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同じ未来を見つめる伴走者たちの素顔|vol.1

Next Commons Lab(以降、NCL)のプロジェクトには、共通ビジョンを有し、伴走するパートナーやコーディネーターが存在します。自治体や企業であったり、すでに地域の活性化を担っている一個人であったり。それは、プロジェクトの実現に向けてノウハウや人脈を惜しみなく共有し、ともに切磋琢磨していく関係性。ラボメンバー(起業家)にとって心強い味方となる人々の素顔に迫ります。彼らが描く未来像に向かって、あなたも一緒に走り出してみませんか?

「千年続く伝統を僕らの代で絶やすわけにはいかない」

NCL南相馬(福島県・南相馬市)/Horse Sharingプロジェクト
パートナー
山下敏義さん(株式会社Grune 代表取締役)

PROFILE
Toshichika Yamashita●1981年福島県生まれ。工学部建築学科を卒業後、スイスのソフトウェア開発会社やドイツにおいてソフトウェア開発にあたる。2013年、独立起業。福島県南相馬市および宮城県仙台市においてソフトウェア開発事業を立ち上げるとともに、インドネシアにも拠点を開設。エンジニアの育成に取り組んでいる。「ふくしまベンチャーアワード2016」において『シェア馬』で東邦銀行賞を受賞

南相馬が誇れるのは伝統ある馬事文化

福島県の北東部に位置する南相馬市は、東部は太平洋に面し、西部には阿武隈山地がそびえます。夏は海から吹く「やませ」の影響で比較的涼しく、冬は降雪が少ないのが特徴。暮らしやすい穏やかな気候に恵まれているだけでなく、仙台市まで車で約1時間強と好立地なのも魅力です。

そんな南相馬市は、2011年の東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故により、大きな被害を受けました。「原町区」「小高区」「鹿島区」の3つの区からなる南相馬市の中でも、原発20km圏内にあった小高区は全域が避難指示区域となり、一時期はゴーストタウンと化すほどに。2016年7月に避難指示が解除されたものの、解除から1年で小高区に帰還した住民はおよそ2000人。かつて1万2000人いた住民の多くはいまだに戻ってこないのが現状です。

NCL南相馬が提唱する『予測不能な未来を楽しもう』というコンセプトのもとで進行中のプロジェクトの1つに、ホースシェアリングがあります。主なビジネスモデルとしては、複数の牧場を統括し、乗馬サービスの情報発信や予約、決済業務などを代行することで、利用者と牧場をつなげる役割を果たすというもの。

このプロジェクトのパートナーとなるのが、ご自身でソフトウェア開発会社・株式会社Gruneを経営されている山下敏義さん。伝統的な祭事である「相馬野馬追(そうまのまおい)」の存続をかけて、地域で繋養されている馬を共有する『シェア馬』というサービスを展開しています。

「2016年3月に小高ハッカソンというITイベントにエンジニアとして参加したのが、最初のきっかけでした。数か月後には南相馬市小高区を中心とする地域の避難指示が解除されて、再び住める街になるというけれど、帰還後の生活支援として何ができるのか?と真剣に考えたときに、僕らがここで誇れるのは“野馬追”だと思ったんです」

大学進学で上京するまで南相馬市原町区で育った山下さん。地元は原発事故でマイナス因子を抱えてしまいましたが、色濃く残る馬事文化は地域活性の大きな強みとなると思ったといいます。

「もともと野馬追に出る馬を有効活用する『シェア馬』という発想を提示していたのは、小高ハッカソンの運営側だったんです。そのアイデアの種に興味を持って、南相馬の地域資源からして実現の可能性があると感じてチームに参加しまして。事業化を進めてきました」

乗馬サービスに最適な環境がここにある

南相馬市を中心とした地域には、戦国時代のその昔から千年以上にわたって続く伝統的な神事「相馬野馬追(そうまのまおい)」が継承されてきました。400頭を超える馬が集結し、毎年7月下旬に開催される騎馬武者をメインとした祭祀で、国の重要無形民俗文化財に指定されているほど。追い込んだ馬を捕まえて奉納する「野馬懸」、甲冑姿で駿馬にまたがって競走する「甲冑競馬」、空から降ってくる神旗を奪い合う「神旗争奪戦」、街を騎馬武者が行進する「お行列」など見どころある神事が繰り広げられ、世界最大級の馬の祭典といわれています。

「南相馬のアドバンテージとして、乗馬ができる山やビーチが続く海がすぐ近くにある。しかも、近くで馬がこれだけたくさん飼育されていて、千年以上続く野馬追という祭礼があるって、世界的にみても稀な地域ではないでしょうか。ビーチで乗馬ができるというだけでも貴重なんですよね」

乗馬は、ヨーロッパでは歴史的に貴族のスポーツであり富裕層のスポーツ。ドイツやスイス周辺に住むアッパークラスの人たちが何十頭もの馬を連れて、スペインのビーチまで移動して乗馬を楽しむのを山下さんは目の当りにしたといいます。

「南相馬で馬事を続ける若者が減っていくなかで、千年以上続く伝統文化を僕らの代で絶やすわけにはいかないんです。それは、恥ずかしいことというか、あってはならないことですから」

現在でも南相馬市内には150頭前後の馬が厩舎や自宅の敷地内で飼育されています。しかし、これまで年に一度の野馬追期間しか稼働していない馬がほとんどで、飼育にかかる時間やコストが所有者の大きな負担となっています。馬主や牧場運営者の高齢化・後継者不足といった深刻な問題にも直面しているんだそう。

山下さんの『シェア馬』が軌道に乗れば、遊休資源と考えられる馬たちを活用した新たな経済活動が生まれます。それは馬の飼育コストとして地域に還元され、結果的には馬事文化の持続へつながっていくのです。

「相馬野馬追に出る騎馬武者は400~450騎ぐらいいます。馬は足りないから半分ほどは他から借りてきますが、乗っている人たちというのは基本的には地元の人たち。小さな町に数百人規模で馬に乗れる人たちが集結しているところなんてそうないんですよね」

乗馬サービスには馬やフィールドだけでなく、優れた指導者も必要。乗馬初心者は落馬のリスクも高いため、ひとりに一人ずつインストラクターが求められます。リーズナブルでも質の高いサービスを提供するために目をつけたのが、野馬追経験のあるシルバー人材でした。

「仕事を引退した年配者たちで馬に乗れる人は地域にたくさんいます。この方々にとっても、若い人たちに地元の誇りである馬乗りを教えるということは、ものすごく生きがいになるはずなんです」

「乗馬サービスを提供するには日本一、いや世界で一番環境が整っている地域だと思うんですよね」と山下さんは目を輝かせます。

「さらにプラスアルファするとしたら、野馬追で使われているような鎧の甲冑と古式の馬具で乗れるんですよ。これも南相馬ならではのこと。馬装と呼ばれる馬の着付けのようなものも普通の乗馬とは違っていて。受け継ぐべき伝統を体験してもらいたいですね」

そんな南相馬の強みとなる地域資源の可能性は、地元出身者であり、グローバルに活躍してきた山下さんだからこそ気づけたのではないでしょうか。

一番の地域貢献は野馬追に出ること

「『シェア馬』のサービスは企業の乗馬部みたいなお客様とすごく相性がいいと思っているんです」と語る山下さん。予約を組みやすく、収益も安定して見通しやすいなど運営していくうえでメリットも多いことから、地元企業や南相馬に拠点を持つ企業をメインターゲットに見据えています。

「ただ乗るだけでなく、馬のお世話や馬具の手入れをすることも含めて乗馬なんです。初心者には、乗り方はもちろん、鞍の付け方、騎乗時に足を乗せる鐙(あぶみ)のセット方法といった馬装の準備についても最初にレクチャーしますが、毎回となると大変なこと。それを企業の乗馬部として定期的に利用してもらえると、乗馬部内で覚えた経験者が、新しく来た初心者に教えてあげるといった好循環ができるのもいいですよね」

ありそうで、なかなかない企業の乗馬部。企業の福利厚生で乗馬が日常的に体験できるというのは、採用活動のアピールポイントにできそうなほど魅力的です。また、企業の地域貢献ということが叫ばれるなかで、乗馬部として『シェア馬』サービスを利用してくれることは南相馬の発展につながると考えています。

「僕らの地域で一番の地域貢献といったら、野馬追に出る若者を企業から輩出することだと思っているんですよ。野馬追の参加人口が増えて祭礼が盛り上がることは、南相馬の発展につながり、結果として地域企業にも還っていきますから」

波も馬も通じるものがある

日焼けした肌が印象的な山下さんの趣味はサーフィン。年間200日ほどは海に入っているというほど、彼のライフスタイルの一部になっています。そんな山下さんは『シェア馬』を始めるまで馬に乗ったこともなかったそうですが、地道な練習の甲斐あって、平成30年度の神旗争奪戦でご神旗を獲得するほどまでに上達。波も馬も通じるものがあると語ります。

「面白いことに、やってみると乗馬はサーフィンに近いところがあるんですよね。体幹的なバランスが必要なのも同じですけど。サーフィンは結局、波がないと何もできない。自分であちらへ行きたいと思っても波が押してくれないと、自分が思った通りに動かせないんですよ。要するに馬も一緒。自分の意思をおしつけても思い通りにはなりませんから」

月に数回はインドネシアにあるオフィスと日本とを行き来して仕事をこなす山下さんにとって、安定的にサービスを提供していくためにプロジェクトメンバーを見つけることは急務となっています。しかし、すでにプロジェクトの方向性は明確で、起業精神やアイデアがあふれる人には、チャンスが少ないと思われるのではないでしょうか?

「誰もやったことがないビジネスなので参考案件もありません。だから、自分で新たなビジネスを生み出していくという気概がある人がいいですよね。インバウンドの可能性ひとつ考えてみても、ものすごいチャンスがあるわけですから。自分で考えて動ける人に参加してほしいですね」

馬を主軸に多彩な可能性を秘めた南相馬でのホースビジネス。ラボメンバーが新ビジネスに挑戦するチャンスやリソースにはとても恵まれているようです。

予測不能な未来において、馬と人が共存する楽園のようなコミュニティを目指す山下さんとともに、あなたも一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

■本プロジェクトへの応募詳細はこちら⇒
https://nextcommonslab.snar.jp/jobboard/detail.aspx?id=WKswg8Jq5c4

<編集後記>

せっかくいただいたので↓↓↓↓↓おまけの画像。この画像はスノーボードを楽しむ山下さん。背景は福島県南相馬ではありません。このインタビューまで南相馬に雪が積もることがない。ということは知りませんでした。


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