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働く人と社会と地球に「善い地域企業」〜「公共善エコノミー」と自己組織化組織がひらく未来


はじめに

私たちNexTreams合同会社は、人と組織の新しい進化を支援するサービスを提供しています。ホラクラシーを活用して「自己組織化組織」(ティール型組織)の導入・支援を行っています。

私たちがこうしたサービスを提供している理由は、私たちの組織の持つパーパスに由来します。私たちは新たな領域に進み、健やかな可能性をコミュニケートしていくことを通し、人間性を新たなレベルの健やかさに上げていくことを掲げています。
いわゆる「自己組織化組織」はそうしたパーパスを実現するために適したサービスですが、より本質的には、そうした人と組織が拠って立つ社会がより健やかさを高めていくことを目指しています。人が傷んでしまう組織が存在する社会の中で、私たちはどうすればいいのか?

この問いに対する有効なアプローチとして私たちは「公共善エコノミー」に着目しています。

この投稿では、「公共善エコノミー」と自己組織化組織との親和性・関連性に着目し、働く人と社会と地球に「善い地域企業」が開く可能性について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

「公共善エコノミー」とは?

「公共善エコノミー(Gemeinwohlökonomie、英訳Economy for the Common Good)」は、学者、作家、政治活動家、ダンサーでもあるオーストリア・ウィーン在住のクリスティアン・フェルバー(Christian Felber)が提唱した、公共の幸福(いわゆる公共善(Common Good))を目的とする「倫理的な市場経済のコンセプト」です。 

クリスティアン・フェルバーは同名の本を出版し、14か国語に翻訳されロングセラーとなっています。また、欧州・南米を中心に広がりを見せています。日本でも、2022年12月には森林コンサルタントの池田憲昭さんが翻訳出版し、徐々にその名前が広がっています。

(参考)「公共善エコノミー」(クリスティアン・フェルバー (著), 池田憲昭 (翻訳)、鉱脈社刊)

(参考)TEDXTalks:クリスティアン・フェルバー

「公共善エコノミー」は、「理論・コンセプト(Theory of Change)」「具体的なアクションと仕組み(Movement)」「インパクトを実現する民主的なプロセス(Democratic Process)」が組み込まれている包括的(ホリスティック)でオルタナティブな経済コンセプトです。

この経済コンセプトは、まず「経済とは何か」について、クリスティアン・フェルバーは、政治学、心理学、社会学、文献学など、1つの事象をいろんな学問から多角的に見て再定義しています。

そもそも、エコノミー(経済)の語源は古代ギリシア語の「オイコノミア」ですが、この言葉は「oikos(家)」と「nomia(規範)」から来ており、家の道徳規範・家計を示しています。対して「クレマティスティケ」という言葉もありますが、これはお金や利益を増殖する技法のことを指します。
アリストテレスはすでに2300年前に、この「オイコノミア」と「クレマティスティケ」という2つの経済形態に区別し、全ての参加者の幸せ、すなわち公共善が目的で、お金と資本は手段であり、これが逆にならないように助言していました。

しかし、現在の資本主義市場経済では正にこの逆のことが起こっています。このことは富の蓄積を促し様々な恩恵を人類に与えてきた半面、人間尊厳や持続可能性、正義、デモクラシーといった人間としての理念・価値を毀損してきたことも事実です。

そこで「公共善エコノミー」では、何のために経済があるのかを考え抜き、人間本来の幸せの形に戻そうとしているのです。その上で、これまでの経済と倫理・感情・デモクラシー・自然が切り離された状況から「人間尊厳」「連帯と正義」「エコロジカルな持続可能性」「デモクラシー」といった価値をベースに「公共善(Common Good)」を目的としているのです。

「公共善エコノミー」の具体的なアプローチ

では、この「公共善エコノミー」を進めていく具体的なアプローチを紹介していきます。それが「公共善決算(バランスシート)」と呼ばれるものであり、企業や団体の経営評価システムを備えた具体的で実用的なものです。

これは「公共善」に対する企業の貢献度を見える化するツールとして「公共善マトリックス」を活用して「公共善決算」を行います。決算により取り組みが数値化されることで、人々は企業の貢献度合いを見て、比較することにより、購買活動などに活かすことができますし、行政的には、税制優遇や公共調達での加点等の仕組みに使われる可能性も見据えられています。

公共善決算」の有効期限は2年で、コンパクトバージョンとフルバージョンがあります。公共善コンサルタントのサポートを受けながら作成し、本格的に外部監査を受け認証を受けるレベルから、簡易に作成するレベルまで選択できます。また自社独自で作成するか、地域企業のピアグループ・複数で作成するかの選択もでき、それぞれの事情に合わせて取り組むことができます。

「公共善マトリックス」は現在バージョン5.0まで改訂されています。20項目に対して、それぞれ評価していくことが可能です。

(参考)「公共善マトリックス5.0」

公共善マトリックス5.0

現在、公共善エコノミーを推進する団体「Economy for the common good」があり、会員4500人・団体のうち、企業は世界で約3000社です。そのうち約1000社がすでに、公共善決算を作成し、公表しており、さらに広がっています。
日本でも、世界の実践運動とつながるための「公共善エコノミーJAPAN協会」の設立に向けて準備が始まり、同時に「公共善決算」のワークブック翻訳と実践モデル事業を、今年度後半で行う予定で進んでいます。

(参考)公共善エコノミーJapanのご案内(池田さんのブログより)


地域企業が「公共善エコノミー」に取り組む利点とは

では、地域企業が公共善エコノミーに取り組む上での利点とは何でしょうか。私たちなりに考え、以下の5つにまとめてみました。

1)社会課題の解決・より良い社会の構築と自社利益との調和が図りやすい
「公共善マトリクス」では、「人間尊厳」「公正」「サスティナビリティ」「透明性と民主的意思決定」などの価値から、各ステークホルダーとコミュニケーションをとりながら、どういう関係性・活動があり利益を上げてきたかを見ていきます。このため、自社利益を求めていくなかで、自然と社会課題解決やより良い社会との構築といった活動にコミットメントしていくことが可能になります。

2)日本文化・日本的経営との親和性
「公共善エコノミー」は、中央ヨーロッパで発生した新しい経済コンセプトですが、日本文化や「日本的経営」の価値との親和性が高いといえます。「公共善エコノミー」の翻訳者の池田さんがブログでも紹介していますが、たとえば、相互扶助の精神である「」、近江商人の経営理念である「三方よし」(=売り手よし、買い手よし、世間よし)などです。こうしたお金・資本では表現しにくかった本質的価値を、共通言語としての「公共善エコノミー」を通して表現することができます。

(参考)日本文化との親和性について(池田さんのブログより)

3)従業員との一体感の醸成が図りやすい
「公共善マトリックス」の取り組みには、経営者のリーダーシップ・コミットメントはもちろんのこと、従業員との理解も必要になります。「公共善マトリックス」のなかでの指標にある「職場における人間尊厳」「雇用契約」「従業員の環境行動」「意思決定と透明性」などの取り組みを進める中で、結果として経営理念や方向性と従業員の意識の調和・一致が進んでいきやすくなります。

4)地域企業との連携が図りやすい
「公共善エコノミー」では顧客・社会といったステークホルダーとの関わりと同じく、他企業との関係性についても重視しています。これは資本主義市場経済で陥りがちな過度な競争から、協働・連帯志向へのシフトにより社会構造全体の最適化を図っていくことを目指しているからです。

5)持続可能性が高まりやすい
「公共善マトリックス」という共通文脈・共通言語を持つことにより、コミュニケーション・連携・協力がしやすいというメリットもあります。地域社会という生態系を育てていくことにもつながり、結果的に地域企業の持続可能性が高まることも期待されています。

「公共善エコノミー」と進化型組織の親和性

近年、機械論パラダイムを主にした伝統的な階層型(ヒエラルキー)組織に代わって、生命論パラダイムを主にした環境変化に適応しやすく持続可能性や社会的価値を追求するための進化型組織が注目されています。こうした組織はティール組織自己組織化組織と呼ばれ、ホラクラシー・ソシオクラシ―などの具体的なアプローチ・手法が存在しています。

進化型組織では、「パーパス志向」「セルフマネジメント」「人の全体性」「学習する組織」「透明性」などの共通した特徴があり、「公共善エコノミー」での価値・指標と親和性が高く、実際に「公共善エコノミー」に取り組む欧州企業では、進化型組織形態を持つ企業が多い傾向にあります。

これは、「公共善エコノミー」がホリスティック(包括的)なアプローチをとっており、進化型組織の生命論パラダイムと原理的に同様のものであるためです。

NexTreams合同会社では、進化型組織についてより原則的に「自己組織化組織」と呼んでいます。いわゆる生命原理である自己組織化の原理に従い、相互作用やルールに従って自らセルフマネジメントし、人の全体性を保ちながら、自発的に秩序や構造を形成して目的(パーパス)に向かっていく組織を意図しているからです。

こうした「自己組織化組織」に進化していくことで、組織におけるイノベーションの創発や、意思決定の速度を上げることが可能です。

特に意思決定においては、個々の納得度を保ちながら全体最適を図っていく方法論を持っています。「公共善エコノミー」では「システミックコンセンサス」、進化型組織(特にホラクラシー)では「統合的意思決定プロセス」と呼ばれるものです。アプローチは違いますが、いずれも組織内の個々の人が感じる「テンション(抵抗・緊張)」をリソースとして進化・成長に活用している点では共通しています。

こうした「公共善エコノミー」と自己組織化組織がひらく未来に、働く人と社会と地球に「善い地域企業」が育っていくことでしょう。

ワークショップのご案内

NexTreams合同会社では、「公共善エコノミー」と自己組織化組織の新しいアプローチにおけるイントロダクション・ワークショップを開催予定です。

1)ワークショップタイトル
  「働く人と社会と地球に「善い地域企業」〜「公共善エコノミー」と   
   自己組織化組織がひらく未来」
2)開催日時:10月24日(火)13時ー16時
3)場所:京都TRAFFFIC(〒600−8103 京都府京都市下京区塩竈町363      ウエダ本社北ビル2F、TRAFFFIC – inter-local WORK STATION

NexTreams合同会社について

2020年12月に、石井宏明、桑原香苗、安田健一、山田希の4人で立ち上げました。
この世界で本当に大切な願い(パーパス)を実現したい人と組織のために、ティールレベルの組織環境の生成と、そこで働く人が新たな環境に適応してさらに成長できるようなサポートを行なっています。
HP:https://nextreams-llc.com/
Facebookページ:https://www.facebook.com/nextreams                               メールアドレス:contact@nextreams-llc.com/nextreams@gmail.com

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