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自分磨き女vs桃井女

私は伊東紗夜子27歳。出版社オレンジハウスの契約社員。絶賛失恋中。
合コンで知り合った3つ上の商社マン亮太30歳には2週間前にフラれた。
中島美嘉のORIONとあいみょんの恋をしたからをエンドレスでリピート。
でも、泣いていても仕方がない。
9時17時の事務職なので、自分磨きスタート。
大日本女子大学文学部英文学科卒の私はTOIECを勉強しなかったためスコア550と情け無い。満点にすべくジュンク堂で問題集を買った。
自宅の近くの久我山じゃなくて、渋谷のサンマルクで閉店まで勉強。
週1で新宿の野菜ソムリエスクールにも入会。料理の腕と野菜の知識をバージョンアップするぞ。あとは銀座で土曜日ソムリエスクール。ワインの知識と出会いの場。一流企業のおじさまがたくさん。若手社員を紹介してもらいたい。後はエステ。今半額キャンペーン。
ネイルは新大久保の激安店。
金欠の私は会社にも弁当持参。ふりかけご飯と昨晩の残り物。
みんな外でランチ。早く食べてTOIECと野菜ソムリエのテキストを勉強中。
「勉強してるとこ、失礼。あなた事務の伊東だか佐藤さんだっけ?」
40代半ばのコムデギャルソンを着た桃井かおり風中年女性に尋ねられる。
「契約社員の伊東紗夜子です。何か?」
女子アナファッションの対極にあるギャルソン女。
「今日からワールドファッション編集長に着任した早瀬今日子。宜しくね。
うち、リサーチが足りないんだけど手伝ってくれない?事務主任の茅場さんにはオーケーもらってる。」
高圧的なサングラスのギャルソン女。
「は、はい。でも、ファッション誌なんてよく分からないですし。事務の契約社員なので。」
小さな声で今日子に話す紗夜子。
「こっちは人手が足りないのよ。あんただって仕事の幅拡がるじゃない。それにTOIECと野菜ソムリエの本が見えるんだけど、あんたまさか自分磨き系OL?」
サングラスを頭にかけて、今日子が尋ねる。
「ただの資格の勉強です。契約社員なんで。」
「ほら、午後から4階よ。行くわよ。カバンだけ持って。」
紗夜子に命令する今日子。
ワールドファッション編集部
ギャルソンを着る今日子46歳。ヨウジヤマモトを着るクールビューティー結城志保32歳。マルジェラを着る早乙女35歳。リミフゥを着る若手美里衣23歳。
「今日からリサーチで加わる伊東紗夜子さん。」
今日子が紹介する。
「事務からヘルプで来た伊東です。宜しくお願いします。」
女子アナファッションの紗夜子は浮いている。
それとも、このパリコレ編集部が浮いているのか。
今日子から大量の資料が渡される。
「これ、明日までにリサーチして。さぁ、取材取材。」
今日子、志保、早乙女、美里衣は取材に行く。
デスクで慣れないモードファッションのリサーチをする紗夜子。
今日は野菜ソムリエスクール19時だ。
大量のタスクが終わりそうにない。
契約社員の座を死守しなければならない。
今日子から19時に現地解散のメールが入った。
21時に仕事終了。
帰宅後、大学時代の親友不動産営業事務の麻美27歳にLINE電話する。
「なんか、パリコレみたいな編集部のヘルプになって地獄。自分磨きの習い事も出来ないし、編集部の人宇宙人みたいだし。麻美〜、今度ランチしよう。」
麻美に嘆く紗夜子。
「分かった、分かった、彼今帰って来ちゃった。またLINEする。ごめん。」
同棲してる同じ不動産総務の崇29歳が帰宅し、LINEが終了する。
朝早く出社し、TOIECとワインエキスパート教則本と野菜ソムリエの本を読む紗夜子。
一足早く今日子がやって来る。
「おはようございます。」
TOIEC、野菜ソムリエ、ワインエキスパートの本を隠す紗夜子。
「おはよう。あんた今何か隠したわねぇ。本だった。」
紗夜子のデスクに近づく、今日子。
TOIECとワインエキスパートと野菜ソムリエの本を手に取ってパラパラめくる。
「伊東、0時半ランチね。」
午前中のデスクワークに黙々と取り組む編集部。
時折り、今日子の怒号が響く。
恐る恐る仕事に取り組む紗夜子。
昼休憩
今日子が紗夜子のデスクに来る。
今日子行きつけのカフェに連れて行かれる。
カフェ ラ・パレス
ロシア料理の変わったカフェだ。
ボルシチセットを頼む今日子。
「あんた、朝の本見せて。」
高圧的なギャルソン女今日子。
「は、はい。」
サマンサのカバンから恐る恐るテキストを取り出す紗夜子。
TOIEC、野菜ソムリエ、ワインエキスパート教則本。
「もしかして、あんた自分磨き系?」
紗夜子に尋ねるギャルソン女今日子。
「いや、ちょっと失恋しちゃって。
リスタートしようかなって。」
ボソボソ答える紗夜子。
爆笑する今日子。
「自分磨いて、新しい自分、新しい恋、新しいステージ。んなもんあるか。」
冷たい口調の今日子。
「TOIECと野菜ソムリエとワインエキスパート以外にエステにネイルに忙しいです。」
ハッキリ言う紗夜子。
「あんたそんな箸にも棒にも引っかからない資格取ってどうすんの?自分磨きっつーか、自己満じゃない?」
厳しい口調の今日子。
「いや、生まれ変わりたいんです。」
オドオドした口調の紗夜子。
「失恋かなんか?つーかさぁ、男に媚びてどうすんの?」
ピロシキを食べる今日子。
「男に媚びてなんか。」
ボルシチを飲む紗夜子。
「分かった、分かった。復縁か?それとも新しい恋人ゲット?あんた浅はかね。男は追うもんじゃない、追わせるものよ。」
キッパリとした口調の今日子。
「自信ないんです。」
アイスティーを飲む紗夜子。
「私ならねぇ、そんなつまんねー自分磨きとかやらないで、ロスでも行くわ。その辺の雑魚みたいな男捕まえて幸せごっこするなら独りのがせいせいする。」
アイスコーヒーを飲む今日子。
「そんな思い切ったこと。」
小さな声の紗夜子。
「甘い。甘ちゃんね。他人と過去は変えられない。大胆な挑戦ぐらい何さ。
男に頼らないで自分で立つことね。」
紗夜子をじっと見つめる今日子。
「出来るかなぁ。私平凡だし。」
下を向く今日子。
「あんた言い訳、言い訳。天才なんて人口の1%。私だって平凡。ただ、闘ってきたわ。」
ピロシキを食べる今日子。
「早瀬さんは全然平凡じゃないですよ。自己主張スゴいし、ファッションも個性的だし。」
アイスティーを飲む紗夜子。
「傷ついて、ボロボロになって、それでも立ち上がって今のポジション獲得したの。若いとき、失恋だってたくさんしたさ。でも、終わったら過去。人生過去に振り回されてたら時間の無駄。
ギャルソン着てるのは男に媚びない、我が道を行く、戦略的な川久保玲の理念に共感したから。」
おかわりしたアイスコーヒーを飲む今日子。
「早瀬さん、カッコいい。確かにそうですね。小ちゃな自分磨きなんてしても何も変わらない。ヘルプだけど、今の仕事頑張ってみます。」
今日子に頭を下げる紗夜子。
「媚びない、群れない、泣かない。」
マルボロを吸う今日子。
一年後
ニューヨークコレクションの取材に旅立つ今日子と紗夜子。
ロングをボブにバッサリ切り、ステラマッカートニーを着る紗夜子。

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