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#推し短歌 「命燃やして」

(タイトルを変更して再掲しました)

先人の
偉業を越えて
はるかなる
新たな道へ
命燃やして

私の愛する推し──堂本光一さんが、人生の半分以上の時をかけて作り上げた舞台の幕を引くことを発表しました。
永遠に続くものなど、この世にはなく、いつかは終わりが来るとわかってはいましたが。
胸にぽっかりと穴が空いたようです。
彼を知らない人から見れば、彼はすべてを持っていて、順風満帆の人生のように見えるかもしれません。
でも、決してそうではありません。
あまり裏話をするのを好まない彼ですが、帝国劇場という伝統と格式のある舞台に、アイドルという肩書きを持つ彼が、史上最年少座長として立つことには、当然ながら批判も多かったし、心ない言葉もたくさん浴びたそうです。
そんな批判を、少しずつ跳ね返し、確たる実績に変えてきたのは、彼の命を削るような努力と、エンターテインメントへの熱い思いでした。
2005年、彼自身が演出を担うようになってからは、より高度なダンスや演出が加わり、年々ブラッシュアップされて、作品としての完成度を高めていきました。
短くて1ヶ月、長い時は2ヶ月の公演期間。1日2公演の日もある。
全2幕、ほぼ出ずっぱり。
激しい殺陣やダンス、大太鼓、階段落ち、何種類ものフライングなど、肉体の限界に挑戦し続けました。
特に、布を巻きつけた腕の力だけで宙を舞うリボンフライングは、最初の頃、筋肉の繊維がブチブチ切れ、腕に触れただけで激痛が走るほど、過酷なものだったそうです。
しかし、周囲に止められても、彼はやめなかった。それは、彼が表現したい世界があったからでした。
死を前にした主人公の、燃えつきようとする命─その儚くも美しい命の輝きを、赤い布のゆらめくフライングで表現したかったのです。
実際、このフライングの彼は、この世のものとは思えないような美しさで、胸を打たれます。
また、中には、危険を伴う場面も多々あり、初日直前のゲネプロで怪我をしてしまったこともありました。
それでも、彼は舞台に立ち続けました。
しかし。
「毎回、舞台に立つのが怖いんです。怖さは消えないです。」(制作発表時の囲み会見で)
今日はやれるだろうか、明日もここに立てるだろうか。
毎日、葛藤しながら、身体がぼろぼろになっても、ステージに立つ。
ステージに立ってしまえば、怖さは消えると言います。
そして、共演者をも圧倒する輝きを放つのです。
そこまで彼を駆り立てるものは、何なのか。
「なぜ走り続けるのか」という、この作品のテーマでもありますが、劇中でも、また彼自身も、明確な答えを示してはいません。
しかし、死を覚悟してもなお、ステージに立ち続ける主人公は、やはり、堂本光一の写し鏡でもあるのでしょう。
「なぜ走り続けるのか」それは「なぜ生きるのか」と同じなのかもしれません。
生きることの意味は何なのか。
答えをあえて示さないことで、観る人それぞれに問いかけています。
彼、堂本光一にとって、生きることの意味は何なのか。
その答えは、彼自身にしかわかりません。
ただ、エンターテインメントの世界に生きる表現者のひとりとして、命を燃やして、限界の先にあるもの──誰も見たことのない、素晴らしい世界を、観客と一緒に、 見たいのかもしれません。
そんな彼の背中を見て、カンパニーは奮い立ち、若い演者たちは成長し、長い公演期間、カンパニーが一丸となって、数々の困難も乗り越えてきました。
そして、東日本大震災やコロナ、舞台装置の事故による休演以外は、一公演も休むことなく、彼は代役なしの座長として舞台に立ち続けました。
2000年から2023年にかけて、現時点で1986公演。
そして、今年の公演中に、森光子さんの単独主演回数の記録、2017回を上回る見込みとなっています。
本当にすごいことです。
ただ、彼自身にとっては、記録はあまり重要ではなく、それよりも、一公演一公演を大切に、お客さんに楽しんでもらうこと、それが何より重要なことで、それがすべてなんだと言います。
そして、森さんの記録を抜こうが、まだまだ森さんには及ばない、と。
彼を取り巻く環境は、大きく変わろうとしていますが、彼は本当に変わりません。
この演目に幕を引くことも、何年か前から考えていたということです。
タイミングを待っていたのでしょうが、前人未到の記録を更新しての幕引きを選んだのは、勝手な憶測ですが、自分のためではなく、これまでこの作品を支えてくださったすべての方々と、彼を育てた帝国劇場への感謝の気持ちからなのでは、と密かに思っています。
これから先、彼のゆく道がどんなものになるのか、今は正直わかりません。
でも、少なくとも、彼は歩みを止めないでしょう。─そうであることを、願っています。
かの森光子さんがおっしゃったように、彼は「みなさんをしあわせにしてさしあげる天使」なのですから。

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