料理人1

会いに行く料理人

「たとえば公民館が毎週食卓に。暮らす人に会いにいく料理人」

NCL奥大和の舞台である奈良県宇陀市は、奈良県北東部に広がる大和高原の玄関口に位置します。奥大和と呼ばれるこのエリア一帯は、標高およそ300m〜600mの冷涼な気候と寒暖差を活かした米や野菜づくりが行われ、有機農業も盛んな地域です。

NCL奥大和のミッションは、「生命を支え暮らしをつくる食、その根源的な可能性を追求し未来の食のスタンダードをつくる」こと。奥大和が持つ自然の豊かさを活かし、そこに暮らす人たちとともに“食”にまつわるプロジェクトがはじまりつつあります。そのひとつの“会いに行く料理人/みんなの食卓”というプロジェクトでは、現在ともに実現を目指す仲間を募集しています。今回は、NCL奥大和事務局のメンバーであり、このプロジェクトのアドバイザーの生田優希さんにお話を聞きました。

●プロフィール
生田優希(Next Commons Lab奥大和事務局)
大阪府(高槻市)出身。2014年ロート製薬入社。東京で法人営業業務にあたる。27歳で癌になったことをきっかけに働き方や健康の要でもある食事の大切さを再考。企業に属しながら新しい働き方に挑戦し体現したいとNext Commons Lab奥大和の事務局メンバーとして社内公募でジョイン。奈良ではイベントの企画運営実行や広報を担当。

“人を良くする食”ってなんだろう?

“会いに行く料理人/みんなの食卓”は、食事の偏りや孤食などの課題を解決するために生まれたプロジェクト。その名の通り、料理を提供するだけではなく、コミュニティを形成する役割も担います。

「高齢者が、近くのコンビニやスーパーで賞味期限間近で安くなった惣菜やパンをとまとめ買いしている光景をよく目にします。誰かと食をともにしたり、健康的な食を口にする機会が少ないのではと感じます。“人を良く”すると書いて“食”という字は成り立っている。けれど、今、“人を良く”する食生活がなされているのだろうかと疑問に思ったことが、このプロジェクトのはじまりです。」

また、宇陀には飲食店がそれほど多くなく、お店まで出かけるにはバスや車が必要になるので、外食する機会も少なく、近隣に暮らす人たちが食事をともにできる場がなかなか生まれないという現状もあります。“会いに行く料理人/みんなの食卓”は、そういった課題を解決するために、みんなで一つの食卓を囲んで健康な食事ともにできる場をつくろうというもの。

近頃は、高齢者向けの配食を提供する民間事業や行政サービスが増えているものの、食事を通じてその地域らしさを活かした、人と人との関係づくりを支援することまではアプローチできていません。 だから、“会いに行く料理人”の仕事は、その地域に暮らす人たちとの関係づくりからはじまります。例えば、キッチンが併設されている公民館などを活用して温かい料理を提供し、食卓を囲むことで会話が生まれる。地域のあちこちで屋台出店をして顔見知りやファンをつくってから、実店舗を構える。そうやって新たなコミュニティをつくっていくことがミッション。

「みんなで食卓を囲むことで、さみしさがなくなる。独居高齢者の方が歩いて足を運べる場があれば、外出の機会も増える。単なる配食サービス事業では成しえない、人としての根本的な幸せにアプローチできる事業にしたいんです。」

目指すのは、家族のような関係づくり

では、 “会いに行く料理人/みんなの食卓”プロジェクトにはどのような人材を期待しているのでしょうか。

「人とのコミュニケーションが楽しいと感じる人に向いていると思います。宇陀の中でも、地域性はそれぞれ。地域の人たちが抱えている課題や求められていることをくみ取って、それを場づくりに活かせるといいですよね。“料理人”と名付けているものの、正直に言うと、腕に自信がなくてもかまわないと思っています。もちろん、食に対する興味は必要だけれど、人との関わりを積極的につくれることが何よりも大切です。」

あえてカフェやパン屋といった固定のお店ではなく、“会いに行く料理人”と流動的な存在を想定したのは、”まちのリビング”のような場をつくってくれる人材が必要だから。ごはんをつくって、食卓を囲む。それはまるで、家族のような関係づくりなのです。

からだにいい食材をつくってきた土壌がある

宇陀市は、有機農業を行う農家が多いことも特徴のひとつ。中山間地域のため、耕作に向いている平地が数少ないことから、昔から山間での農業に知恵をしぼってきました。

「開拓者精神が強い農家さんが多いなと思います。個人の農家さんが化学肥料を使わない野菜づくりに挑戦したり、有機JAS規格の認証を取得している方もたくさんいるんです。また、宇陀川の源流地域であることから“他の町へと流れていく水だから大事にしなくては”と、自然にやさしい農法を取り入れている農家さんもいます。からだにいい食材とはなにかを考えている人にはとても魅力的な地域だと思います。」

そういった背景があるからでしょうか。何かを成し遂げようという強い意思や熱い想いを持った人をサポートしてくれたり、移住などで外部から来た人ともいい関係が生まれていく土壌があるのだと言います。

一人で来たけれど、ひとりじゃない

3年の試行錯誤のあとに、お店を開くのもよし、ケータリングの地域を広げて事業を拡大させるのもよし。興味のあることにとことん向き合い、次のアクションへと繋げる3年間にしてほしいと生田さんは言葉を続けます。

「挑戦しなければ、成功も失敗もありません。だから、どんなに小さなことでも恐れずに、堂々とトライ&エラーを繰り返していける人に向いていると思います。失敗したって、それすらも楽しめるよう私たちがサポートします。」

そう語る生田さんは、今、宇陀に暮らしていてどんなことを感じているのでしょうか。

「東京から、誰も知り合いがいない場所へ移住したけれど、今では地域の人たちみんなが家族のような存在。20代で癌になって以来、いい食とは何なのかをずっと考えてきました。そして今、日々、食と向き合える環境に身を置きながら、生産者さんたちとお話をする中で、コミュニティの中で人が生きていくってこういうことなんだなぁって、生まれてはじめて実感しています。一人で来たけれど、ひとりじゃないな、って。NCLのスタッフやラボの仲間もいます。だから、安心して移住してほしいです。」

NCLが考えるプロジェクトに、“正解”はありません。“会いに行く料理人/みんなの食卓”も、携わる人の考え方ややり方によって、未来は変化していく。そんな未来をともに見つめ、築いていける仲間をお待ちしています。

本プロジェクトへの応募詳細はこちら⇒

http://project.nextcommonslab.jp/project/local-dining/


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