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同じ未来を見つめる伴走者たちの素顔|vol.4

「チャレンジャーがとびきり少ないことこそが魅力なんです」

NCL湖南(滋賀県・湖南市)/タピオカ研究所プロジェクト パートナー中野龍馬さん(ジャパニーズ株式会社代表取締役)

《PROFILE》
Ryouma Nakano●1987年福岡県生まれ。小学1年生の時から滋賀県湖南市に移り住む。学校卒業後、大津市にある水道専門の設計事務所に就職。2010年にWEBクリエイターとして独立し、湖南市を中心にホームページ制作事業を開始。2014年に株式会社ジャパニーズを設立。法人化にあたり事務所を兼ねたコワーキンググペース「今プラス」をオープンする。湖南市の編集長として、湖南市の生活に密着したニュースを毎日紹介する地域情報サイト『日刊!湖南市』を運営。外国人支援などを行う湖南市国際協会に10年ほど前から参加。独学で習得したポルトガル語・英語・中国語を活かし、外国人へのボランティア活動を続けている。

外国人が多く住む湖南の現状

NCL湖南のプロジェクトの1つに「タピオカ研究所」なるものがあります。タピオカの成分を調べたり、その活用法を考えたり…。いったいどんな研究をしていくの?と思わず質問攻めにしたくなるような、興味をそそられるプロジェクト名ではありますが、その背景には湖南で暮らす外国人の生活支援につなげたいという狙いがあるんだそうです。

このプロジェクトを牽引していくラボメンバーの登場を誰よりも待ち望んでいる人のひとり、中野龍馬さん。彼は、滋賀県湖南市でWEBクリエイターとして活躍しながら、JR甲西駅前にあるコワーキンググペース「今プラス」の運営もされています。この今プラスはNCL湖南事務局の拠点でもあり、中野さんはNCLのコーディネーターからも慕われる頼もしい存在。また、地域情報サイト『日刊!湖南市』の編集長を務める彼は、湖南の未来像を描いていくうえでキーパーソンになることは間違いなさそうです。

滋賀県の中でも、人口に占める外国人の割合が最も多い湖南市。市民の約21人に1人が外国人という状況にあります。ブラジル、ペルー、東アジアからの移民が特に多く、2017年末の住民基本台帳人口調査結果(滋賀県商工観光労働部観光交流局調べ)によると、ブラジル人は1,323人。2番目に多いペルー人の348人と比べても圧倒的な多さを占めています。湖南は、京阪神・中京および北陸の経済圏の要衝に位置する好立地条件を活かし、近年においては工業を中心に発展。県内有数の工業団地の造成と外国人の増加が密接に関係しているのだとか。

「湖南市は高度成長期において工場誘致が進み、その絡みで工業団地もできました。雇用面では、外国人労働者を受け入れる街にしましょうとなりまして。その結果、ブラジル人が増えていったんですけど、彼らの生活を誰がサポートするのかというところは、未だにしっかり整備されていないんですよね」

中野さんがそう語るように、ここにタピオカ研究所プロジェクトの発端となる課題が顕在しています。言語や文化・慣習の違いから生活や教育・労働現場で生じる数々の軋轢や不安…。湖南市が多文化共生の社会を目指して歩んでいくなかで、避けては通れない問題がたくさんあるようです。

分断された世界をひとつにしたい

「小学校や中学校に行ったら、1クラスに1人はブラジル人がいるような環境で育ってきたんですよ。僕自身はブラジル人にすごく馴染みがあったので、この人たちが困っていることを手伝えたらいいなと思うようになりまして。10年ほど前から湖南市国際協会という外国人支援団体でボランティア活動を続けています」

モチベーションを保ちながら、ボランティアを継続していくのは難しいこと。そんな状況で、中野さんが長年ボランティアを続けられている原動力はどこにあるのでしょうか?

「単純に楽しいんですよ。あと、僕は外国語を勉強するのがすごく好きで、英語と中国語、ポルトガルを勉強しています。湖南市国際協会には外国語を話せる環境が普通にあるので、それが大きいかもしれませんね」

ブラジル料理の飲食店やブラジルの商品が並ぶスーパーなども多い湖南市。年に1回、湖南市国際協会主催の「ワールドフェスタこなん」という多文化交流イベントもあり、国際交流が進んでいる印象を受けます。しかしながら、自国のコミュニティだけで完結している人も多く、多文化共生社会への道のりはまだまだこれからのようです。

「湖南に住む日本人にとっては、ブラジル人のコミュニティは分断された世界だと思われている。スーパーへ行っても、道を歩いていてもブラジル人はいるけど、自分とは関係ない人たちといった感じで。ブラジルの公用語はポルトガル語なんですけど、それすらも知っている市民はほとんどいないのではないでしょうか」

タピオカに秘められた可能性

中野さんが運営するコワーキングスペース・今プラスは2017年10月に移転し、現在では甲西駅前という好立地にありますが、もともとは最寄り駅から徒歩約40分という岩根にある古民家からスタートしたんだそう。2014年のオープン当初は利用客も少なく、認知度を上げるためにSNSや『日刊!湖南市』を使って、毎日欠かさず情報発信するなど、たゆまぬ努力を続けたといいます。

「NCL湖南が立ち上がる前に本部の人たちが湖南市を視察に訪れたんです。今プラスが古民家でやっていた時に僕の所にも来てくれまして。今回こういう取り組みを湖南市から委託を受けてやりますという話をお聞きした時に、『チャレンジャーがそもそもいない街なので、そういう人が増えるのであれば全面的に協力します』と言いました」

実際に、中野さんがNCL湖南のパートナーとして参加するようになったのは、2018年4月ごろ。ボランティアで外国人の生活支援を続けるなかで、行き詰まりを感じていたところだったといいます。

「ボランティアなので他の人に続けることを強制できないし、外国人支援をビジネス的にまわせる仕組みを作りたいなと思っていたんです。ちょうどそのタイミングで、NCL湖南にコーディネーターとして長砂さんと光田さんが着任されて。プロジェクトを考えている時に、外国人の生活支援を一緒にできて、ビジネスとして続けていけるメンバーに来てほしいと伝えました」

話し合いの末、外国人支援の課題にプラスアルファ含めて、食というアプローチでプロジェクトを作ろうということに。後日、長砂さんから「タピオカってどう思います?」と尋ねられたんだそうです。

「タピオカという発想が僕にはなかったので、『なるほど!』と思いましたね。ブラジルとか中南米では、キャッサバというイモの一種が主食として食べられているんですけど、タピオカはそのキャッサバが原料でして。楽しくて、エンタテイメント性があるタピオカという食材を使いつつ、裏テーマとして外国人支援にもつながる形で、長砂さんが考えてくれました」

「これや!」と意気投合して、タピオカ研究所プロジェクトは誕生。その第一歩であり、湖南の人たちへのPRも兼ねて、湖南市最大の夏祭りへの出店を思いついたんだそう。

「夏祭りで行列を作れば、地域の人たちから注目されるのではないかと思いまして(笑)。手作りタピオカミルクティーを販売することにしたんです。何かしら実績があるほうが、これから迎えるラボメンバーもいろいろはじめやすいだろうという気持ちもありましたし」

しかし、中野さんもNCL湖南のコーディネーターも、タピオカを手作りするのは未知なる挑戦。海外から配信されたタピオカパールの作り方を紹介する動画などを参考に、試行錯誤しながら試作したんだとか。そして、見事にモチモチ食感のタピオカパールが完成。夏祭り当日は262杯を売り上げ、行列ができる大成功に終わったといいます。

求めるのは面白くて、継続的にできること

「興味を持って、楽しく参加してもらえるラボメンバーに来てもらいたい」と話す中野さん。プロジェクトの具体的な内容は決まっておらず、新たに参加する人の発想しだいなんだとか。タピオカをきっかけとする新規ビジネスの可能性は多彩に広がっています。

「外国人の生活支援につながることを堅苦しくやるのではなく、その前段階としてタピオカといった食でつなぐアイデアはすごくいいなと思っています。ただ、パートナーとしての僕の思いとしては、プロジェクトの最終的な結果のひとつとして、外国人支援を面白く、継続的に実現していきたいので。だから、タピオカでもいいし、たとえ違うカタチになったとしても応援するつもりです」

求める人物像をさらに掘り下げて聞いてみると、「できればですけど…」とこんな答えが。

「絶対ではありませんが、ポルトガル語が話せる人だとか、親がブラジル人で生活支援の必要性を理解できる人が来てくれたら、なおいいですね」

面白い人たちでつながっていく地域に

湖南市で学生時代を過ごし、20代前半でUターンをして、結婚や起業などを経験してきた中野さん。湖南市を見続けてきた彼の目にはどう映っているのでしょうか?

「チャレンジャーがとびきり少ない街ですね。そのチャレンジャーが少ないという部分こそが、僕の中では湖南の魅力だと思っているんです。なにか新しいことを始めるにも競合する人が少なかったり、まわりの協力を得やすかったりしますから」

中野さんは、今年5月から『滋賀県Uターン物語』というメディアを新たに立ち上げました。その背景には、湖南が、そして滋賀県全体が盛り上がってほしいという願いが込められているようです。

「僕自身が湖南に戻ってきてから、同年代で面白い取り組みをしている人がまわりにあまりいないなと感じていて。でも、Uターンしている人の中に実はいるんじゃないかなと最近思うようになったんですよ」

1月ごろから取材を続け、滋賀県にUターンした人たちをリレー形式で紹介しているこのサイト。クリエイターやカフェオーナー、職人、議員などさまざまな職業の人たちが登場します。こちらをはじめて、 うれしい発見があったといいます。

「Uターンで面白い人は、同じUターンで面白い人を知っていると思いまして。このサイトの特徴として、取材をした人に、次に取材できるUターン者を紹介してもらっているんです。実際に会ってみると、本当に面白い人たちがいっぱいで。むしろ取材が追いついていけないほどです」

そう語りながら、ワクワクした表情を見せる中野さん。次々とアイデアをカタチにしていく彼のもとにも、きっと面白い人が集まってきているに違いありません。日本人と外国人がともに笑顔で暮らせる街が実現する日まで、中野さんのチャレンジは続いていくことでしょう。

http://project.nextcommonslab.jp/project/tapioca-lab/


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