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タイ南部国境県テロ取材「今日も現場にいます」

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世界有数の観光立国、微笑みの国のタイの最南端は、長い間テロが続くムスリムたちの土地。バンコクからマレーシア国境まで1,300キロ超、いつ終わるとも知れない当地テロを2004年から… もっと読む
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2018年5月の記事一覧

Chapter 4 道案内はホテルのボーイ

Chapter 4 道案内はホテルのボーイ

 2009年7月12日午後、ヤラー県ヤラー市内のホテル。その日は目ぼしい出来事もなく朝からブラブラしていて、暇なのでたまった原稿でも書こうと机に座ったところ、南部国境県の取材でいつも持ち歩いている警察無線から、爆発物の爆発を意味する「511」という数字の通報が入ってきた。場所は隣県パッターニーのヤラン郡、その先の詳しい町や村の名前まで分からないが、現地で誰かに聞けば何とかなるだろうと、ロビーに下り

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Chapter 5 「この任務だけは嫌だ」、1人で爆弾に赴くEOD隊員

Chapter 5 「この任務だけは嫌だ」、1人で爆弾に赴くEOD隊員

 2012年6月5日、ヤラー県ヤラー市。陸軍タスクフォースに従軍中、無線コードの510(爆発物発見)の通報が入る。治安部隊が510の通報を受けた場合、まず民間人を避難させて現場を100~200メートルの範囲で封鎖する。最初に警察に通報が入ったら警察は軍に知らせ、その逆も同じくもう一方に知らせる。爆発物処理班(EOD)は陸海空の3軍と警察に存在、警察の中にも複数のEODがある。現場で鉢合わせになるの

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Chapter 6 マメ大佐が行く

Chapter 6 マメ大佐が行く

 2012年6月4日、朝から晩まで取材で夕食を食べる暇もなく、夜9時にヤラー県のタスクフォース(混成部隊)に到着、副隊長のノッポーン・ルアンチャン陸軍大佐にあいさつする。北部チェンマイ出身、腹が出でいて、話し出すと止まらない。

 「飯はまだか? 先に食っていけ」
と、粥を用意してくれる。連れの記者は、
「助かった。相当腹が減っていた」
と、ほっとしていた。タスクフォースは県内に展開する陸軍を全て

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Chapter 7 北部ナーン出身の女性レンジャー兵士

Chapter 7 北部ナーン出身の女性レンジャー兵士

 南部国境県に展開する治安部隊では、女性隊員の比率がいきなり上がった時期があった。だいたい、2012年から2013年にかけての1年ぐらいだった。

 タイはもともと女性の活躍が目立つ国で、日本と比べると圧倒的に女性の姿が目立つ。南部国境県で女性兵士や女性警官が多くなったのは、女性の社会進出が普通に見られる国という理由のほかに、地元のムスリム住民に接するときに、女性には女性が望ましいという宗教的な事

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利用されるイスラムという宗教 Chapter 1 首相歓迎テロ-1

利用されるイスラムという宗教 Chapter 1 首相歓迎テロ-1

 2013年4月7日。毎年4月13~15日はタイ正月(ソンクラン、水かけ祭り)。前後の週末を含め、タイは全国的に大型連休となる。南部国境県では毎年この時期になるとテロが警戒されるが、これまでの流れを見返す限り、タイの暦に合わせてテロが行われることは少ない。むしろイスラムの暦を把握していた方が、テロ発生を予想しやすい。タイの暦でテロ発生のパターンを読み解くならむしろ、大型連休の前がポイントとなる。

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Chapter 2 首相歓迎テロ-2

Chapter 2 首相歓迎テロ-2

 政府要人が南部国境県を訪れると威嚇というべきか歓迎というべきか、必ずテロが起こる。今日は夕方ぐらいには起きるだろうと見込んで、夕方から再びレスキュー隊で粘っていたが、午後7時になっても町中は平穏。
「もう帰ろうか……」
と連れのカメラマンと肩を落としながら引き揚げた。

 レスキュー隊から車で1分のホテルの駐車場に車を停め、ロビーに上がる。フロントで鍵をもらい、エレベーターに乗る。ドアが閉まりか

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Chapter 3 首相歓迎テロ-3

Chapter 3 首相歓迎テロ-3

 救急車で最初のホテルまで送ってもらう。爆発が起きて30分も過ぎたころに警察と陸軍の爆発物処理班(EOD)が到着、現場検証を始めた。警察無線からは、「水色のシャツで半ズボンの男を追跡中」といったやり取りが聞こえてきた。

EODの姿を写真に撮っていたら、見たことのある警官が行き来していた。何年か前に同行取材したコマンドセンターの警官。声をかけると最初の返事が、
「おお、日本人。オレも新しいカメラ買

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Chapter 4 世界的な「テロブーム」とタクシンの「麻薬戦争」

Chapter 4 世界的な「テロブーム」とタクシンの「麻薬戦争」

 イスラムは常に利用されている。南部国境県のテロは、過去十数年にわたって沈静化していたが2004年に激化、規模の大小や発生頻度の波はあるものの、未だ収まる気配はない。テロ激化の理由はまず、9.11米国同時多発テロをきっかけとする世界的なテロへの同調がある。

 隣国マレーシアのクランタン州とトレンガヌ州で、野党で宗教政党の全マレーシア・イスラム党(PAS)の政権が長く続いていることも、南部国境県の

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Chapter 5 最大の資金源は麻薬

Chapter 5 最大の資金源は麻薬

 マレー系分離独立派組織の資金源は、麻薬密売に頼るところが大きい。南部国境県だけで年間2億~3億バーツの市場規模といわれる。タクシンの麻薬戦争は他の地方では成功したが、南部国境県では失敗して問題を悪化させた。麻薬=陸軍&警察、という図式はタイでは誰もが知るところで、タイ、ミャンマー、ラオスが接するゴールデン・トライアングル一帯が麻薬の生産拠点、というのは事情に疎い日本人さえも耳にしたことがあるだろ

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