ときめき未遂

夢見る少女じゃいられないと彼女は歌った。
自分の世界の主人公になりたかったと彼は歌った。
恋のキューピッドを呼び出す儀式、幻想の降臨、空蝉の世の希望、奇跡。

「奇跡は起こすものなんだ」と椅子を勧めるママに食パンを咥えたまま主張して玄関を開ける女子高生。丸一年、175回のトライ。彼女は奇跡を起こす気でいる。果てしない繰り返しの末に、祈りの末に奇跡はあると信じている。

キューピッドも奇跡を信じる者の味方だ。天上の世界から、交差点のカーブミラーの裏から、コンクリ塀の上から猫の姿を借りて、通行人のふりをして、キューピッドは見ている。

「ときめき未遂」Enbosさんは言った。
奇跡の代償という言葉が脳裏をよぎる。大天使様からの集団レクチャーでもあった話だが、望み薄い奇跡には大きな代償が伴う。チャンスは一度きりとか、何度やっても届かない、理論的には大丈夫とかそういう類だ。

OJT(On the Job Training)というやつで今日はEnbosさんと地上に降りてきたわけだ。先輩はちゃんと教育になりそうな仕事を一つ俺のために残しておいたという事らしい。
先輩の筋骨隆々な顕現の姿は堂々としていて、目立ちやしないかと少しひやひやもするがなんだか頼れる先輩感がある。

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