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41カ月連続で部数増、若い読者を増やしつづける「読売中高生新聞」はどうやって生まれたの?

「若者の活字離れ」が叫ばれる今、多くのメディアが若年層読者の獲得に苦心しています。そんな中、41カ月連続で販売部数(前年同月比)を伸ばし続けている若者向け新聞があります。それが、「読売中高生新聞」です。

毎週金曜日発行、オールカラーで計24〜28ページ。中高生に人気のアーティストやネット上での話題を積極的に取り上げるなどの紙面作りはもちろん、新聞に不慣れでも理解しやすいレイアウトや図解など細かな部分に多くの工夫が凝らされています。

この読売中高生新聞、一体どのような目的で生まれ、どのようなスタンスで制作されているのでしょうか? そして、部数を伸ばし続けられる理由とは? その舞台裏を探るため、読売中高生新聞編集室の皆さんに話を聞きました。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

中高生対象の新聞が生まれた理由

「読売中高生新聞の創刊は2014年。2011年創刊の小学生向けの『読売KODOMO新聞‎』が好評だったことから、その次の世代が読める媒体をつくろうと企画されたものです。これにより、年齢を重ねるとともに読売KODOMO新聞‎、読売中高生新聞、そして読売新聞本紙と、続けて読んでいただくサイクルができあがりました」

そう語るのは、編集長の石間俊充さんです。そもそも読売KODOMO新聞が生まれたのは、若い世代の活字離れによる、将来の読者減少を懸念してのこと。小学生のうちから活字媒体に慣れ親しんでもらい、新聞文化を守っていこうという取り組みでした。

<プロフィール>
読売中高生新聞編集長・石間俊充さん
1997年入社。初任地は浦和支局(現さいたま支局)。社会部では警視庁、防衛省、遊軍などを担当。2016年から社会部デスク。17年6月から現職。好きな言葉は「やらない理由を見つけるな」

「読売中高生新聞は当然、中高生をターゲットとしているわけですが、とりわけ世の中のニュースに貪欲で、知識欲旺盛な皆さんに向けて、新聞だからやれることを意識した紙面作りを行っています。小学館さんの協力もその1つです。『新聞』ではなく『図鑑』のような構成でさまざまなコンテンツをわかりやすく伝える工夫をしています」(石間さん)

とはいえ、中学1年生と高校3年生では、知識にも理解力にも大きな差があります。そこで、この広い層を同時に満足させるために重視しているのは、「共感」なのだそう。

「日に日に精神年齢が成長するこの世代にとっては、一方的な押し付けになる紙面ではいけないと考えています。友達と雑談するような感覚で知識が取り込めて、休み時間にクラスで話したくなるような情報の提供が、何よりも大切であると考えています」(同)

若い読者層の共感を呼ぶための記事づくりとは?

では、読売中高生新聞はどのような体制で制作されているのでしょうか?

「制作を担っているのは読売新聞本紙の社会部記者です。100人を超える社会部の記者のうち、現在は10人前後が読売中高生新聞を兼務しています。なかには、平成生まれの記者もいます。それぞれにおおよその担当分野があり、例えば私はスマートフォン関連や人気アイドルの情報、あるいは『部活の惑星』という各学校の部活動の様子をレポートするコーナーの担当です」(読売中高生新聞編集室・菅原智記者)

<プロフィール>
平成2年生まれ。初任地の盛岡支局では、東日本大震災の被災地や花巻東高・大谷翔平選手(現エンゼルス)を取材。2018年2月から中高生新聞を担当。好きなアイドルは欅坂46

専門部署を設けず、あえて社会部記者が兼任で制作しているのは、情報速度や正確性を求めたのはもちろん、スポーツから政治経済までの幅広いテーマを第一線で取材している記者が作ることで、子どもたちにいち早く、そして一番いい情報を届けたいという思いから。週に一度、企画会議の場を設け、それぞれの記者がネタを持ち寄って議論しているそう。

中高生の関心の所在は、やはり大人とは大きく異なるもの。そこで編集室では、プレゼント企画に付随する毎週のアンケートから、読者が知りたいこと、興味を持っている話題を常にリサーチしています。

(今回の改元は、中高生にとって生まれて初めての出来事。伝える内容も、中高生視点に立って決定する)


「ただ、この世代の関心は、本当に多種多様です。アイドルやファッションの情報を求める声もあれば、米朝会談の詳細を載せてほしいという声もあり、正解を導きだすのは非常に困難です。でも、それだけ価値観が多様化している事実が重要で、だからこそできるだけ幅広い話題をカバーするよう心がけなければなりません」(石間さん)

そこで編集室では、読者層である中高生を集めた会議を、定期的に実施しています。メディアに興味を持つ子供たちを募り、これまでの紙面を読みながら忌憚(きたん)のない意見を言ってもらい、さらにコンテンツごとに採点もしてもらうという、ユニークな取り組みです。

「こちらとしては自信のあった企画でも、目の前で酷評されることも少なくありません(苦笑)。そうした意見は、もちろん現場にフィードバックして改善のための材料としますが、一方で意見として面白いので、ときにはそれを紙面で紹介することもあります」(石間さん)

こうして中高生から話を聞くのはやはり発見の宝庫。たとえば「シゴトビト」というさまざまな職業を紹介するコーナーでは、「成功談よりも失敗談のほうが知りたい」との声が上がったり、学校ではスマホが禁じられているため、意外とトランプで遊ぶ子が多かったりするといった事実は、記事づくりに大いに役立っているとか。

(ほかにも、購読者との接点が一番多い新聞販売店との意見交換も。受験関連のコンテンツは、そのやり取りから増やした)

スマホ時代に合わせ、写真に収めやすい「四角い」レイアウトに

また、レイアウトの点でも、さりげない工夫がされています。紙面を俯瞰(ふかん)してみると、それぞれの記事や図はすべて四角いボックス状に収まるかたちにまとめられているのがわかります。

(横書きのスッキリとしたレイアウトの紙面)

「新聞を読むのに不慣れだと、1つ記事の文章が次の段に移る時、どこへつながっているのかがわかりにくい。創刊前の中高生へのリサーチで、そんな意見が非常に多く上がったんです。そのため、読売中高生新聞では全ての記事を横書きの四角形で完結するようにし、余白を増やすことでこの点を解消しました。読みやすさを向上させるだけでなく、気になる記事をスマホで撮ってスクラップしやすいよう配慮しているんです」(石間さん)

こうして画像として保存しやすいレイアウトにまとめることで、学校の課題での利用や友達と話題共有がしやすくなるなどのメリットも生まれます。

「新聞の紙面は本来、限られたスペースの中で、その日もっとも重要な情報をできるだけ多く、速くお届けする目的で制作されています。そのため、どうしてもレイアウトが複雑になる場合があります。一方、読売中高生新聞は週刊。世の中の動きをざっくりと分かればいいので、情報はコンパクトで、分かりやすさ重視。何よりも中高生のリアルな意見を反映し、ゼロベースで考えた結果、現在の形になりました」(同)

投稿アプリやリアルイベントで、中高生読者の意見を募集

読者との双方向性を担保するために、無料スマートフォンアプリ「Yteen」を運用しているのも大きな特徴です。こちらで読者投稿を募り、寄せられた投稿は紙面に採用されることも。

(アプリと連携した紙面作りを実施)

「今の若い世代は発信することが好きで、慣れています。しかし、SNSなどの個人アカウントでは、時に炎上のリスクが生じる。その点、運営側が内容を事前にチェックする投稿アプリであれば、リスクなく気軽に意見を発信してもらえると考え、開発したのがYteenです。投稿は人を傷つけるような表現がないかなどを編集室が全てチェックし、誰でも安心して参加できる環境を提供しています。その後、面白いものを選んで紙面へ載せているので、採用を目標に頑張るユーザーも増えてきています」(石間さん)

この意見が載る読者投稿欄などに登場するのが、鳥のキャラクター「トリ」だ。投稿面の編集を担当している白石裕真記者によると、投稿された意見や写真にコメントをする「トリ」は投稿面の中でも重要な役割を果たしているという。

<プロフィール>白石裕真記者
平成元年生まれ。初任地の前橋支局では、関越自動車道のツアーバス事故など主に事件・事故を取材。2018年2月から社会部で読売中高生新聞を担当。好きなアニメは「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」

「このトリのコメントには、仕事の失敗談や上司の愚痴など大人の本音がのぞくセリフを盛り込みます。例えば上司の愚痴というのは、子供たちからすると学校の先生や部活の先輩への不満に通ずるものがあり、1つの共感ポイントとなるんです。最初はそのさじ加減をつかむのにすごく苦労しましたが、今では読者との大切なコミュニケーション手段になっていると感じています」(白石さん)

このほか、リアルイベントを仕掛けて盛り上げる施策も行っています。

「昨年12月、読者の中から選ばれた人に、『名探偵コナン』のスペシャル版で声優をやってもらいました。また今年3月には読売中高生新聞とコラボしている文化放送の人気番組『レコメン!』で、読者も参加した公開収録を行いました。こうしてリアルな場で読者とのつながりを持つことは、読売中高生新聞のファン獲得に通じるでしょうし、読者同士の交流のきっかけにもなります」(菅原さん)

「読売中高生新聞ファン」をいかに獲得していくか

最後に、今後取り上げてみたいテーマについてお聞きしました。

「個人的に構想しているのは、スマートフォンの5Gに関する記事ですね。電波がもう一段階進化することで、世の中がどのように変わっていくのか、読者世代にわかりやすく伝えられればと考えています」(白石さん)

「時事的な話題は、やはりその都度取り上げていきたいです。例えばこの3月には、東日本大震災の記事を手がけましたが、読者の中には発生時に幼く、あの災害の悲惨さを十分に理解することができていない子もいると思います。あらためて災害の実情、そして備えの必要性を訴える意味は大きいはずです」(菅原さん)

着実に部数を増やしている読売中高生新聞。ただ現在、読売KODOMO新聞の販売部数が18〜20万部なのに対し、読売中高生新聞は9万部と、まだまだ伸び代がありそう。

「読売中高生新聞に求められているのは、読売新聞本紙ではフォローしきれない中高生の知識欲にいかに応えていくかということ。ニュースや活字に興味がある中高生は大勢いるはずですし、新しい層もどんどん開拓していかなければなりません。最終的な目標である本紙購読者の拡大につなげるため、『読売中高生新聞ファン』をどんどん増やし、彼らの心をがっちりつかむことのできる紙面作りをしていきたいですね」(石間さん)

石間さんの言葉の通り、今の中高生にとって必要な情報、相応しいアプローチを日夜熟考し続けている様子がうかがえる編集室の面々。今後の紙面づくりに、引き続き注目です。

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