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チュニジア フランス人カップルとベルギー人カップル-1

 チュニジア旅行は北部の首都チュニスに入って中部まで陸路で移動、そこから北部までのんびり引き返すというパターンがほとんどのようで、昨日の町で会って今日の町でも会い、いつしか行動を共にするという仲間が自然にできてくる。小さな国で、誰もがどこの町に行ってものんびり過ごすため、似たような仲間がどんどん増えてくる。

 カリブ海のフランス海外県、マルティニーク島から来た背の高い黒人とチュニスで会い、その後ケルアンとドゥーズという町で再開して、気付けば一緒に旅行。彼が以前の町で会ったフランス人カップルと再開、そのカップルがベルギー人カップルを連れてきて、6人でサハラ砂漠にちょっとだけ入る1泊2日の現地ツアーに参加することになった。チュニジアの国土の南半分はサハラ砂漠で、旅行者はたいてい砂漠の先端にちょこっと入って出てくる。先端といっても見渡す限りの砂で、映画に出てくる砂漠らしい光景。最終的にスイス人の若者2人組も合流して8人に。みんなフランス語がネイティブで、そうでないのは自分1人だけだった。

 外国人の自分にとって、ベルギーやスイス辺りで話されるフランス語はゆっくりで、非常に聞きやすい。フランスのフランス語のような「60+10」とか「20x4」とか計算するような数字の数え方もなく、そのまま「70」「80」と直接的な単語だ。

 とはいえ、一応フランスでフランス語を勉強しているので、ベルギー人カップルやスイス人2人組みが話すフランス語の発音や表現に戸惑うことが多々あった。

「C'est bon(セ・ボン)」。

 ベルギー人カップルの彼氏が、一面砂のサハラ砂漠を目にするなり、そう口にした。何となく違和感がある。フランス人カップルの彼氏に目をやると、ニヤニヤしながら「日本人にも変だって分かるだろ」と聞いてきた。フランスであればここは、

「C'est bien(セ・ビヤン)」

になるはずなのだ。

 スイス人2人組はツアー後すぐに行動を別にし、6人で一緒のホテルにチェックインする。庭でコーヒーかチャイを飲みながら、国の話になった。ベルギー人カップルの彼氏が、

「フランス人がベルギー人をどう評価しているか知っているか?」

と聞いてきた。

「それはな、ベルギー人はこうやって本のページをめくるって思っているんだ」

と言って、ページをめくりやすくするために、左手の指を舌で湿らせる仕草をした。別にどうってことのない仕草で意味不明だったのだが、よく見ると右手の指ですでに本のページをめくっている。使わない指をペロペロなめているだけ、というジョークなのだ。フランス人カップルはニヤニヤしたままだ。

「まだある。靴のヒモを結ぶときはこうだ」。

ヒモを結びやすくするために座っているイスに左足を乗せ、実際には地面に着いたままの右足の靴のヒモを疲れる姿勢で結び直していた。

「これがフランス人がイメージするベルギー人だ」。

フランス人カップルは相変わらずニヤニヤしたままだった。

 ちなみにマルティニーク島の彼は、フランス語の方言であるクレオール語を話す。以前一緒に暮らしていた、インド洋のレユニオン島出身の彼女が話す言葉と同じだ。その彼女がケンカのたびに口にしていたセリフを音だけで真似て、マルティニーク島の彼にどういう意味なのか聞いてみた。

「同じクレオールでも発音が違うから良く分からないけど、『お前のお袋を捕まえてどうのこうの、このブタ野郎どうのこうの』だと思う」。

 この意味は今でも分からないでいる。

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写真は全て当時の紙焼きをスキャンしたもの。

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