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仏教国タイなのにイスラムの地 Chapter 1 「3等列車で戒厳令下の町へ」

 取材という気合いはなかった。実のところ物見遊山。2004年3月26日、タイ国鉄のバンコク中央駅(フアラムポーン駅)から軽い気持ちで夜行列車に乗り込んだ。その年の1月5日、突然のテロ再発を理由にパッターニー、ヤラー、ナラーティワートのタイ南部国境3県20郡に戒厳令が敷かれ、本業である日本語情報紙の仕事で爆破だ銃撃だというテロニュースを扱いながら、「そろそろ行ってみようかな」と思い立ったからだ。予約したのはエアコンもない三等座席で、発車時刻1時間前に列車に乗り込んだものの、車内はすでにサウナのような蒸し暑さだった。常夏の国タイでも特にこの時期は1年で最も暑い。タイ国民は翌月4月13~15日、ソンクラーン(水掛け祭り、タイ正月)で暑さをしのぐ。

 4人掛けのボックス座席は木製で背もたれは直角。向かいにはけっこう整ったルックスのオカマ * が2人、汗を流しながらも無言で暑さに耐えている。この状態で20時間も旅が続くと想像すると、途端に気が滅入ってきた。無理して行く必要はない。切符もたかだか百数十バーツ(300~400円程度)、発車する前に降りてしまってもいい。

タイで最も美しいとされるパッターニー市内セントラルモスク

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