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限界集落”だからこそ可能な、 コミュニティの未来像を描く

(文=薮下佳代/ライター)

“限界”からはじまる、未来への挑戦

その昔、遠野から沿岸部の大槌や釜石まで米を運んだことから、「米通」と名づけられた土淵町(つちぶちまち)米通(こめどおり)地区。関所がある峠を避け、闇米を運ぶ裏道として使われていたそうだが、いまは静かな山あいの小さな小さな里だ。

遠野の中心部から北東に車で約30分。民家が建ち並ぶ集落を過ぎ、山のなかへと細い道を入って行く。この先に集落はあるのだろうか?と少し不安になり始めた頃、急に目の前が開け、集落が突如現れた。米通地区の世帯数はわずか7世帯。人口21人、しかも平均年齢70歳という、いわゆる“限界集落”と呼ばれる場所だ。

人口流出による“過疎”と、住民の“高齢化”という回避しようがない社会問題に直面している米通地区だが、その現実になすすべもなく、ただ立ち尽くしているわけではなかった。

2012年から、住民自ら「何かやりたい」と立ち上がり、みんなで知恵を出し合いながら、自然エネルギーの開発や農業の6次産業化など、数々のプロジェクトをスタート。地域の未来をかけたチャレンジが始まっているのだという。

米通地区のこうした動きは、被災地支援団体「遠野まごころネット」の多田一彦さんとの出会いが大きなきっかけだった。多田さんは今回、Next Commons Labのプロジェクトパートナーであり、米通地区でプロデューサー的な役割を担う重要人物でもある。

助け合いの精神が生きる、新たなコミュニティづくり

いまから4年前、真冬の米通地区を訪れたという多田さんは、住民らと会うため、公民館へと連れてこられた。そこには、住民14人がすでに集まっていた。

「まだみんな揃っていないだろうから、待ちましょうかと言ったら、『もうここに全世帯います』って言うんです(笑)。『動けない人以外はみんな来ている』と。そこでまず、この場所のことが知りたいから、昔話をしてくださいと頼みました。年中行事がいろいろあることや、昭和39年まで水力発電をしていたことを話してくれました。水力発電を復活させて、災害に強い自然エネルギーの活用をはじめてみないかと提案してみたら、すぐさま『やってみたい』と言う。それで、地元の高校生と一緒に水車発電をつくることになったんです」

漠然と「何かやりたい」という思いを抱えていた住民の話を引き出し、多田さんは、そこにヒントを与えた。実際に手足を動かすのは米通の人たちだ。

「主体はあくまでも米通の人。僕から『協力してください』と言ったことは一度もないんです。みんな農業や仕事をしながらですし、いろんな人と交流しながら、ゆっくりやろうと思っていたんですよ。そしたら、『もう歳も取ってるし、悠長なこと言ってられないんだからスピードをあげろ!』とはっぱをかけられましてね(笑)。だから、いろんなアイデアを進めていくマンパワーがいま必要なんです」

なんとも、米通の人らしいエピソードだが、そのバイタリティは一体、どこから来るのだろうか。

「みなさん、とても働き者なんですよ。ゆっくり老後を楽しむという感じではない。いつまでも現役、最期までみんなで助け合う集落なんです」

それは昔から米通に根づいてきたコミュニティのあり方にヒントがある。

「『結いとり』=終わるまで『すける』(助ける)は、米通の精神です。その覚悟が、みんなを前向きにしている。『みんなでやればなんとかなる』という助け合いのシステムが、この米通に昔から根づいてきました。そして、いまはさらにそこへ外の人が入ることで、違うエネルギーと合わさり、新たな化学変化を起こしている。その真っ最中なんです」

遠野市出身の多田さんは、行政書士でありながら、開発のコンサルやリゾート会社を経営するビジネスマン。震災以降はサポートにまわり、「遠野まごころネット」を結成。人と人の関係性を濃密にすることで生まれるコミュニティから、スモールビジネスを起こすことで、地域活性化を促したいと考えている。

そこで、多田さんは自身の人脈を駆使して、外国から人を呼んだり、企業の研修を米通で行ったりと、さまざまな人を米通に連れてくる。人が行き来することで、交流が生まれ、いろんな価値観に触れることで、視野が広がり、考え方が変わるきっかけにもなり得る。米通の人たちも、そして訪れる人たちも、互いに影響を与え合う。そんな広がりのある新たな関係性が米通地区という小さな集落で生まれているのだ。

米通の人たちが持つ、アイデアと実行力を徹底サポート

これまでに実現したのは、水車を使った自然エネルギーの活用、ハーブや野菜など商品価値の高い作物の栽培と商品開発、加工品の販売などだ。

また、住民の足となる高齢者用の電動カートで畑や山道でも走れるように改良を加えた“ローカルモビリティ”の開発にもおじいちゃんたちが意欲的だという。充電も、自然エネルギーを使えば、この場所ですべてまかなうことができる。

この土地で採れた山菜や農作物を使い、ここでしか食べられない郷土食を出す食堂も準備中だ。作り手はもちろん、おばあちゃんたち。ここで採れたものだけでおもてなしするのが理想だ。いずれは宿泊施設も作り、米通に来てもらえるようなツーリズムも計画している。

米通の“応援団”となる人々を全国から受け入れる「会員制村民登録制度」を導入し、この土地で採れた山菜やお米、おばあちゃんたちの手作り米通味噌を贈ったり、気軽に泊まれるようにもしたいと考えている。

多田さんと共に米通地区のキーパーソンとなる人を訪ねた。

「何をやるにも、この人がいないとダメ」と多田さんも絶大の信頼を置く佐々木正子さん、75歳。ご主人は80歳で、みんなから“長老”と呼ばれている。

飼っている牛の世話、田んぼや畑のこと、村の行事のあれこれ。「米通になくてはならない、マドンナかつリーダー」の正子さんは、いつも忙しい。

多田さんが連れてくる外の人々には、地元で採れる食材でおもてなしする。スドケ、ヨモギ、コシアブラ、タラの芽、ミズ、イタドリ、タンポポといった山菜だらけの食卓は、ここでしか食べられない当たり前だけど特別なもの。また、ご主人が育てた牛から搾ったおいしい牛乳や、それを使ったチーズ作りにも挑戦したいと話す。

食堂兼加工場は、長老をはじめとする米通のおじいちゃんたちでセルフビルド。土台となる杭や木材は、おじいちゃん2人で山に入り、あっという間に伐採し、製材した。そこへ、余っていたプレハブを自ら解体して運び、組み立てた。厨房の機械もすでに搬入済みで、いつでもスタートできる状況だという。

「若い人たちなんかよりも、技術がある人たちばっかりだから、我々はサポートするだけでいい。苦手な部分を補って、手伝いをしながら、地域のことを一緒にやっていく。それだけでスピードがあがっていきますから。開発の企画会議は、毎回お酒を飲みながら、『これいいんじゃない?』『あれいいんじゃない?』っておしゃべりしながらやっています。だんだん酔いも回っちゃうから10分が限界(笑)。最高ですよね」

この食堂兼加工場では、さまざまな加工品のほか、どぶろく特区を申請し、ここで採れる米を使ったどぶろく造りも計画している。現在は「遠野まごころネット」の加工場を使用しているが、商品開発、食材の生産から加工まで米通ですべてまかなう予定だという。

集落でひとつの会社に。未来へ向けた持続可能な集落のあり方を探る

いずれは、「地域の人が従業員となり、ひとつの会社にしたい」と多田さんは考えている。儲けを出すことよりも、この土地にある要素を商品にし、事業を起こすことで、集落を維持することに意義があると考えているからだ。

「法人を作って、ひとつの限界集落を会社にしたいと考えています。普通の企業であれば、人件費も設備投資も必要だから、稼いでいかないと成り立ちませんが、この会社の場合であれば、1人あたり3万円でも5万円でも、生活の足しになればいい。80歳のおばあちゃんでもやれるように、米通の人たちの“生き甲斐”になるように運営していくことが大事なんです」

このプロジェクトの舞台は米通。だから、まずはこの地区に住むことになる。そのための家もすでに用意されている。場所は、80歳になる元気いっぱいの米通はつこさん宅の敷地内。プレハブの住居で個人のスペースを確保しながらも、いつも気にかけてくれるはつこさんがそばにいれば、初めての遠野暮らしも安心できるだろう。

「ここで求められるのは、マルチタスクです。自分に何ができるのかを自分で捜してほしいですね。ハートのある人なら何でもできるはず」と多田さん。

「いま動き始めたさまざまなプロジェクトを軸に、いろんなものを組み込んで、おもしろくしていってほしいから、いろんなアイデアをもってきてほしい。『これをやりましょう!』という押しつけじゃなくて、みんなで話し合って、おじいちゃん、おばあちゃんがついてこられるように。むしろ、米通の人たちからケツ叩かれるような感じの方がいいんじゃないかな(笑)」

まず、一軒一軒お宅をまわり、昔話を聞いていく。そして、みんなで話をする。日常生活のなかでそれを繰り返しながら、何が必要なのかを発見していく。

「まずはかわいがってもらうことだよね、僕みたいに」と言いながら多田さんは笑った。

「みなさんすごく明るいし、受け入れてくれる土壌があるから、きっと大丈夫。かつて米が通る中継地だったからか、考え方が先進的。動くものを見て来た人たちだから、受け入れる懐の深さがあるんでしょうね」

“限界”だと決めつけているのは外野なのだということを実感する。そこにいる当事者たちは、限界だなどという言葉をはねのけるようにパワフルで、元気だ。

「『地域づくり』って、よく言うけれど、この言葉があまり好きじゃないんです。突然誰かが外から来て、地域はつくられるものじゃない。地域には、弱い人や、子ども、おばあちゃんたちもいて、そういう人たちが一緒に住んでいるわけだから、住民みんなで一緒に何かをやるってことが、本当の地域づくりなんだと思うんです」

1人1人がどういう人で、どういうスキルを持っているのか、まずはそれを把握しながら、住民が何を求めているのか、希望を一つひとつ聞いて、それを実行していく。正直なところ、時間はあまりないかもしれない。スピードが求められる現場だから、ある程度の実行力が求められるだろう。

米通の、なくてはならい22人目の住民に、ぜひとも加わってほしい。

TEXT:薮下佳代

限界集落株式会社について


【Next Commons Lab 説明会】

第四回 6/17(金)19:00〜

会場: sharebase.InC

(愛知県名古屋市中区錦1-15-8 アミティエ錦第一ビル6F)

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