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歌舞伎町の女王

私、久能茉莉絵40歳は代理店の営業一筋。大きなクライアントに頭を下げて必ず仕事をゲットして来る。
独身のバリキャリだ。
8年彼氏はいない。
秋から営業主任に昇格。
しかし、茉莉絵は今頭を悩ませていることがある。
クリエイティブにデザイナーと転職してきた杉野健吾27歳。
営業が取ってきた仕事を馬鹿にする。
「地味な仕事っすよね。なんか営業って足で稼ぐっつうか。昭和スタイル。」
爆笑する健吾。
「営業舐めると仕事やりにくくなるよ。」
コピーライター松嶋32歳。
派遣の事務や受付、経理を口説く健吾。
社内に噂が広まる。
茉莉絵が打ち合わせに来る。
打ち合わせ中、LINEをする健吾。
「また女。転職して会社名で女が釣れるようになったから?
まぁ、若いしご自由に。
中小の代理店営業からクリエイティブに転職してご自分を天才だとお考えね。」
茉莉絵を睨む健吾。
「元は美大出身だし。俺、スーツってダサくて嫌だんっんすよ。今はホワイトマウンテリアニング着てます。」
コーヒーを飲む健吾。
「スーツを着ているサラリーマンがみんな馬鹿に見えるの?
あなたは神様にでもなったつもりなんだ。クリエイティブって偉いのね。」
冷たい口調の茉莉絵。
「うるせぇ。40代の老害が。」
茉莉絵を挑発する健吾。
「そうね。ジミヘンもジャニスジョップリンもカートコバーンも尾崎豊も27歳で死んだ。
私みたいな老害生きる価値ないのかもね。それに老眼だし。」
冷静に畳み掛ける茉莉絵。
「何がロスジェネだよ。ただのジジババじゃん。氷河期とか被害者ヅラする奴一番嫌いなんだよね。
自己責任じゃん。」
吐き捨てる健吾。
「自己責任ね。一理あるけど。その言葉がどれだけの人を追い詰め、命を奪っているか分かる。その重みが分かって言ってんのかって聞いてんの。」
怒鳴る茉莉絵。
「感情論嫌いなんすけど。綺麗事大嫌いなんすけど。あんたみたいなスーツ人間兵隊だよな。クリエィティビイティゼロ。
安い酒に平凡な女とのちっぽけな幸せにAmazonプライムで充分。そんなクソったれ人生反吐が出るわ。」
ケタケタ笑う健吾。
「今の舐めた口調、クリエイティブの人には言えないでしょ。営業だから下に見てる。まぁ、日本国憲法に思想、信条、言論の自由は認められてるわ。
あなた独りの権限で営業を潰してみたら。私はプライド持って営業やってんの。女がプライド捨てたら終わりよ。」
去っていく茉莉絵。
クリエイティブディレクターやプランナーにペコペコする健吾。
仕事終わり茉莉絵は恵比寿のカラオケ屋で独り椎名林檎の歌舞伎町の女王、丸の内サディスティック、本能を熱唱し、宇多田ヒカルのcolors、エゴラッピンの色彩のブルースをしっとり歌う。
帰りに松屋で牛丼をお持ち帰りする。
独り暮らしの雪が谷大塚のマンションに向かう。

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