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科学狂想曲

文系の学部卒が理系の修士卒にあたる。努力型の秀才はだいたい身の程を知って修士課程を経て研究職、技術職として企業に就職する。 
東大であってもスタンダードだ。
敢えて文系就職した方が優位に立てるかもしれない。
博士課程に進み、学振を取れる人間もごくわずか。
学部なんかどこの大学だっていい。
院からが本格的な研究のスタート。
修士や学部で未踏スーパークリエイターを獲得した者が大学研究者の道が開かれる。
学振を取れた博士課程の学生でも未踏スーパークリエイターに選ばれる素質が無ければ、秀才型の凡人は博士取得後
企業研究者として就職。
そんな2人の男の物語。
大庭俊32歳は帝都工業大学でポスドクを経て助教をしている。
佐々木慎也32歳は博士取得後、教授の推薦で四菱重工総合研究所に就職。
俊と慎也は院から競い会ってきた仲間だった。
俊は今、帝都工業大学で情報科学研究科で知能工学の浅野研究室に所属している。
浅野研究室では、ヒューマンインターフェイステクノロジーやロボティクステクノロジー、コンピュータサイエンスの融合学問を研究している。
サイバニクス生体拡張技術。生体医工学。ロボットリハビリテーション、メディカルロボット、人の脳神経系を通じた情報と機械系を繋ぐニューメカトロニクスの研究を行っている。
慎也はAI部門で産業用ロボットの実用化を研究している。
人工知能学会
俊が大学で研究しているサイバニクス生体技術の研究論文を発表する。
他大学の教員、院生、企業から拍手喝采だ。
慎也は産業用ロボットの実用化の研究論文を発表する。
慎也の論文はむしろ、企業人として、大学側に産学連携を訴え掛ける内容のものだ。
懇親会
大学がヒエラルキーの頂点。
企業は技術を売り込む側だ。
俊と慎也は再会する。
「久しぶり。やっぱ大学の研究って凄いな。俺らサラリーマンの想像を超えているよ。」
ワインを飲む慎也。
「研究室と家には寝に帰るだけ。なのに助教じゃまだ雀の涙の給料だよ。企業研究者の方が遥かに稼いでる。」
シャンパンを飲む俊。
「久々に飲むか。」
「おう。」
俊と慎也は学会が行われている東京国際フォーラムを抜け、有楽町のワインバーに向かった。
「やっぱりお前は一握りの人間だわ。
才能とコネと運と政治力と時代が味方した選ばれし者だわ。」
照明の暗い落ち着いたバーでワイン片手に慎也が語る。
「院生時代論文100本ノックなんて当たり前だったからなぁ。ロクに風呂も入らず。」
軽く笑う俊。
「産学連携なんて聞こえはいいけどさ、実情は企業の資金提供。企業研究者なんてサラリーマンとしかみなされない。」
クスッと笑う慎也。
「まぁ、俺らも国に科研費カットされてるし、企業は有り難い存在なんだけどね。」
チーズを食べる俊。
「未踏スーパークリエイターにならないと大学に残るの厳しいわ。大学じゃなくても、理研、産総研からの大学リターンはエリートコースだけど。俊は専任だもんな。次は准教授か。」
生ハムを食べる慎也。
「学部なんてどんな大学だっていい。俺は受験失敗してさいたま大学に入ったけど、どこで学ぶかじゃない、何を学ぶかって気づいて院の研究室選んだな。学部に拘った受験バカは所詮大学止まりなんだよ。災い転じて福となるだよ。」
赤のボルドーを飲む俊。
「確かになぁ。俺は学部から帝工大だったけど、受験エリートって、修士でも伸び悩んで、就活も苦労してたわ。 博士取得後、大学教員5%、専任1%、教授1%以下。お前は特任じゃなく、専任だもんな。スゴいよ。」
白のロゼを飲む慎也。
「まぁ、厳しい世界だよ。科学は常にアップデートする学問。100年先を見据えて研究している。論文多読して、研究して、論文書いて、学生に指導しての繰り返し。私大でもユニークな研究やってるところもあるし、常に競争だ。
一般社会とは隔離しているがな。」
チーズをつまむ俊。
「俺、常にifもしもを考えちまう。大学に残って研究してたらって。だから文系就職した方が良かったのかもしれない。時折り、劣等感に苛まれる。」
ブルゴーニュの赤を飲む慎也。
「正直、愛とか優しさとか抽象的なものはよく分かんない。ロジカルで数値化出来ないものが苦手なんだ。だから、食べてるときもセックスしてるときも研究が頭から離れない。」
白のロゼを飲む俊。
「世の中、不平等で不条理なものだ。
企業で研究できるだけでも感謝しなきゃいかんな。知らない方が幸せなこともたくさんある。ちょっとだけ人より優秀だったりすると見たくない真実が見えちまう。」
チーズをつまむ慎也。
「でも、芽衣子はお前を選んだ。俺は研究が一番で、芽衣子の話に耳を傾け無かった。芽衣子が就職してSEとして悩んでいるときも、自分に夢中で連絡に返信しなかった。慎也より研究者としては勝っているかもしれないが、女一人幸せに出来ない。慎也、今二人は幸せか?」
ブルゴーニュの赤を飲む俊。
「ああ。俺は立派な研究者にはなれなかったけど、芽衣子を大切にしてる。
誰よりも。」
「俺は早く教授になりたい。メディカルロボットを普及させて、コンピュータサイエンスの応用からの数理作曲理論を普及させたい。」
互いを見つめる。
2人でシャンパンを開けた。

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