らくがき「ひからない」


2023.4.23

 ひからない、ひからない、ひからない

 光は明るくて、眩しくて、速い。どこかの神様とやらは世界を作るとき、はじめに光を作ったらしい。そんなものは、無い方がいい。きっと、無い方がいい。

 椅子に光が当たっている。椅子は光っていない。産毛に光が当たっている。産毛は光っていない。ピアスに光が当たっている。ピアスは光っていない。友達に光が当たっている。友達は光っていない。光っていないのに眩しくて、光っていないことが愛しいと感じた。そう思えている気がした。それは特別なことだと思い込んだ。光らないことが愛しかった。午後四時は、少し早いけど帰る時間。あの光は、まだ夕日じゃない。夕日じゃない光が当たっている、ビニールで形成された人形の腕は無様に曲がっている。曲げられている。人形はペイントされた笑顔のまま、デザインされた笑顔のまま。人形に光が当たっている。人形は光っていない。マツリカは、何も見ない。マツリカは、光る。

 「見たことは無いです」なんて言わなければ良かった。光る虫なんて、虫が光っているところなんて、見たいわけじゃなかった。見たいわけがなかった。明日なんて、来なければ良かった。朝焼けなんか、朝日なんか、光なんか、私なんか、虫なんか、生まれなければ良かった。産まなければ良かったのに。だって私は飛べない。だって私は光れない。だってマツリカはもう友達じゃない。私はいなくても良いし、いないほうが良い。私の椅子は無くても良いし、無い方がいい。光は無くても良いし、無い方がいい。何もかもは光れない、何もかもに惹かれない。私は地平線を、朝焼けを、神様を、星座を、茉莉花を、蛍を、見ない。私は光らないことを、何より愛していた。

 あなたや私が生きづらいのは、愚かな人々のせいです。あなたや、私のような。そうでしょう?
 あなたも、私も、光らない。そうでしょう?


2023.4.27

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