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東電OLと日本の黒い霧

なぜ私はこの事件に惹きつけられるのか。私は、当時10歳だった。
ワイドショーで連日事件が報道された。
まだインターネット黎明期。
子供だった私は知る由もない。
私は大学卒業後、読有新聞社に入社した。経済部から大阪、香川、山形と移動し、今年本社に戻り社会部で働いている。
神谷友子33歳。
毎日日々の殺人事件、事故、コロナ問題に忙殺される日々。
時間との闘い。
ついつい広く浅くになってしまう。
ジャーナリズム魂としては一つの事件を深く追求したい。
コロナ取材で病院のクラスターに巻き込まれ無症状ではあるが自宅待機。
休日出勤も当たり前の日々。
2週間の自宅待機に少しホッとした。
テレビを付けると横並びのワイドショー。イデオロギーを押し付けるニュース。
私が働いている新聞社はその最たるものだ。
社の伝統のイデオロギーと上の人間のコントールで正義もねじ曲げられる。
そもそもマスコミに正義なんかあるのだろうか。
新聞社はイデオロギーに基づき、未だ冷戦が続いてる。
古いメディアだ。
特に政治だ。
テレビしか観ない年配層、主婦、情報弱者を洗脳する。
マインドコントロールとファシズム。
そして、真実を歪ませる。
大衆を扇動する。
正義のツラをした化け物だ。
Twitterでも一般大衆の叫びは無力だ。
有名インフルエンサー、偏った知識人の言いなり社会。盲目的に有名インフルエンサーが正しいとされ、その意見に迎合する。
そして、拉致問題や竹中平蔵の犯した罪は抹殺されている。
勝ち組を気取る者や若者は自己責任論で容赦なくTwitterでインフルエンサーや知識人に擦り寄る。
ちっぽけな一社員の叫びなど上には聞いて貰えない。
私はこの待機期間に、偶然積読書から桐野夏生のグロテスクを読み、97年に起きた東電OL殺人事件に興味を持った。
被害者は私と同じ慶陽大学出身。
しかも経済学部。
しかも大学からの入学ではなく、慶女からの内部進学組。
中等部、普通部、慶女からの入学は秀才ばかり。
昼間は東電幹部の総合職エリート。
年収は1000万を軽く超えている。
夜は渋谷円山町で立ちんぼ。
いわゆる娼婦。
5000円から2000円でカラダを売っていたという。
品川から渋谷に着くと渋谷109で派手な安い下着のような衣装に着替え、ド派手なメイク。
毎日4、5人の客を相手にする。
39歳独身、実家暮らし。
私は当時事件を担当し、もう定年退職し、今は系列のカルチャーペーパーに携わる鮫島泰造62歳に話を聞くことにした。
自宅待機期間中はメールで事件の概要や当時の様子について聞いた。
そして、待機期間が終わると休日や仕事終わりに鮫島に話を聞くお願いをした。
渋谷エクセルシオール
「結局迷宮入りだ。20年以上前の科学捜査なんてもう化石だよ。」
鮫島は紅茶を飲む。
「私が調べた限り、彼女の気持ちは理解出来ない。でも、闇を暴きたいんです。新聞記者として。」
白髪に覆われた鮫島に真剣に訴える友子。
「この事件、真実を暴いても誰も幸せになれないぞ。むしろ、事件に身近な人たちの傷を更に深く抉り出す。」
厳しい口調の鮫島。
「分かってます。記事にはしません。
私が記者を続けるためにこの真実を知りたい。私のエゴかもしれません。」
コーヒーを飲む友子。
「当時、殺された神泉の廃アパートで死んでいた被害者からは複数人の体液が出てきましたが、加害者とされた外国人男性は最新の科学捜査ではシロ、釈放。」
鮫島にパソコンを見せる友子。
「だったら、それが全てだ。」
冷静な口調の鮫島。
「私は彼女の気持ちが知りたい。彼女はただ淋しかったのかもしれません。刹那的でもいい。人肌で孤独を埋めていた。それが売春という世間では汚いとみなされる行為であっても。」
鮫島を見て真剣に語る友子。
「それはお前さんの想像だ。人の気持ちなんぞ分からんぞ。」
友子をじっと見る鮫島。
「彼女は世間一般で見たらエリートです。でも、名誉でも金でも心が満たされなかった。性を売る一瞬だけが生きる生を実感していたのかもしれません。」
コーヒーを飲む友子。
「人間誰だって孤独だ。端から見たらお前さんだってエリートだ。でも、記者として枯渇して過去の事件を調べてる。向こうが売春でお前さんが私的捜査だ。全く違うが被害者もお前さんも欠落した穴を埋めようとしている。」
紅茶を飲む鮫島。
「彼女はエリートととしてではなく、女として見られたかった。立ちんぼをして男と寝ることで自分の存在を証明していたのかもしれません。性に溺れたかったんじゃない、誰かに女としての自分を求められたかった。そして、誰かに話を聞いて貰いたかった。理性で昼間はエリートを演じていた。」
鮫島に真剣に訴えかける友子。
「行ってみるか、現場に。」
友子と鮫島は神泉のアパートに向かった。
アパート前に立った。
「ここで死んでた。絞殺だ。解剖の結果は絞殺だ。それ以上でもそれ以下でもない。世の中に葬られた事件なんて山ほどある。報道すらされないものだってある。」
ショートホープを取り出し、火をつける鮫島。
タバコを吹かす。
「自分が正義だなんて思いません。大きな力にはちっぽけな存在です。こんな淋しい所で亡くなったんですね。」
アパートを見つめる友子。
鮫島と友子は道玄坂地蔵に向かった。
地蔵には真っ赤なルージュか塗ってあった。
「ここで手を合わせる人間、ルージュを塗る人間は性を売ることでしか生きる術を知らない人間かもしれません。」
地蔵に手を合わせる友子。
「人間、いつ闇に堕ちちまうか分からんよ。それに死んだ人間の気持ちなんて、死んだ本人しか分からんよ。」
手を合わせる鮫島。
満月が冬空に光っている。
「月が綺麗。それに、どんなに辿り着きたくても辿り着けない真実がある。」
駅に向かう友子と鮫島。




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