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先人が築いてきた伝統を守りたい!「茶産地再興」プロジェクト始動

道を歩いていると、誰かがお茶の葉を焙じているのだろう、よい香りが風にのって運ばれてきた。ここは石川県加賀市打越地区。お茶の産地と言えば静岡だと誰もが思うかもしれないが、加賀市を含む南加賀一体もかつてアメリカに輸出するほど茶栽培が盛んだったという。しかし戦後食料増産の影響で茶畑が水田等に変わり、現在希少な茶産地として残っているのはこの打越地区だけである。「先人たちが築いてきたものを守りたい」と打越の人々はこれまで様々なことに取り組んできたが、今回全国から起業家を募集し、産地からあたらしい茶文化創造に挑戦する。それがNext Commons Lab加賀の「茶産地再興」プロジェクトである。

消えゆく芽、新しい芽

このプロジェクトでは、パートナーとして打越製茶農業協同組合の方が事業に必要な知識や技術を提供してくれる。Next Commons Lab加賀ラボメンバーとして採用された起業家は、組合と連携して既存商品の販路拡大に取り組む一方で、新商品開発も含めた「お茶」の新たな楽しみ方を創造・発信することがミッションとなる。産地や製法、淹れ方や飲み方へのこだわりをもった茶葉からどんな新しい茶文化を創造できるか、地元の風土や歴史を丁寧に解釈しながら問い続ける姿勢が求められる。組合長の吉田和雄さんが加賀茶栽培の歴史を教えてくれた。

「南加賀の茶栽培の歴史は、加賀藩三代藩主前田利常が小松に隠居した1639年に始まったんや。打越地区は柴山潟・今江潟から東方に見上げる丘陵地にあって、潟から立ち上がる朝霧が茶の新芽を伸ばすと言われて、その立地を生かして茶栽培が定着したんやね。大正8年には製茶組合が設立されて、昭和初期に『加賀茶』として市場出荷されるまでに発展。戦後、打越でも茶畑が水田に変わり栽培面積が激減したんやけど、茶栽培に適した立地条件と伝統を守るために、平成14年と22年に3ヘクタールの新茶園を造成したんやね。今は6か所の茶畑で「ヤブキタ」と「オクヒカリ」の2品種を栽培しとるよ」

新たな茶園を造成して茶栽培の存続に成功した打越の人たち。彼らの挑戦はそれだけではない。平成21年には茶小売店が加盟する石川県茶商工業協同組合と共に「茶レンジの会」を立ち上げ、新規事業として「加賀の紅茶」生産に着手している。

打越製茶農業協同組合長の吉田さん

共同管理・オーガニック和紅茶で付加価値を

「茶葉は状態を見て二番茶・三番茶まで摘み取るんやけど、緑茶やと安いので付加価値の高い紅茶に切り替えたんや。静岡県の丸子紅茶で5年間加工作業工程の経験を積んで、組合で紅茶生産機器も導入したんやわ。今は一番茶も少しだけ紅茶にしとるね」

北陸三県で唯一、生産・加工・販売の六次産業化に取り組んでいる打越地区は、「和紅茶」というこれまでにない新たなジャンルの製品を生みだしたのだ。その味わいは海外産の茶葉と比べるとほんのり甘みが感じられ、砂糖やミルクを入れない緑茶文化が根付いている日本人にはピッタリな口当たりである。吉田さんが組合長になってからは、できるだけ病虫害防除を行わず無農薬・有機肥料で栽培している。そうしたこだわりも味わいを深めている一つの要因なのかもしれない。

「除草は各個人でしとるけど皆で同じ基準を設けたり、茶葉の刈取り・剪定・肥料撒布を組合で行うなど、共同管理することでバラバラだった茶葉の品質向上・均一化につなげとるんや。時には農家だけでなく周辺住民総出で作業をすることもあるんよ」

2013年には「豊かなむらづくり表彰事業」で北陸農政局長賞を受賞。現在、緑茶と紅茶はJAや一部の店舗に卸す以外はリクエストに応じて販売しているだけだが、消費者から美味しかったという声が届いたり、東京・自由が丘の紅茶専門店から取引を打診されるなど反応は非常によく、商品として大きな可能性を秘めている。しかしそういった販路拡大のチャンスをこれまで逃してきてしまったのには大きな理由があった。

うちらは井の中の蛙、新しい視点がほしい!

「現在組合員は95名、そのうち中心で動いている役員は15人ほどで、皆農業をしながら兼業でお茶(栽培)をやってるんや。だから販売部分までは手がまわらんのが現状。この間京都の和束の取り組みをテレビで見たけれど婦人会の人が茶殻を使った商品開発などもいろいろしてて。でも今うちらは手のかかることはできんのや。昔はしてたけど……。ラボメンバー(起業家)には打越のお茶を使って、付加価値がさらに高まるような取り組みや販路拡大につながることをしてほしいね。地元の人にはない外からの新しい視点は組合にとってもいい刺激になると思うんや」

ここ数年、紅茶に力を注ぐ飲料メーカーやコーヒーチェーンが増えているが、その背景には潜在的な紅茶需要があると言われている。このプロジェクトではそういった既存の需要も満たしつつ、新たな需要を作り出すこともミッションになる。地元における紅茶・緑茶消費量の拡大、アジアをはじめとした海外との茶文化・技術交流、ティーツーリズムなど、打越が茶の産地・文化の振興地として認知されるための方法はたくさんあるだろう。「今後北陸新幹線が通るから、お土産として商品開発したりECでの販売などもやっていきたい」吉田さんはそんな想いも持っている。「お茶」を使ったビジネスをしてみたい、自分が茶葉を扱うことで産地の生産拡大にも貢献したい、そんな人にはぜひ応募してほしいプロジェクトだ。打越の人たちがきっと温かく迎えてくれるにちがいない。

茶産地再興プロジェクトについて


【説明会】
第4回 : 2017年6月18日(日)14:00〜16:00 (東京) FabCafe MTRL (ファブカフェマテリアル)東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピア2F 
第5回 : 2017年6月19日(月)19:30〜21:30 (大阪) ハローライフ大阪 大阪府大阪市西区靭本町1-16-14
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