らくがき「オフホワイト」


2023.9.28


 外から帰ったら手を洗う。汚いものを触ったら手を洗う。きれいになるまで手を洗う。
 君が見ているから、手を洗う。

 死んだ人は、星に、星座になる。光って、終わって、また光って、そうしていつか私以外のみんなのためのくだらないくだらない物語になってしまう。君は、なってしまった。夏も、夜も、夢から覚めたみたいに、魔法が解けたみたいに、砂糖が溶けたみたいに、いつの間にか終わってしまって、天使の羽を引き毟っているうちに、かしこいAIにキスを迫っているうちに、君は死んだ。死んだ、ということになったらしい。灰になったらしい。灰と、光だけを遺して、いなくなったらしい。たった一人で、遠くへいってしまったらしい。それだけの、お話。

 これは、いつか君に渡すために作った花束だ。君の誕生日のために作った花束だ。白い、白い花で編んだ、両手で抱えきれないほど大きな花束だ。白くてきれいな君にぴったりな、きれいな白い花だけを集めて作った花束だ。きれいな白い、大きな花束だと、思っていた。なにもかも全部、砂糖で味付けされた、真昼の甘い夢だった。
 最初から手遅れだった。だって白い花は、夏も夜も終わってしまって、すっかり黒くなってしまった。たくさん集めた白い花の、花の色は、白じゃなくてオフホワイトだった。最初から、白い花なんてどこにもなかった。これは、花束じゃなくて、行き場を失った感情を定義するための言葉の葬列だった。
 君の誕生日は本当は今日じゃなかった。君のことなんか本当は何も知らなかった。なにもかも全部、始まる前に終わってしまっていて、それでも、終わるまで、死ぬまで、ずっと、光って、光って、光って、生きていてくれて、ありがとう。それだけの、お話。

 ハッピーバースデー トゥーユー

 花束なんか、要らないよね。

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