運営しているクリエイター

2018年4月の記事一覧

Chapter 7 さまざまなテロの手法-2

Chapter 7 さまざまなテロの手法-2

《爆発物による無差別テロ、斬首テロ》

 バイクからの銃撃も、子どもや僧侶を狙うテロも、決して無差別ではない。ターゲットの全ては異教徒であり、ムスリムだったとしても政府側の人間だ。しかし爆発物によるテロは無差別となる。爆発物は不特定多数を攻撃する手段として効果的。人ごみにまぎれて駐車場や食堂・商店の軒先に置いたり、バイクの荷台やシートの中に隠してそのバイクを効果的な場所に駐車し、携帯電話端末を使っ

もっとみる
Chapter 8 パーヌ・ウタイラット氏インタビューその2

Chapter 8 パーヌ・ウタイラット氏インタビューその2

2010年1月23日 南部国境県管轄センター長官当時

 「そうか、お前はオレに取材したことがあるのか」。
パーヌ氏はパッターニー県知事のころに会っていることをすっかり忘れていた。ヤラー市で定宿にしているホテルのオーナーに、パッターニー県内で開発中だというハラルフーズ工業団地について尋ねてみたところ、
「その辺りの事情に詳しい奴がいる」
といって紹介されたのが南部国境県管轄センター長官だった。

もっとみる
Chapter 9 管轄があいまい、星の数ほどある「自警団」

Chapter 9 管轄があいまい、星の数ほどある「自警団」

 テロに立ち向かうのは軍や警察だけではない。2004年のテロ激化以降、南部国境県では軍と警察の人員が常に増強され、さまざまな自警団が編成されてきた。これらを統合した治安部隊としての規模はより多くのデロが発生した2012年までに、5万人にまで膨れ上がった。

 陸軍はチュムポン県以南14県を管轄する第4軍管区に組み入れられており、正式な駐屯地はパッターニー県のシリントン駐屯地とナラーティワート県のナ

もっとみる
Chapter 10 地元警察署のテロ対策

Chapter 10 地元警察署のテロ対策

 陸軍第4軍管区の広報部が取材のたびに力説するのが「段階的テロ対策」。軍は武力を行使するだけではなく、住民の生活を向上させ、平和で豊かな未来を築くことを真の任務とすることだと繰り返し話す。

 第1段階は、現在遂行中の「テロ鎮圧」。武力に対して武力をもってテロを鎮圧、平和維持を目指す。第1段階と並行して遂行される第2段階は、「軍の存在感の強化および住民との意思疎通」。軍は武器を振りかざすだけではな

もっとみる
Chapter 11 行政改善でテロ撲滅を 闘う公務員

Chapter 11 行政改善でテロ撲滅を 闘う公務員

 テロ対策を進めるのは治安部隊だけではない。行政機関も努力を続けている。テロが激化した2004年以降、政府は南部国境県の治安回復・民度向上、経済活性化の政策を相次いで打ち出し、テロが発生しない土壌を築くための努力を続けている。具体的にはインフラ整備、投資環境整備、教育費などの資金投入が挙げられる。

 インフラに関しては、南部国境県一帯の幹線道路はもともと舗装状態が良好で、ほかの地域と比較すると非

もっとみる
テロリスト側の論理 Chapter 1 未だ無き国際テロ組織の浸透

テロリスト側の論理 Chapter 1 未だ無き国際テロ組織の浸透

 タイの治安部隊はマレー系分離独立派組織を「組織主要メンバー」と「テロ実行犯」を分けて考える。「そこにいればいつでも出会えるテロ Chapter 5」で述べたとおり、テロが激化した当初の2004年頃、分離独立派組織の主要メンバーは500人ほど、メンバー以外のテロ実行犯は1万5,000人ほどといわれていた。タイの治安部隊はテロ組織メンバーとテロ実行犯を分けて考える。メンバーはいわばブレイン、実行犯は

もっとみる
Chapter 2 日本のメディアで初 テロ組織PULO幹部にインタビュー-1

Chapter 2 日本のメディアで初 テロ組織PULO幹部にインタビュー-1

 2009年11月1日、PULOの幹部のカストゥリ・マフコタ(Col. Kasturi Mahkota)氏に接触、日本のメディアとしては初めて独占インタビューしている。氏には2009年と2011年に会っており、当時は「Vice President, Chief of Foreign Affairs Department」として外交部代表を名乗っていたが、その後Presidentとして組織代表に就任

もっとみる
Chapter 3 日本のメディアで初 テロ組織PULO幹部にインタビュー-2

Chapter 3 日本のメディアで初 テロ組織PULO幹部にインタビュー-2

 カストゥリ氏はナラーティワート県生まれ。16歳のときに留学生としてシリアに渡り、7年間過ごす。このとき同志と共にPULOを創設した。1968年のことだ。その後はスウェーデンに渡って国籍を取得、PULOの活動を海外より指導している。

 インタビューの回答は、大義名分的なものが多い。特に国際イスラム組織(国際テロ組織)との関係だ。資金調達、武器調達、テロ訓練などを考えると、あからさまな関係はなくと

もっとみる